駿河の令嬢(川端康成著「駿河の令嬢」(新潮文庫「掌の小説」))   



「ああ、あ、あ、わしらも御殿場あたりになりたいよう。一時間半だもの」



「駿河の令嬢」のあらすじ

伊豆から三島へ行く汽車の中で「私」はいつも、汽車通学の少女たちに会う。中でももっとも美しく快活な少女は、駿河の紡績会社の 令嬢らしい。卒業が近くなり、彼女は東京の女子大へ行く様子である。それに先立って東京に行くらしい少女が、駿河駅で令嬢に別れを 告げようと待っている。紡績工場の女工をやめた娘らしい。立場は違うが仲のよさそうな二人は、東京での再会を誓い合って別れていく。



「掌の小説」は、その名の通り本当に短い小説を集めた短編集です。中でも心に残ったのが「駿河の令嬢」でした。

冒頭の令嬢のせりふは、小説でもいちばん最初に出てくるものです。長い通学時間に飽きたこのせりふは、まだ少女の屈託なさに満ち ていて、土地の言葉でもあります。ところが、後半になると彼女はひそひそ話で友達と東京の女子大に行く相談をするようになります。 最後に女工の少女と話すときは、「私が東京に行ったら会えるわね。学校の寮へ来て下さいね」と、東京風の話し方に変わっています。 あどけない少女時代も、彼女は卒業しようとしているようです。

女工の少女の方も、東京へ行くという人生の転機に緊張しているようです。寮へ来てねという誘いに、「私には行けませんわ」と答 えます。それから二人は「別々に悲しい顔をしていました」とあります。子供ではなくなり、別々の世界に旅立っていくことのさびし さでしょうか。

それでも最後に再び、令嬢は「東京で会いましょうね」と言い、女工は「ええ」と答えます。 少女たちの友情と、新しい出発への初々しい思いが胸にしみます。何か新しい変化が自分にありそうな時、また、卒業の季節などに よく思い出す短編です。


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