ジョー・マーチとベス・マーチ(ルイザ・メイ・オルコット著「若草物語」(吉田勝江訳・角川文庫))  



ジョー「伯母さんだって、その気にさえなれば、ずいぶん面白い人生が送れるんだのにね! 私伯母さんがお金持ちだからってそんなにう らやましいと思わないわよ、結局お金持ちだって貧乏人だって、おんなじようにいろんな悩みがあるんだわね」

ベス「ええ、そのつもりよ。今うかがおうかしら。また考えているうちにこわくなるといけないから」



「若草物語」のあらすじ

アメリカ南北戦争の頃、ニューイングランのマーチ家では、従軍牧師として戦場に出かけた父の帰りを待つ姉妹と、優しい母がいた。姉妹 は、穏やかで美しい長女メグ、男の子のように活発で文才のあるジョー、優しく内気でピアノの上手なベス、おしゃまで絵の好きなエーミ ーの四人だった。性格こそ違え、四人は母のすすめに従い、それぞれの欠点を巡礼が背負う重荷に見立てて、向上心をもってつつましく、 貧しい人につくしながら生きていこうとする。それは、父が言っていた「LITTLE WOMEN」(小さな(けれども立派な)婦人た ち)という言葉にもかなうことだった。

メグはぜいたく好きの一面があり、裕福な友だちをうらやんだり、パーティに着て行く絹の服がないことを悩んだりする。しかし、招待さ れた家で、裕福な娘たちが、メグを着せ替え人形のように扱って、自分の服を着せて着飾らせたり、母が隣のローレンス家にとりいろうと しているのではないかと噂されたりしていることに傷つき、本当の幸福は虚飾に満ちた生活の中にはなく、彼女の家庭のように、貧しくて も愛し合い、自分を高めようとする暮しの中にあることを感じる。妹たちには優しい姉である。

ジョーは気短で粗忽なところがあるが、快活な性格で、隣のローレンス家の少年ローリーを打ち解けさせ、姉妹と家族のようになるきっか けを作る。エーミーとはよくもめて、書き溜めたおとぎ話の原稿を焼かれたり、エーミーが凍った池に落ちておぼれそうになり、自分の短 気を激しく悔い、取り返しのつかないことにならないかと恐れたりする。裕福な伯母の小間使いをして働き、伯母にはない自分の家の幸福 を感じたり、辛抱強さを養う。人一倍旺盛な行動力で、新聞社に原稿を持ち込み、その小説が新聞に採用されたり、父が病気になった時自 慢の髪を売ってお金を作ったりする。ベスが猩紅熱にかかったときは、もっとも献身的に看護する。

ベスはつつましく内気なため学校にも行かず、家で勉強したり家事を手伝ったりしている。優しい性格から猫や人形を可愛がる。隣のロー レンス氏(ローリーの祖父)を初め怖がるが、自由にピアノを弾かせてもらえることになり、感謝を込めてローレンス氏にスリッパを作っ て贈る。ローレンス氏は感激し、立派なピアノをベスにくれた。ベスは感謝のあまり怖い気持ちも忘れてお礼を言いに行き、二人は急速に 打ち解ける。貧しいフンメル家の面倒を母に代わって見て、子供の猩紅熱がうつって死の淵をさまようが、回復する。ベスの病気を通じて 姉妹たちは、おとなしいベスの存在の大きさをあらためて感じる。

エーミーは一番年下だが一人前の淑女のように振る舞いたがる。おしゃれ好きで、甘やかされたために少しわがままなところもある。学校 でライムの塩漬けが流行っていたとき、メグに小遣いをもらってライムを買い、仲の悪い友だちに言いつけられて罰せられ、学校をやめて 家で勉強することにする。母や姉たちは労ってくれたが、同時に自分の才能や長所をひけらかさず、謙遜に振る舞うことを教える。ベスが 猩紅熱にかかった時、うつらないようにマーチ伯母さんの家に泊まることになり、口やかましい伯母さんに説教されたり、用事を言いつけ られたりする。しかし、その生活の中で辛抱強くなり、自分のことより他人のことを先に考えるようになる。

