平成１０年９月号(Vol.11)

　気候不順な折柄、皆様には如何お過ごしでしょうか。体調を崩していらっしゃる方も多いのではないでしょうか。異常気象もこれから本番、ということでしょうかねえ。気を引き締めて油断なく、生活したいものです。忙しさにかまけて、コンポステラの発行も遅れがちで、セミナー案内も遅れてしまい、本当に申し訳なく思っています。１０月号こそ期限内に、と思っていますが、どうなる事やら、とにかく頑張ります。さて、不景気な話題が相次ぐなか、気持ちの良いお話を一つ。

　先日、とっても素敵なお婆ちゃまにお会いしました。９４歳になるというその方は、その家で代々お守りしてきた弁財天のお社をお守りするために６１歳で隠居して一人暮らしに入られ、３３年だそうです。都内の大地主で、庶民の想像を絶する現金収入もあるという恵まれた境遇にある方ですが、弁天様のお社をお守りして質素な小さい家で家族と離れてお暮らしです。勿論お年なので全てとはいきませんが、できることは御自分でなさっています。妻を亡くして子供三人抱えた２０歳も年上の方に嫁ぎ、舅姑を看取り、ご主人がお亡くなりになった後はその家を支え、前妻の長女に婿養子をとって一家を構えさせて後、家を譲り、弁財天をお守りしていた親戚の女性が亡くなったのをきっかけに隠居して今の生活に入られたのです。
　ご自分が亡くなった後、御家族の誰かに弁財天様を守っていって欲しいという念願が叶って、孫嫁が後を取ってくれることになり、弁天様の周囲の土地をその孫に、そして残りの財産を相続人全てに相続分に応じて相続させたいというご希望でした。あれだけの財産があっても、あるいはそれ故にこそ、ご苦労はあったかと想像されるのに、それでも全ての子供や孫に慕われている上品で幸せそうなお婆ちゃまで、お話ししているとこちらまで楽しい気分になっていました。
　弁天様のお守りをすることになった事情、毘沙門天様も合わせてお祀りすることになった事情、孫嫁が後を継いでくれることになった喜びなどを、本当に嬉しそうにお話下さるのです。宗教や教義を介さない人間本来に備わっている神様との素の語らいを、この東京で未だに留めている方がいらっしゃるんだ、とほとんど感動さえしながらお伺いしました。
　話の中で「私がお弁天様をお守りして、一体どんなお役にたったかは分かりません。もしかしたら私のお守りはお役に立たなかったかもしれませんが、お弁天様のお恵みは一杯受けてますのよ。」と本当に感謝を込めておっしゃった言葉が印象に残りました。このとっても素直な気持ちを、ご自分を世話してくれる子供さんやお孫さんのお嫁さんにも素直に伝えていらっしゃるのです。「本当にこの人のお蔭ですのよ。」と孫嫁におっしゃっている。「もう帰るの？また来て頂戴ね。今日は本当に有り難う。」と素直におっしゃるのです。このような素直な感謝の言葉が、ストレートに相手方に伝わり、相手を幸せな気分にさせて下さるのです。

　なぜこの話を持ち出したかといえば、このお婆ちゃまの「神様のお役にたちたい」というような気持ちを持つ人は本当に少ないな、と思うからです。「神様のご用をさせて頂く」ということは何も特別の人にだけ許された特権ではなく、本来ならば人の行動全てが「神様のご用」でなければならないと思います。そうすれば何かと面倒の種になる「我」がでることもありません。

　よく「何をすればいいか分からない」、あるいは「自分に何が向いているか分からない」などとおっしゃる方がいらっしゃいますが、みんな自分のことを中心にして、自分のことだけ考えているから分からないのです。するべき事は神様が与えて下さいます。あ〜でもない、こ〜でもないなどと「我」を振り回さずに、「神様のご用を勤めさせて頂く」つもりで目先のことに精一杯取り組めばいいのです。
　なんで人は悩むのでしょうか。それは暇だからですよ。そして自分のことしか考えないからですよ。
　上手くいっている事は自分の努力と自分の持っている運の良さのお蔭で、上手くいかない事は他人のせいと考える人の、なんとまあ多い事でしょう。このような人からは悩みや不足や不満が絶えません。
　悩みとは「汝闇」つまりその本人だけが暗い状態なのですね。心が暗かったら何も見えませんよね。だって目の前真っ暗なのですから。世の中までが暗く見えてくるものです。自分の事で心が一杯の人は他人の気持ちになんか気が回りません。その上暗い雰囲気を周囲に撒き散らすのです。

　「神様のご用をさせて頂く」、それが自分自身の意にそぐわなくても、あるいは自分が忌み嫌うことであっても、困難な事であっても。そのようなことをこそ、光栄に思って、必死で取り組めば局面が開けてくるのです。与えられたご用をたんたんと、しかし熱意を持って果たすことにより、私たちの能力は向上し、可能性は増し、自由の範囲が広がっていくのです。別に何も実際に神様をお守りする必要はないのです。「神様のご用にお使い頂いている」この心がけが大切なのです。
　これは私の実感なのです。何故なら、このことで私にも一つ分かったことがあったからです。私が前世でおかした失敗の原因と理由です。う〜ん、気づくのが遅いですねえ。その昔、とある国のとある地方で、私はその地方の総督をしていました。当時、私は自身の力で民衆を幸せにしようと考え、自分なりに最大限の善意と力を尽くしてその地方を治めていました。前回のコンポステラで述べた「使命感」ですね。でも、間違っていたのですね。本当なら、民衆の幸せのために「神様のご用をさせて頂いている」という覚悟で、させて頂くことを神様に感謝しつつ行うべきだったのですよ。その「ご用をさせて頂く」という謙虚さを忘れたときに、その人々は慮外にも私を王様にしようとして熱狂し、私は皇帝の疑いを招いたのでした。人間である自分が人々を幸せにできるなどという思い上がりのために、せっかくの善意を活かしきれなかったのですね。残念なことです。

　地球はかつて無いほどの危機にさらされています。経済危機など大したことではないのです。直接的にはこの危機は科学技術と経済発展がもたらしたものです。しかし、さらにいえば、人間の思い上がりがもたらしたものといえるのです。「神様のご用」を忘れ、自分自身の力を過信し、我力を振り回した結果です。なにも政治屋や銀行屋や土建屋だけが悪いわけではありません。ほとんど全ての人が自分自身の利益のために、いるのかいないのか分からない神様の「ご用」を忘れ、直接的に利益を与えてくれる「お上」や「会社」や「世間」の「ご用」を優先した結果と心得ることです。一体どこまで「ゴーマンかませ」ば気がつくのでしょうかねえ。

　いまからでも遅くありません。自分が正しいと思うから、自分が善いと思うからその事を為すのではなく、常に「神様のご用」を勤めさせて頂くつもりで、今為さなければならないと思われる事に取り組んで下さい。どれほど善意であっても、それが今の地球に、日本に必要と思われる程大切な事であっても、自分自身が行うつもりで行えば、いずれ行き詰まりや瓦解を招くおそれありといえます。「神様のご用」を勤めさせて頂くつもりで行えば、必ず次なる導きがあることでしょう。行き止まりと思えた物事に活路が見いだされます。これまでのコンポステラにも書きましたように、自分自身の思惑に縛られることなく、自分の殻を破って次の一歩を示して下さるはずです。あとはどんなに困難に見えてもその一歩を踏み出してみることです。これだけは自分自身でしなくてはね。