シェークスピアの男装する女性たち−2 ヴァイオラ(福原麟太郎訳・角川文庫「十二夜」)



「この眼を愛するよりも、 私の生命よりも、私が妻となる女を愛するよりも 何ものよりもずっと愛する人の後についてまいります」



「十二夜」のあらすじ

 双子の兄妹セバスチャンとヴァイオラは、航海中に船が難破し、別々にイリリアの国に流れ着くが、お互いを死んだのではない かと思う。傷心のヴァイオラは、同じように兄を亡くしたイリリアの伯爵家の女主人であるオリヴィアに仕えようとするがかなわず、 男装してシーザリオと名のって身分を隠し、オリヴィアに求婚しているオーシノー伯爵に仕えることにする。

 オーシノーはシーザリオ(ヴァイオラ)が気に入り、オリヴィアへの求婚の使者にもする。内心オーシノーを慕い、彼の妻になりたい と願うヴァイオラにはつらい仕事だったが、オリヴィアは、本当は女性と知らずシーザリオ(ヴァイオラ)に恋してしまう。それを知っ たヴァイオラは困惑する。

 オリヴィアの叔父トビイ、侍女のマライアは、居丈高で朴念仁であるオリヴィアの執事マルヴォリオを煙たがり、いたずらを仕掛ける。 マライアはオリヴィアの筆跡を真似てラブレターを書き、オリヴィアがマルヴォリオを恋していると思い込ませる。その計画があたって オリヴィアはマルヴォリオが気が狂ったと思い込み、トビイたちは腹を抱える。

 他方、トビイたちは、オリヴィアに求婚しているサー・アンドルーをそそのかし、シーザリオ(ヴァイオラ)と決闘させようとする。 女性であることを見破られたくないヴァイオラは困惑する。

 兄のセバスチャンは友人のアントニオに助けられたが、アントニオはオーシノー公爵の敵軍で海戦に参加したことがあり、イリリアの 街をおおっぴらに歩くことができない。アントニオは財布をセバスチャンに貸し、いったん別れる。

 アントニオは偶然、サー・アンドルーとヴァイオラの決闘の場に行き合わせ、ヴァイオラをセバスチャンと思い込み、決闘を収集する。 しかしその直後、役人に見つかり捕えられる。ヴァイオラに財布を返してくれと頼むが、ヴァイオラには覚えがない。アントニオはセバ スチャンの名を呼んで忘恩をなじり、役人に引き立てられて行く。

 セバスチャンがオリヴィアの邸の前にいると、サー・アンドルーが決闘の続きをしようとする。通りかかったオリヴィアはセバスチャン をシーザリオ(ヴァイオラ)と思い、決闘を収め、非礼をわびてセバスチャンに想いを語る。セバスチャンは美しいオリヴィアに魅せられ、 愛を誓う。二人は邸の中に入っていく。

 オリヴィアの邸の前にオーシノー公爵とシーザリオ(ヴァイオラ)が訪れると、アントニオが引き立てられてくる。アントニオは悪びれ ない態度で話し、セバスチャンの忘恩についても話す。ヴァイオラは兄が生きていることを悟る。

 そこへオリヴィアが再び登場し、オーシノーはオリヴィアへの愛を語るがオリヴィアは拒絶し、自分の夫はシーザリオ(セバスチャン)だと 言う。オーシノーはその拒絶とシーザリオ(オリヴィア)の裏切りに怒り、シーザリオ(ヴァイオラ)を殺そうとする。そこへセバスチャ ンが現れ、そっくりな双子を見たアントニオ、オーシノー、オリヴィアらは驚く。兄妹はお互いを確認しあう。

 狂人扱いされたマルヴォリオもだまされていたことが判明し、オリヴィアはトビイやマライアたちをとりなす。すべて誤解は解けて、 オーシノーとヴァイオラ、セバスチャンとオリヴィアの二組の結婚式が行われることになった。



 この戯曲でも、男装する女性ヴァイオラがすてきです。オリヴィアに恋されてしまうということは、きりりとした少年のような美貌の持ち主 だったのでしょう。オリヴィアの方は、兄の喪中なので求婚を受ける気にはなれない、と堅く言いながらシーザリオには簡単に恋してしまい、 オーシノーの求婚は拒否しながらも、口実を作って使者であるシーザリオを引き止めようとしたり、名家の令嬢たる毅然としたところがなくて どうもいただけませんが、ヴァイオラの方はオーシノーへの思いとの板ばさみに悩みながらも、誠実に使者としての役目を果そうとします。 ヴァイオラ(VIOLA)とオリヴィア(OLIVIA)は名前の綴りが似ていますが、人柄はだいぶ違います。

 トビイやマライア、マルヴォリオといった人々の騒動はそれほど面白いとは思えませんが、物語の喜劇性を盛り上げる意味があるのだと思います。

 なお、私から見ると、オーシノー公爵という人の魅力や、ヴァイオラが惹かれた理由がちっともわかりません。オーシノーは、女の愛情などは ただほんの欲望にすぎない、たわいのないもので、自分がオリヴィアに抱いている愛とは比べ物にならない、という一方で、男は移り気であきっ ぽいものだから、女は自分より年上の夫を持つべきだ、そうしないと男の愛情は長続きしない、などと言っています。オーシノーとしては腹心の 従者シーザリオに本音を打ち明けたつもりでしょうが、ヴァイオラはこんな言葉を聞いてよくも幻滅しなかったものです。セバスチャンとオリヴィ アはどちらということもないのですが、ヴァイオラとオーシノーではどうもヴァイオラのほうが人間として上ではないかと思ってしまいます。

 ずいぶん昔ですが、「十二夜」が映画になったものをテレビで見たことがあります。うりふたつの美貌の兄妹を見られるかと期待したのですが、 セバスチャンとヴァイオラは(しかたないことですが)特に似ていませんでした。いっそ、双子姉妹の女優さん(マナカナさんとか)がそれぞれ セバスチャンとヴァイオラを演じた方が魅力的なのではないかと思うのですが、どうでしょうか。


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