アンネ・ビーケン(ベルテ・ブラッド著「アンネは美しく」(石丸静雄訳・偕成社少女ロマン・ブックス)   



「たぶんわたし、ほんとのじぶんというものを知らないのかもしれないわ。わたしが見つけだしたいのは、そのじぶんなのよ」



「アンネは美しく」のあらすじ

十五歳のアンネは、ノルウェーのフィヨルドに囲まれた村で、未亡人の母や兄姉たちと暮らしていた。ある日、地元の牧師の紹介でア スペダル夫人という女性がアンネの家を訪れる。勉強好きなアンネのことを知り、高校に行く学資を援助する代わりに、住み込みのお手 伝いになるという申し入れをしにきたのだった。アンネは喜んで受け、都会での生活が始まった。故郷とはあまりにもちがう、めまぐる しく派手な都会の生活に、まじめで無口なアンネは戸惑いを覚えたが、少しずつ要領を覚えていく。お手伝いをしながら学校の勉強をす るのは大変だったが、勉強は楽しかった。

友人のひとり、デンマーク人のイエス・ダエルは、音楽家の息子で自分自身もピアニストをめざしている。彼はアンネにひかれ、家族 ぐるみでアンネに温かく接する。家庭環境もまったくちがう二人だったが、イエスの父母は気さくで、真実味ある人柄だった。ダエル家 の人を通じて、無口だったアンネもいきいきと自然にふるまえるようになり、友人がだんだんふえてくる。

ダエル家の人々とともにスキーに行った休暇に、イエスはアンネに愛を告白する。ちょうどアンネの十八歳の誕生日で、今までで一番 楽い誕生日になった。

アスペダル家では夫人が夫とアンネの仲を誤解するようになる。アンネはアスペダル家を出て、授業料免除の特待生となり、ハーゲン セン家のお手伝いとして下宿する。金銭的な不自由、アルバイト先で盗みの疑いをかけられるなど、さまざまなトラブルに巻き込まれて 悩むが、ときには工夫をし、ときには自分を励まして乗り越えて行く。

三年たち、アンネはイエスとともに高校を卒業する。卒業生がかぶる黒い帽子は、イエスの母からアンネへの心づくしであった。



勉強好きな少女が裕福な家庭の援助を受けるという点では、ウェブスターの「あしながおじさん」を思い出させるところがありますが 、アンネの場合、「あしながおじさん」のジュディのような孤児ではなく、故郷と家庭にしっかりと根づいた少女だったので、学生生活 にも自分のペースを崩すまいという強い意志が感じられます。何かを知らないことや、貧しいことは決して恥ではなく、むしろ他人の厄 介になることこそ恥だとアンネはとらえています。

それだけでは親しみに欠けるようですが、新しいスカートに心をときめかせ、イエスの自分への思いが真実なものか悩み、不当な疑い には怒りを表わすなど、高校生の少女らしい素直さももっています。祖母から教わった手編みの模様入りのセーターや手袋が編み物店で 売れて生活費になったり、父から教わったバイオリンがプロであるイエスの父を感嘆させたりする場面もあって、アンネが故郷で身につ けてきたことは都会に行っても決して見劣りするものではありませんでした。都会の洗練も身につけながら、アンネはいつも故郷を誇り に思っています。そんなところが、イエスの心をとらえたのでしょう。

この本は、赤毛のアン・シリーズと共に偕成社の「少女ロマン・ブックス」というシリーズに入っていました。「赤毛のアン」に比べ てずっと知名度が低いですが、もっと読まれてもいい作品だと思います。


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