ジェニングス・バーチとマーク(ジェニングス・マイケル・バーチ著「ぬいぐるみを檻に入れられて」
                                                                       (塩谷紘訳・暮しの手帖社))   



「待てよ! ジェロームはね、お互いについて感じる気持ちが二人を兄弟にするんだ、名字じゃない、っていったんだ」



「ぬいぐるみを檻に入れられて」のあらすじ

ジェニングスは六人兄弟の下から二番目で八歳の少年。母はアルコール依存症の父と別居し、病気がちで、六人の子供たちは食べるも のや着るものも不自由な生活をしている。ある日ジェニングスは、母に外へ連れ出されて孤児院「天使園」に預けられる。突然家を離れ 厳しいシスターやいじめっ子のいる孤児院に入れられたジェニングスのショックは大きい。小さいときから「天使園」にいるマークが、 孤児院でうまくやっていく方法をいろいろ教えてくれ、ジェニングスは戸惑いながら身につけていく。明るい女の子のステイシーとも仲 良くなった。マークは、孤児院で友達を作ると別れがつらくなるので、友達は作らないことにしていたが、マークのためにいじめっ子と 戦ったジェニングスに心を動かされ、二人は友達になる。

天使園では、夜の間好きなぬいぐるみといっしょに寝ることが許されていた。ジェニングスは茶色い犬ドギーを選ぶ。ドギーも、それ 以来ジェニングスの大切な友達になった。

やがて母が迎えに来て、ジェニングスとマークは胸の張り裂けるような別れをする。ドギーはそっと連れて来た。

家には、大きい兄のジョージとウォルター(仲が悪い)、病気で入院しているジェローム、すぐ上の兄ラリー、小さい弟のジーンがい る。大きい兄たちは孤児院にはいかなかったが、ラリーは孤児院に預けられた。それからも、いろいろな孤児院や預かり親のもとと家を 転々とし、家に帰って学校へ行っても授業についていけないといった苦労が続く。ラリーは心がすさみ、学校をさぼったり家出をしたり する。ジェニングスはラリーに心を痛めながらも、自分もつらい。しかし、孤児院のシスターや学校の先生、お金持ちのフレイザー氏と コックのマーサ、刑事のサージなど、善意の人たちとも出会う。

入院していたジェロームが帰って来て初めて会う。天使園のマークによく似ていて、小さな哲学者のようである。ジェニングスはジェ ロームと、疑問をもちつづけることと、「アイ・ラブ・ユー」の気持ちを口に出して言うことを約束する。


学校に行くバスの運転手セルと親しくなる。セルも施設で育ったことがあり、ジェニングスを父親のように見守る。兄のジョージはセ ルを嫌ったが、ジェニングスの家族とも親しくなる。


三つ目の施設で、マークと再会する。天使園で病気になって入院したマークは、そのあと別の施設に移されたのだった。ジェニングス とマークは再会を喜び、兄弟の約束をする。しかし、マークの病気は重く、施設で倒れてそのまま死んでしまった。

10歳近くなって入った施設では、ジェニングスはもうほかの子より大きく、ガキ大将とも対等につきあう。入所したばかりの男の子 をかばい、昔自分がマークに教わったルールを教えて、施設でうまくやっていけるようにしてやる。しかし、その施設で受けた罰があま りにも屈辱的だったためにジェニングスは施設を抜け出し、デーリー巡査に保護される。

デーリー巡査は休暇を取って、私人としてジェニングスを自宅に泊め、夫人と共に親切に面倒を見る。短い休暇の間にセルを探してジ ェニングスの保護者になってもらうか、それが無理なら自分たちでひきとろうとする。ジェニングスはデーリー夫妻に迷惑をかけると考 えて書き置きを残して家出する。ジェニングスが動物園に隠れていると、セルとデーリー巡査が探しに来た。ジェニングスは泣きながら セルにしがみつき、「好きだよ」と何度も叫ぶ。



まだ少年のジェニングスが、家族と引き離されて施設を転々としてたり、友だちに別れる様子は本当に痛々しいです。舞台は第二次世 界大戦の数年後のアメリカで、国力は大きくても、福祉はなかなか行き届かない様子がうかがえます。ジェニングスはそんな中でも、生 活に順応していくたくましさと、人の善意を信じる心の柔らかさをバランスよく保つことができたために、最後にデーリー巡査に助けら れますが、ほんのちょっとしたことで、人生につまずいたり死んでしまった子供たちもどんなにたくさんいたことでしょう。兄のラリー は学校にも行かなくなり、大人になっても住居や職を転々とし、妻子とも別れてしまったようです。二つ目の施設で出会ったスティービ ーという少年は、親分肌でなかなかいい少年ですが、アルコール依存症の父親に虐待されていて、その家庭に戻されるのがいやさに施設 を脱走し、行方不明になってしまいます。悪の道に走ったり、トラブルに巻き込まれていないかその後が心配です。

マークは小さいときから施設にいてある程度大きくなったので、里親になる人がいないことを自分で覚悟しています。愛に飢えて育っ ていますが、それでも施設になれないジェニングスをかばったり、冷静な自分の考えをもっていて、すばらしい子だと思います。大きく なって施設を出て自分で暮らせるようになれば、また自分の力で人生を切り開くこともできたのかも知れません。ジェニングスは大切な ドギーとずっといっしょにいられたのですが、マークはある時、くまのぬいぐるみブラウニーをとりあげられてしまいました。私には、 そのことが、マークから生きる力を急速に奪ってしまったような気がしてなりません。

この小説は著者の子供のときの実話です。その後、セルはジェニングスと弟が十代の間一緒に暮らし、その後ある女性と再婚したそう です。ジェニングスはその後ニューヨーク市の警察官を経て、ハイヤーの運転手さんになったということです。


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