台北旅行 その1

平成14年12月5日〜8日

九イ分の茶屋にて

12月5日

午前3時頃に一度目が覚める。3時間くらい寝ただろうか。電車は沼津駅に停まっていた。
到着まで後1時間半ほどあるので、もう一度寝直そうと思った。しかし、湿度と気温の高い車内の状態と腰痛、それに右斜め前にいた、あからさまに挙動不審なデブが気になってしまう、どうも眠れなかった。このデブ、上下ジャージという変な格好で、通路に顔を出してはしきりと前後を見渡す。掏りか置き引きかとも思ったが、これといった悪事をするわけもなく、そのまま終点の東京駅で降りて行った。トイレに行きたかった、とも思えないし、今でも謎である。

午前4時40分過ぎに東京駅着。挙動不審のデブを付けていこうかとも考えたが、時間が無いので地下ホームへ移動、午前5時発の成田空港行き快速に乗る。ただこの列車、普通座席が全て通勤用の横向きだったので、1000円ほど払ってグリーン車に乗る事にする。
人も居ない2階建て車両の2階で座席を深く倒し、成田空港までの1時間半ほどをゆっくり眠ろうとしていたところ、錦糸町辺りで若いカップルが乗ってきて後ろ方の席に座る。そしてこのカップルの、特に男の方がやたらと喋り、しかも程度の低い突っ込み所満載な話しかしないため、嫌になって席を移動する。幸い2階建て車両の両端はコンパートメントのように独立した空間になっている為、それ以上邪魔される事も無く成田空港まで行くことが出来た。


午前6時半頃に成田空港着。集合時間は7時40分なので、1時間以上も時間がある。仕方が無いのでベンチに座って本を読んで過ごす。
午前7時半頃、カウンターに上がる。20分ほどで、一緒に行くメンバー全員と落ち合う。これまで何度と一緒に海外に行っているM谷さん、O矢さん、O村さん、それに今回初めて一緒に海外に行く事になる社長(本当に会社社長をやっているわけではない)の、総勢5名である。申し込みをしてチケットを貰い、チェックイン。それから、喫茶店で簡単な朝飯を摂る。
午前9時過ぎに出発ロビーに移動し、搭乗。チェックインの時間が遅かったので真中の席である。ともかく無事に離陸。

しばらくして機内食が出てくる。チキンかビーフと言われたのでビーフを選択したら、牛丼が出て来る。牛肉が多くて吉野家のものよりかは増しだったが、と言って機内食で牛丼と言うのも何である。

スチュワーデスは中国人と日本人で半々くらいだったが、中国の人で一人、えらく奇麗な人が居た。奥菜恵と香取慎吾を足して二で割ったような顔立ちで、背も高い。ただ、いかんせん胸が無かったのが珠に傷であるが、狭い機内で活動するのに大きな胸は邪魔なのだろう。いや、無くてもいいや。
やたらとドリンクを要求してみるが、間近で眺める美人というのは良いものである。

空中分解もハイジャックも謎の消失も起こることもなく、無事に台北空港に到着。ロビーで待っていた現地添乗員のお姉さんと合流して、免税店経由でホテルへと向う。
この添乗員は日本留学していた時に、北寮に出入りした事もあるそうで、何とも奇妙な縁である。しかし、北寮に入り込んで一体何をやっていたのか。


15時過ぎにホテルにチェックイン。ホテルは台北駅のすぐ脇にあり、鉄道と地下鉄が使えて、交通の便が非常に良い。荷物を置いて、夕食までに簡単な観光をしようと外へ出る。
まずは有名な衛兵交代を見ようと、中山公園へと歩いて向う。

気温は24℃で、長袖を着ているとちょっと暑い。道路にはスクーターが群で走っており、排ガスで空気は悪い。また交通マナーは中国本土までとは言わないまでも、ここも余り良くない。横断歩道の渡り難さに戸惑いながら公園へと向う。




週末に何かのイベントがあるらしく、公園内では儀丈兵がマスゲームのようなものを生バンド付で練習していた。一般市民が見物していたので混じって見物。それから巨大蒋介石像のある場所へ行く。有名な蝋人形のように動かない衛兵を見ることは出来たが、肝心の交代式は、最後の交代が終わってしまった後だったので見られなかった。


それから日も暮れてきたので、夕飯を食う飯屋へと移動。鼎泰豊という小龍包で有名な店で、着いたのは午後5時半だったが、すでに店は客でいっぱいだった。予約クーポン券を見せて店に入る。



