小川万亀(林真理子著「本を読む女」(新潮文庫))   



「お姉さんたちみたいに、洋裁や料理習うのもつまらない気がするんです。私、できたらでいいけど、英語を勉強してみたい」


万亀のプロフィール


万亀は、小学生のときから頭がよくて、特に文章を書くのが上手です。東京の学校に進んでも、教師や事務員の職についても、飲みこ みが早く有能で、真面目でもあることから、周りの人にいつも感心されたり重宝がられたりしています。それなのに、万亀はそんな自分 を誇りに思うようなところが少しもなく、優等生という言葉に傷ついたり、背が高くて容貌が特に優れていないことを気にしているよう です。結婚できなくなるのではないかということもずいぶん気にしています。

これは、万亀の姉たちが美しかったせいもあるでしょうが、有能な万亀が、颯爽とした外見に似ず、古風な女の子らしさをもちつづけ ていたからなのでしょう。その内面を理解して、愛する男性が出てこなかったことはちょっと気の毒でした。

控えめで、新しい環境になじめずに泣いてばかりいるような万亀ですが、いつも、持ち前の賢さと努力で、だんだんに周りの人の信頼 を得ていきます。学校ではお嬢さん育ちの旧友が多い中で、田舎育ちの万亀は個性的なおもしろい人と見られますし、教師になれば生徒 から慕われます。優等生とみられるのを嫌う万亀でしたが、きっと、真面目で堅い中に、人の好意を受け入れる素直さや、他人のために つくす優しさがにじみ出て、どこに行っても愛されたのでしょう。

自分の能力や魅力に、大人になっても少しも気づいていない万亀。ちょっとユーモラスでもあり、いとおしくも感じます。頑張ってば かりの彼女をねぎらってあげたい気がします。


学生の時、万亀は、姉たちの幸福そうでない結婚生活を見て、自分は結婚しないで好きな本だけを読んでいたいと思います。けれど、 現実には見合いをして、あわただしく結婚してしまいます。あとで、人はなぜ少女のままで生きていられずに、つらい苦役を背負わされ るのだろうと不思議な思いにひたります。「更科日記」の昔から万亀の時代まで、女性のこんな思いはあまり変わらなかったのかも知れ ません。


実を言うと、私は林真理子さんの作品があまり好きではありません。(ファンの方、ごめんなさい)けれど、この 「本を読む女」だけは愛読しています。モデルがお母さんだということと、意地悪な感じのない作品の雰囲気には関係があるのでしょう か。


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