著・もんがらかわはぎ
◆おまけ劇場「片づけのいいんちょ」第1話◆
<ある秋の日曜日のことである。もんがら家のインターホンを押す一人の女の子の姿があった>
ぴんぽーん
『はいはーい』
「こんにちはー。保科と申しますが、かわはぎくんいらっしゃいますか?」
『あ、いいんちょ。出かける支度、まだできてないんだ。玄関は開いてるから、とりあえず入って』
がちゃ
「こんにちは、もんがらくん」
「いらっしゃい、いいんちょ」
「玄関の鍵開けっ放しなんて、不用心やねえ」
「いつも開けてるわけじゃないよ。そろそろいいんちょが来ると思って、あらかじめ開けておいた
のさ」
「それにしたって、不用心なことに変わりないわ。押し売りでも来たらどないすんねん?」
「以後気を付けます」
「ほんまに気ぃつけんとあかんに」
「ま、とにかくあがってよ。他に誰もいないから、遠慮しないで」
「ほな、おじゃまします」
「じゃ、2階のマイルームに…」
「あ、もんがらくん、玄関の鍵!」
「いけね、忘れてた!」
「大丈夫なんやろか…。この先めっちゃ心配やわ…」
<第2話へ続く>
◆おまけ劇場「片づけのいいんちょ」第2話◆
<前回までのあらすじ・一緒に出かける約束で、もんがら家に来たいいんちょ。しかしもんがらの
出かける支度がまだ終わっていなかったので、とりあえず家に入ることに…>
「さ、ここがマイルームだから、出かける支度が済むまでくつろいでてよ」
「ほな、そうさせてもらうわ」
がちゃ
「…もんがらくん! なんやのここ! 物置とちゃうん?」
「す、少し散らかってた、かな?」
「これで『少し』? これを『少し』いうなら、今の辞書は全部書き換えなあかんわ!」
「それでもちょっとは片づけといたつもりなんだけど…」
「到底片づけたようには見えへんわ! もんがらくん、前から大雑把なところがあるとは思てたけ
ど、これじゃ『大雑把』通り越して『ずぼら』以外の何者でもないわ!」
「あうあう…」
「もんがらくん、もうちょっときちんとしたほうがええんとちゃう?」
「う…」
「授業中に指されたときも、うちに頼ってばかりやし」
「うう…」
「もう授業中に教えたりせえへん方が、もんがらくんのためかもな」
「そんなぁ(それは困る!)…そ、そうだ、いいこと考えた! 協力してよ、いいんちょ」
<第3話へ続く>
◆おまけ劇場「片づけのいいんちょ」第3話◆
<前回までのあらすじ・もんがらの部屋の汚さにあきれたいいんちょは、もう授業中にも助け船を
出してくれないという。窮したもんがらは「いいことを考えたから協力して」と言うが…>
「いいことって、なんやの?」
「明日からここで勉強を教えてよ」
「え? うちがもんがらくんの部屋で?」
「うん。そうすれば、もう授業中にいいんちょに訊かなくてもよくなるでしょ」
「うちはええけど、もんがらくん、ちゃんと続けられるん?」
「大丈夫さ。それに、いいんちょと一緒にいられる時間も増えるしね」
「え…(ぽっ)」
「(そしてふたりっきりで雰囲気が盛り上がったところで一気にだーっと…)」
「もんがらくん、何か言うた?」
「い、いいえ! 何も言ってませんよ、何も!」
「そう? なーんか目つきが怪しかったんやけど」
「気のせい気のせい(さすがいいんちょ、鋭い!)」
「ま、明日からのことは置いとくとして、まずはこの部屋を片づけんことにはどうにもならんわ」
「…ごもっとも」
「うちも手伝うさかい、早いとこ済ませてしまお」
「うん、いいんちょ、ありがと」
<第4話へ続く>
◆おまけ劇場「片づけのいいんちょ」第4話◆
<前回までのあらすじ・下心混じりでいいんちょと勉強をする約束を取り付けたもんがら。そして、
いいんちょの協力を得て部屋の片づけは開始された>
「それにしても、とても人の住む部屋とは思えんわ。この散らかしようは腐海並みやねぇ」
「別に散らかしてるつもりはないんだけど…」
「現に散らかっとるやん!」
「知らないうちに勝手に散らかってくんだよ…って、なんでもありません」
「はぁ、なんでせっかくの休日に部屋の片づけなんかせにゃならんの…」
「ううっ、いつもすまないねぇ」
「なんやて?」
「わしがこんな身体でなかったらねぇ」
「それは言わない約束でしょ…とでも言うと思うとるんかーい!」
スパーン!(←ハリセンツッコミ)
「あたた。い、いいんちょ、ハリセンなんか一体どこから?」
「机の脇に落ちとったんや。何でこんなところにハリセンがあるん?」
「あ、それ、修学旅行で志保と漫才をやったときの小道具だ」
「なんや、あんときのかいな…って、もんがらくん、修学旅行から帰って以来、部屋片づけとらん
の!?」
「う。そ、そうかも…」
スパーン、スパーン、スパーン、スパーン!