キャベツの漬物、黒豆腐ともやしの炒め物、酸束湯(酸っぱくて辛いスープ、字が無い)、空芯菜の炒め物、小龍包、海老餃子、野菜餃子、謎の小龍包(蟹入り?記憶が無い)、海老炒飯、海老焼売、蒸し餃子、胡麻饅頭。
端から端まで美味かった。特に小龍包と空芯菜の炒め物とが良かった。只の油炒めなのに、どうしてここまで美味くなるのか。これが味の素の威力か。
クーポンで注文しているので、1,2割はマージンとして取られているとしても、まあそれはそれで良いかと納得する。値段は一人あたり日本円で2500円と、5人分のビール代が400NT(1600円くらい)。日本で食う事を考えたら安いものである。

高校時代に、中国本土で貧乏旅行をして以来の中国旅行である社長が、飯の美味さに感動していた。生きていて良かったと神妙な事も言っていたのに対し、美食経験者一同で、いやいや明日も明後日もまだまだ美味しいものが続きまっせ、ぐっふっふ、などと和やかに食後の歓談をする。ところが、このひと時を邪魔するように、店員がやたらとテーブルに来てはまだなのかというジェスチャーをして帰って行く。食後くらいゆっくりさせろよと腹が立ったが、初日から喧嘩をしても仕方が無いということで、店に入ってから1時間足らずで店を出る。
外に出ると、えらい人混みだった。もう1時間遅く来ていたら、かなり待たされたかもしれない。


↑小龍包の店の前の混雑ぶり




左:あずまんがの中国版のポスター、右:ポスター群

食後の散歩を兼ねて、大型の本屋へと向う。途中、小さな漫画専門店を発見したので寄って見る。少年漫画、少女漫画は言うに及ばず、エロ漫画までが翻訳、出版されているのには驚いた。中には日本で探しているのに見つからない(エロ)単行本もあったが、さすがに台詞が読めないと意味がないので止めておく。代わりに安永航一郎の「ジオン体育大学(同人誌)」の単行本を購入。航一郎の航の字が「肛」に代わっている辺り、洒落が利いていて面白い。音が無い為か、先に出版されたアナルマンにかけて改名したのか分からない。ここまで堂々と出版していると言う事は、作者本人も同意の事なのだろう。

結局目当ての大型本屋そのものは見つからず、夜市を見に地下鉄に乗って龍山寺へと向う。台湾の寺は、日本の寺とは違って金色と赤色で飾り立ててあって絢爛煌びやかである。ただ、老いも若きも長い線香を持って熱心に参拝している様を見て、写真を撮り難くなってしまった。



左:龍山寺境内、右:龍山寺夜市

寺を見た後、近くにある夜市に行く。色々な食い物屋が立ち並んでいて美味しそうだったのだが、先ほどの小龍包の店で腹一杯に食った直後だったので、残念にも何も食えずに通り過ぎるだけとなる。

今回の旅行期間が丁度統一地方選と重なっていたこともあって、これまでにもあちこちで派手な幟やビラ配り等の選挙運動を見かけたが、ここで出会った候補のものは、山車で太鼓を乱打しながらロケット花火を猛射して候補者の名前と番号(投票しやすいように候補者には通し番号が振られている)をアピールするという、日本の選挙戦とはスケールの違う派手な選挙運動だった。票さえ集まればそれで良いのかと呆れてしまうが、何しろ国会で流血の乱闘をするような国なので仕方が無い。


そこからもう一つ横のの夜市へ向う途中に、交差点で辻の君を見かけた。かなりの美人だったので、それはそれで驚いてしまう。一応値段だけでも聞いてみれば良かったかとも思うが、金も無いので止めて置いて正解か。

こちらの夜市は一般人向けのもので、食い物と生活用品の店しかなく、といって折角来たのに何も買わないのも何だったので、袋詰の梅干菓子と、屋台で焼いていた腸詰を購入。腸詰はちょっと生焼けっぽかったけど、美味しかった。腹を下したらその時だと腹をくくって食う。

時間も遅くなったので、ホテルへと戻る。帰り道に、ホテルに最寄の地下鉄駅付近で深夜営業している本屋を見つけたので入ってみる。
日本の雑誌等も多く入っており、中には日本語そのままのものも置かれている。色々と物色しながら、英語も併記されている料理の本を購入する。またこの本屋の隣の駄菓子屋で、邱永漢の本に出てきていた陳皮梅を購入。キャンディーみたいに個別包装になっていた。

部屋に帰って荷物を整理し、翌日の予定を練る。とりあえず平日の内に行ける事なら九イ分(チューフン。分にニンベン。面倒なのでこれからは九粉と書く)へ行こうという事になる。