父が病気になって母が看病にワシントンの病院に行く。ベスの病気が重くなったとき、父は持ち直してきた。ローリーが電報を打ち、母が 帰って来る。ベスの容態は回復し、父も戻って来て、一家は幸せなクリスマスを祝う。ローリーの家庭教師で、母と一緒にワシントンへ行 ったブルック先生は、父と母のために甲斐甲斐しく働き、信頼されていた。彼はメグを愛し、メグも彼の温かく真実味のある性格を感じて 求婚を受け入れる。



小説のヒロインは、作者オルコット自身がモデルとなっているジョーです。短慮で少し雑なところもあり、いろいろと後悔することも多い ジョーですが、男の子のような元気のよさ、行動力、裏表のない他人への好意などは彼女にしかない魅力です。初め友達の少なかったロー リーを打ち解けさせたのもジョーですし、祖父のローレンス氏、マーチ伯母さんなども、ジョーの物怖じしない性格が好きなようです。

そんなジョーと対照的な性格のようでいて、いちばん仲がいいのがベスです。おとなしくて姉妹の仲でかすんでしまいそうなベスですが、 実際は姉妹の中でいちばん意志が強く、自分の具合が少し悪くてもフンメル家に見舞いに行ったりしていますし、ほかの姉妹が愚痴を言っ たり元気をなくしている時も、つとめて肯定的に物事の明るい面をみようとします。ふだんは内気ですが、ローレンス氏にピアノを贈られ た時は、冒頭のきっぱりしたせりふとともにローレンス家を訪れて感謝を伝え、家中をびっくりさせています。言うべき時、するべきとき には決して誤らず、し損ないのないベスなのです。

ジョーも、ベスのことを小さい妹としてかわいがるだけでなく、ベスの隠れた行動力や人一倍強い意志をよく知っているようです。お互い に自分にない相手の長所を認め合っている二人の姿は微笑ましいものです。


四人の姉妹とローリーとの関係は不思議です。ジョーとローリーは最も親しみ合い、時には喧嘩をしたりもしますが、相手が辛い時にすぐ に察してなぐさめたり助け船を出したり、間違っていることをした時には率直に話し合ったりもできます。ジョーとローリーはよく理解し 合っていて、お互いの欠点も含めた上で深い友情の絆で結ばれています。

これに対して、ベスはローリーにとって非の打ちどころのない相手で、ベスと接しているとローリーは穏やかで勤勉になるようです。その 代わり、ベスの優れたところをローリーはよく見ていて、理解しています。

エーミーに対してはローリーは完全に上手で、なだめたり慰めたりしています。エーミーにも、ローリーがときに怠惰になったり意地っ張 りになったりする欠点は見えていないようです。第二若草物語でローリーとエーミーは結婚しますが、私はなんとなくこの結婚が納得いき ません。ローリーと理解し合えたのはやはりジョー、それでなければベスだったような気がしてなりません。

メグに対するローリーの行動がいちばん不可解でした。パーティーで着飾って人形のようになっているメグをローリーは批判的に見ていま すが、自分はブルック先生を装ってにせの手紙をメグに書いたりしています。これは単なるいたずらでは済まないようなことで、ジョーや ベスに対している時のローリーとは別人のようです。あとで後悔して詫びていますが・・・・


「若草物語」はフジテレビの世界名作劇場で「愛の若草物語」として1987年にアニメ化されました。この時、物語の進行役はジョーで はなくてエーミーでした。その頃は、少しわがままで女の子らしいエーミーの方が、ジョーより人気が出そうだったのでしょうか。私が子 供のとき「若草物語」といえばなんといってもジョーだったので、時代の変化かとおもしろく思いました。戦前の日本だったら、家庭的な メグやおとなしいベスが人気が高かったかも知れないなと思いました。

また、このアニメでメグやジョーがナイチンゲールのような服装をしているなと思ったのですが、ナイチンゲールが看護婦として活躍した クリミア戦争は南北戦争の少し前で、「若草物語」に近い時代でした。スカートをなだらかに大きくふくらませ、すそ広がりでフリンジの ついた袖や、胸で布を切り替える形で、クリノリン・スタイルというファッションの時代にあたります。アニメで、当時のファッションが きちんと特徴をとらえて表現されていることに感嘆しました。


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