サンビーム(キャベージストーク)王女(アンドルー・ラング編「あかねいろの童話集」より「金の枝」(川端康成・野上彰訳・ポプラ社))  



「よくわかりました。人は何もかも手に入れることはできないのですね。それなら、美しさよりも心の優しさを選んだ方がいいでしょう」



「金の枝」のあらすじ

むかしむかし、意地悪だがお金持ちの王様がいた。王様は、国を大きくするために、息子のカーリキュー王子と隣の国のキャベージスト ーク王女を結婚させることにした。カーリキューは賢くて優しい若者だったが、醜い容貌をしていた。キャベージストーク王女も、心の優 しい娘だったがやはり醜かった。カーリキューは、自分が醜いからこそ醜くない人と結婚したいと父に言い、怒った父に古い塔に閉じ込め られる。

塔の中にはある男の子の一生を描いた数枚の絵があり、カーリキューはその生涯が自分に似ているような気がして、ひきつけられる。絵 に導かれ、塔の中で不思議な飾り戸棚を見つけた。外見はぼろぼろだが、中の引き出しは宝石でできていて、すばらしい宝物が入れてあっ た。その一つをあけると、美しい女性の肖像画を持っている男の腕が入っていた。驚く王子にどこからかその男の声がして、肖像画の女性 を探すようにという。再び絵に導かれ、カーリキューはその女性を探し当てて呪いを解く。その女性は妖精のドゥースリーネで、二百年前 に、ある魔法使いの求愛を退けたため呪いで眠らされ、愛し合っていた王子フロリモンドは腕を切られて鷲に姿を変えられてしまっていた。 カーリキューが見たのはその腕だった。

ドゥースリーネは呪いから救ってくれたお礼に、カーリキューの姿を美しく変え、ピーアレス(この上もない)という名前を与える。そ してピーアレスを塔から逃がして、森の中に行かせる。ピーアレスはそこで羊飼いになった。

カーリキュー(ピーアレス)がいなくなったところにキャベージストーク王女が到着する。困った王様は、キャベージストークのせいに して彼女を同じ塔に閉じ込めてしまった。

キャベージストーク王女は、よその人に自分の醜さを見られるぐらいなら一生ひとりでいたいと思っていて、カーリキューと結婚したく なかった。その上塔に閉じ込められてしまい、当惑したが、自分の父が助けてくれると信じて、それまで塔の中を探検することにした。カ ーリキューと同じように絵に導かれ、飾り棚の中の男の腕が入った引き出しを見つける。ぞっとするが、やはり男の声で、その箱を枕の下 にかくし、鷲が飛んできたら渡すようにと言われる。勇気を出してそのとおりにすると、鷲が飛んで来た。引き出しを渡すと、鷲は呪いを 解かれ、美しい王子フロリモンドに戻った。フロリモンドはお礼にキャベージストークを美しい人に変え、名前もサンビーム(日の光)と 改めさせ、塔を脱出させた。

そこはピーアレスが羊飼いをしている森だった。ピーアレスとサンビームは出会い、仲良くなる。ピーアレスはサンビームに求婚し、サ ンビームも内心はそれを望むが、本当は王女なので羊飼いと結婚してもよいものか迷い、森に住んでいる魔法使いに相談に行く。 そこには十二匹の猫とはつかねずみが囚われていた。かつて愛し合っていた十二組の王子たちと王女たちで、魔法使いの言うことをきか なかったために姿を変えられ、今は飢えの中で憎しみあっていた。魔法使いは美しいサンビームを見て妻にしようとするが、サンビームが 断ったためにキリギリスに変えられ、城を追われる。

ピーアレスはサンビームを探して魔法使いの城にたどり着き、魔法使いの妹の妖精に会う。妖精もピーアレスに結婚しようと言うがピー アレスは断り、コオロギに変えられる。歎きながら城を出たピーアレスは、妖精ドゥースリーネが「しっかりしなさい。どんなことがあっ ても《金の枝》を探すのですよ」という声を聞く。ピーアレスは元気を出して旅に出る。間もなく、キリギリスになっているサンビームに 会う。サンビームは自分は元は王女だったとピーアレスに言う。サンビームもフロリモンドの声を聞いて、《金の枝》を探していた。二人 は、相手が自分の愛する人だとは知らないまま、一緒に旅をすることに決める。