風呂に入って、11時過ぎに就寝。
つい国内旅行の癖で寝巻きを持ってくるのを忘れてしまい、下着のまま寝る羽目になる。



12月6日


青葉の正面写真

午前8時からやっている、「青葉」という台湾料理屋へ朝飯を食いに行く。開店時間よりも15分も早く着いてしまったが、店の中で待たせてもらえる事に。



蚋仔(生の蜆の醤油ニンニク漬け)、大根の卵焼き、魯肉(豚の角煮)、蛙の炒め物、牡蠣入りのお好み焼き、鮑入り粥、豆腐の炒め物。
以上5人分で1901NT。一人当り1600円ほど。
ここも美味かった。蜆の醤油漬けや牡蛎のお好み焼き等、当ると怖いメニューもあったが、美味しいので皆食べてしまう。

それから台北駅に向い、瑞芳行きの切符を購入する。指定席は復路しか取れなかったが、勢いで切符を買ってしまう。他から本当に立ち席で行くのかと言われるが、言葉も通じないのに返金するのも面倒なので、強引に説得。往きは立ち席で行く事にしてもらう。

台湾の特急は全て指定席のみで自由席が無い。しかし日本の「のぞみ」の様に指定券が無いと乗れないと言う事も無く、立ち席特急券と言う事で乗車が可能だ。乗ってみると、ぽつりぽつりと席が空いていたので座ってしまおうかと相談したが、言葉が通じない事もあり、揉め事になっても面倒だと座らずに通路に立っている事にする。




立っていた傍の扉の一つが発車しても閉まらず、返って面白いと交代で扉の脇に座り、開いたドアから流れる景色を楽しむ。台北から瑞芳まで、1時間ほど立ちっ放しだったが、これはこれで楽しかった。

午前11時前に瑞芳に到着。ガイドブックによると駅前から金爪石行きバスに乗るのだが、バス停が見つけにくく、またやっと見つけたバス停に運行ダイヤが書かれていないので不安になる。それでも10分ほどでバスが来たので乗りこむ。前払いで一人19元ほど。
バスに乗って驚いたのは敬老の精神で、若い人が先を争うように老人に席を譲っていた。本土と同じく台湾も行列を作ろうとしないのだが、こう言うところは見習わなければならない。



左:九粉全景、右:商店街の入り口

隻行のバス停で下車。かなり標高が高く、また湿度が高いのか、向いの山に薄らとガスがかかっている。そして手前に広がる九粉の街を見ると、急な坂にびっしりと家がへばりついている。対照的で何とも奇妙な光景である。
この九粉という街は元々金鉱として栄えていたのが、廃鉱となった後に旅館街として栄えているそうだ。



狭い商店街へと入る。両側に食い物屋や土産物屋が建ち並んでおり、こう言う所は日本の観光地と変わらない。
しばらく歩き回って、社長が推していた茶屋に寄って休む。日本語での呼込みに多少不安も覚えたが、なかなか凝った作りの店で雰囲気も良かった。
ウエイトレスに案内されてベランダ前のテーブルに座る。100年程前の萎びた感じの部屋で、テーブルと椅子も相当な年代物で、雑な修理を重ねて使われている。テーブルの脇には火鉢があり、上に置かれた大きな土瓶では、炭火で湯がチンチンと沸いている。




注文をすると、ウエイトレスが茶芸のセットを持って来て、見本に一回ほどお茶を淹れてくれた。そして同じお茶葉で8回くらいまでは淹れられるからと言い置いて、下がって行った。
ではと、見様見真似で淹れてみるのだが、熱湯で熱くなった茶器が直接手で持てず、ペーパータオル等で茶器を掴んでお茶を淹れる始末。それを見かねてか、先ほどのウエイトレスが取っ手のある急須のセットを持って来て取り替えてくれた。茶っ葉をこれに移し換えて再度お茶を淹れ直す。


部屋は静かで、土瓶で湯が湧く音しかしてこない。
ベランダ越しに見える山にはガスがかかり始めている。炭の匂いがする。




その内、抹茶ケーキのような菓子と甘く漬けた梅干が出てきた。ケーキは焼き立てで熱く、バター(ラード?)もたっぷりで美味しいのだが、量が少ない。もう一つ頼もうかと言いながら、そのまま何も頼まなかった。

ひたすら、茶を飲む。

その内に、他にも客が入り始めた。一つ奥のテーブルには日本人のカップルが入り、隣の部屋やベランダにも、台湾人の家族が入っていった。
他の部屋を見に行ってみると、横の部屋は小さく仕切られた畳の部屋になっていた。まるで清時代の部屋みたいだった。下の階に行って見ると池に鯉が泳いでいる。どれも面白い。
ここで使っている茶器も売られていた。デザインの良さもあって欲しかったが、セットで2000NT(約8000円)と言われたので諦めた。
1時間ほどくつろいで、店を後にする。

