「糸くり三人おんな」の女の子(のちお妃)グリム兄弟著「糸くり三人おんな」(金田鬼一訳・岩波文庫「グリム童話集(一)」)



「わたくしには、おばが三人ございます。そのおばたちは、わたくしにひとかたならない親切をつくしてくれましたので、じぶんがこん なにしあわせになりましても、その人たちを忘れたくございませんの。おばたちを婚礼によんで、いっしょの食卓についてもらいたいと ぞんじますが、いかがでございましょう」



「糸くり三人おんな」のあらすじ

あるところに大変怠け者の女の子がいて、糸くりをどうしてもしないので母親にきびしく叱られた。それをお妃が聞きつけて訳を聞い た。母親は娘の怠惰を話すのが恥ずかしいので、家が貧しくて麻が十分にないのに、娘が糸くりをしたがって仕方がないからだとうそを つく。お妃は、そんなに働き者の娘なら存分に糸くりをさせてやろうと言い、娘をお城に連れて行く。

お妃は、女の子に、麻糸のぎっしり詰まった部屋三つを見せ、これを全部紡いだら王子のお嫁さんにしてあげると言う。女の子が途方 に暮れて泣いていると、きたない恰好をした三人の女が現れる。ひとりは片足がうちわのように大きく、ひとりは唇が垂れ下がっていて もうひとりは親指の幅がおそろしく広い。女の子が泣いている訳を聞いて、女たちは、自分たちを婚礼の席に招待してくれるなら、助け てあげると言う。女の子は承知し、女たちはやがて、三つの部屋の麻をすべてみごとな糸につむいでしまった。

王子と女の子の婚礼が行われ、その席に三人の女たちが入ってくる。女たちの様子に驚いた王子は、なぜそんなに足の幅が広いのか、 唇が垂れ下がっているのか、親指が広いのかとそれぞれの女に尋ねる。足の幅が広い女は糸車の輪を踏むから、唇の垂れ下がった女は糸 を唇で湿らすから、親指の広い女は糸すじをよるからだと答える。

王子はびっくりして、自分の美しい嫁にはもう決して糸くりをさせないことにすると言う。女の子は、嫌いな糸くりをしなくてよくな った。



私は、グリム童話の中でこの話が一番ユニークでおもしろいと思います。女の子の怠惰が戒められたり、いざ婚礼となると助けてもら った女たちを招待するのが恥ずかしくなって約束を破り、罰を受けるというパターンの話が多いのですが、このお話では女の子は約束を 守って女たちを招待し、しかも、いやな糸つむぎをしなくてよい身分になります。考えてみれば、ほかのことよりも信頼を大切に考える という意味で、たいへんグリム童話らしい、またドイツらしいお話かも知れません。

この女の子は、糸くりをしているよりも、お妃になる資質があったのかも知れません。多少怠け者でも、約束を守って、恩のある人た ちを堂々と婚礼に招待したのはなかなかりっぱです。(お母さんのお妃がしっかりしているわりに、息子の王子は少しおとなしいような のが多少気にはなりますが) 女の子に幸あれ!


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