その時、二人の近くに、はつかねずみが二匹走って来る。魔法使いの城に囚われていたが、尻尾を引き抜いてようやく逃げ出したのだっ た。一匹は《金の枝》のある庭を知っていて、すぐにそこへ行かなければと話す。ピーアレスとサンビームも一緒に連れて行ってもらうこ とにする。

四人は無事に《金の枝》のある庭に着いた。枝にさわると、はつかねずみたちは二匹の王女に戻り、ピーアレスとサンビームも羊飼いの 姿に戻り、再会を喜び合う。そこへドゥースリーネとフロリモンドが現われ、サンビームに、ピーアレスへの愛を告白するようにすすめ、 彼女が結婚するはずだった王子はピーアレスなのだと教える。はつかねずみだった王女たちの願いで、ドゥースリーネが枝を三度たたくと、 魔法使いの城に囚われていた猫たちとはつかねずみたちがみな解放され、もとの姿になって現れた。

ピーアレスとサンビームは結婚し、ドゥースリーネとフロリモンドからお祝いに《金の枝》のある庭をもらう。猫とはつかねずみだった 王子たちと王女たちも、かつてフロリモンドの腕をしまってあった飾り棚の中のさまざまな宝物をドゥースリーネから分けてもらった。ピ ーアレスとサンビームは、家来たちに慕われながらいつまでも仲良く幸福に暮らした。



このお話は童話ですが、いろいろ興味深い内容を含んでいるように思いました。

《金の枝》とはなんでしょう。呪いを解いたり、願いをかなえたりすることのできる力があって、みんなが探しているもののようです。 キリギリスとコオロギに変えられてしまった二人は、一時は虫になって生きることを考えそうになるのですが、「《金の枝》を探しなさ い」という声のおかげで、人間としてよみがえります。苦しいときにも人間らしく生きるための心の支えのようにも思えます。誰もが望 んでいながら、なかなか手にするとができないものです。ピーアレスとサンビームの優しさ、賢さ、強さなどはほかの人たちより抜きん でていたので、二人は猫とはつかねずみにならず、最後には《金の枝》の所有者になったのでしょう。優しい二人のことなので、必要な 人には《金の枝》の力を貸してあげたでしょう。

ピーアレスはドゥースリーネ、サンビームはフロリモンドという異性の友だちに助けられます。自分を美しくしてもらったり、苦しい 時に導く言葉をかけてもらったりということが、心理学でいう「アニマ」や「アニムス」を思わせます。人は心の中に理想の異性の元型 を持っていて、その元型に導かれて向上したり、迷ったときに判断を下したりすることがあるそうです。ドゥースリーネとフロリモンド は、まさにそのような存在です。

ピーアレスとサンビームは、親同士が決めた婚約者の時は結婚を望みませんが、それぞれ羊飼いとして働きながら暮らすとき、相手に 愛情を覚えます。飾り気ない暮らしの中で、相手の本当の姿を見たのでしょう。結婚してからも、羊飼い時代のことは二人にとって楽し い思い出となるにちがいありません。

ピーアレスとサンビームはいつもパートナーとして対等に行動し、どちらかがどちらかを助けるという形にはなりません。(よく、童 話では王子様がお姫様を救い出すということになっていますが、お姫様が王子様を救い出すお話も同じぐらい多いのです)二人は一心同 体のような、完全なパートナーでした。男と女はもともと一人の人間で、二つに分けられたために、お互いを探し求めるという伝説を思 い出します。

外見がぼろぼろだけれど中にはすばらしい宝物が詰まっているという飾り戸棚は、美しくなる前のピーアレスとサンビームのようです。 二人は最初は醜い人ですが、その賢さとやさしさで美しさも手に入れます。(なぜか、サンビームだけ一度よけいに心の優しさと賢さを 合わせたような贈り物をもらっています)心がよければ外見も美しくなるという考え方は、たいへん勇気を与えてくれます。

その飾り棚の宝物が、十二組の王子と王女に分け与えられるという結末も、よく計算されたストーリー展開でここちよい読後感でした。 十二組の王子と王女は、呪いを解かれたあと和解しているので、おそらく結婚したのでしょう。ピーアレスとサンビームは、自分たちの 望みをかなえただけでなく、ほかの人たちまで幸福にしました。多くの人の上に立つ資質があり、《金の枝》の所有者にふさわしいとい えるでしょう。


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