一通り九粉の街を見終わったのだが、帰りの電車まで1時間半もある。しょうがないということで、もう一度メインの通りを初めから見直す事にする。

2回目は土産物の物色等が入り時間がかかった。他の人を待っている間、暇なので臭豆腐を食べてみたところ、矢張り臭くて閉口する。発酵で味に深みが出ているのだが、後味が臭いのは堪らない。納豆よりか性質の悪い、しつこい臭いである。これが病み付きになるという人の気が知れない。


臭豆腐の屋台


その内に時間になったので、バスに乗って瑞芳駅へと戻る。駅前のコンビニで鰻の蒲焼の缶詰(30NT=約120円)を見つけたので、これと牛乳を買って電車に乗る。
指定席だったのでくつろげたが、40分ほどだったのでゆっくり寝るというわけにはいかなかった。

午後4時半には台北駅に到着。ホテルには帰らずに、そのまま北京ダックで有名な店へと向う。お目当ての店のすぐ向いに、邱永漢が経営する本屋があったので、そこで時間を潰す。邱永漢の店だけあって、日本ですら見ないような著書まで殆ど揃えてあるのには笑えた。ここでも料理の本を購入。

北京ダックの店は、天厨菜館と言うえらく豪華な店で、気後れしてしまう。
名物の北京ダックを中心に注文。



ピーナツ炒め、イリコの醤油ピリ辛炒め、キャベツの漬物、青淋ロース、隠元豆の芽の炒め物、揚豆腐の餡かけ、烏賊団子の揚げ物、豚の内臓の炒め物、焼き餃子、小龍包、北京ダック、ダックの身、ダックで取ったスープ、そしてデザートに蜜柑と杏仁豆腐。

北京ダックそのものは美味しかったが、北京で食べたものの方がもう少しパリッとしていて美味しかったような気がする。1年半以上経っているので当てにならない記憶ではあるが。
また今日は空芯菜の代わりに隠元豆の芽の炒め物を注文したのだが、これがまた美味しかった。ただ油で炒めて塩と(恐らく)味の素で味付けしただけなのだが、あっさりとしていて美味い。以前に上海に行ったときも、一番美味かったのは菜っ葉と椎茸の炒め物だった。一体どういうコツがあると言うのだろうか。謎である。


腹も一杯になったので、近くにある、日本人向け土産物屋に寄ってみる。物は悪そうだがとにかく安いので、パイナップルケーキと小さな茶台を購入。パイナップルケーキは、免税店では10個入り320NT、ホテルの横のパン屋では150NTという相場の中で、80NTという破格の値段がついていた。激安である。良いものが見つかったと喜んでいたのだが、後日職場で食ってみたらあまりに不味く、周りから不評を買う。土産で金をケチるものではない。

一度ホテルに戻って荷物を下ろし、再び外出。お茶を買って、そのついでに展望台で夜景を見る事に。
新光三越ビルの南東辺りは、ちょっとした電気街になっていて、そこと書店街との間辺りにある、峰圃茶荘というお茶屋へと行く。
お茶に熱心なM谷さんとO矢さんが、店の人から色々と話を聞いていた。そのうちに、実際に味見をさせてもらうことになったので、だったらついでにと、他の3人も味見をさせてもらう。木をくり抜いて作られた大きな茶台で、次々に違ったグレードのお茶を淹れて飲ませてくれた。美味しいのは分かるのだが、どれがどれという区別まではつかない。せいぜいそのくらいの舌しかもっていないのだ。寮の部屋にはまだ烏龍茶が余っているのだが、箱が格好良いので100gで200NTのものを購入する。

またこの店の横には、日本のエロDVDを売っている本屋が有り、しばらく物色。O矢さんと社長が、安い安いと漁っていたが、日本で買うよりも半分も安くなっていたわけではなかったので、荷物になるだけだからと自分は止めて置く。

それから新光三越ビルの展望台へと向う。
新宿の都庁等と同じだが、こちらは料金を一人150NTほど取られる。



左:台北市街の夜景、右:怪しい集団

カップルがあちこちでいちゃつく中、5人の男集団が夜景をデジカメで撮り漁る姿は、さぞ異様だったに違いない。夜景は奇麗なことは奇麗だったが、ガスが薄っすらと出ていたのと、窓が汚れていたのとで、くっきりとした夜景にはなっていなかった。

ホテルに帰って、翌日の作戦会議。故宮博物館見物と買物と言う事に決定。午後11時過ぎに解散。
風呂に入り、12時前に就寝。Tシャツの安いのが見つからずに、今日も下着のみで寝る。



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