「いたたた、痛いよ、やめて、ごめん、いいんちょ」
「4ヶ月も部屋をほったらかしにしとくなんて、あきれてモノも言えんわ!」
「め、面目ない…」
「ほら、そんなところで呆けとらんと、さっさと部屋片づける!」
<第5話へ続く>
◆おまけ劇場「片づけのいいんちょ」第5話◆
<前回までのあらすじ・4ヶ月も片づけをさぼっていたことが暴露され、いいんちょはもんがらを
ハリセンでひっぱたく。こうして鬼軍曹いいんちょ指揮の元、片づけが行われる…>
「ほな、うちはパソコン周りを片づけるさかい、もんがらくんは勉強机とその周りを頼むわ」
「アイアイサー」
「…もんがらくん、『サー』は男性に向かって言う敬称やろ?」
「そ、そうだったっけ?」
「はぁ(溜息)、明日からの勉強、とーーーっても教えがいがありそうやねぇ」
「お、お手柔らかにお願いします、いいんちょ」
かたかた、ごとごと、ぼそっ
「あ、ゴミ箱がいっぱいやね。もんがらくん、ほーってきてくれる?」
「判りました。お姫様」
「誰がお姫様やねん」
「今、目の前にいる麗しい女性。じゃ、ゴミ捨てに行って来まーす」
がちゃ、ばたん、ぱたぱたぱた…
「なんでもんがらくんはああも人をからかうのが好きなんかねぇ。うちがお姫様? 全然似合わん
わ。…ほならもんがらくんは王子様? ぷぷぷ、もっと似合わんわ。…でも、“うちだけの王子様”
かもしれへんなぁ(ぽっ)」
ばさばさ、とんとん、がたがた
「それにしても、よくここまで散らかしたもんやねぇ、うちの王子様は」
かたん
「ん? 何やろ、これは?」
<第6話へ続く>
◆おまけ劇場「片づけのいいんちょ」第6話◆
<前回までのあらすじ・もんがらがゴミ捨てに行っている間に、いいんちょはパソコンの周りで何
かを見つけたようだが…>
ぱたぱたぱたぱた、がちゃ、ばたん
「ただいま、いいんちょ」
「………」
「わあ、パソコン周り、ずいぶん綺麗になったね」
「………」
「ん? いいんちょ、どうしたの?」
「………」
「あの〜、いいんちょ〜。もしもし〜?」
「………」
「あれ、寒気でもするの? なんか肩が震えてるみたいだけど」
「………」
「熱冷ましでも持ってこようか? それとも少し横になる?」
「もんがらくん」(怒りに震えた声)
「は、はい?」(ちょっと冷汗)
「ちょっと訊きたいんやけど」(地の底から響くような声)
「な、なんでしょう?」(思わず後ずさり)
「なんやのこれは〜っ!!」
「あ、そ、それは!」
<第7話へ続く>
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