アリス(ルイス・キャロル著「ふしぎな国のアリス」「鏡の国のアリス」(生野幸吉訳・福音館書店) )   



「地球をつきぬけて落ちてゆくんじゃないかしら! 頭を下に向けて歩いている人たちのなかにひょっこり出てしまったら、さぞこっけい でしょうね! 反対人、たしかそういう名だった―――」


「ふしぎの国のアリス」のあらすじ

アリスは七歳の少女。ある夏の日、お姉さんと一緒に川の堤で本を読んでいたが、だんだん退屈になってきた。そこに、洋服を着た白ウ サギが、慌てた様子で走り過ぎ、アリスは思わずあとを追いかけ、うさぎ穴に飛び込む。そこは不思議な世界の入り口だった。下まで行く とそこは広間で、ガラスのテーブルがあり、壁にはごく小さな扉がある。テーブルの上の鍵で扉を開けてのぞくと、美しい花壇や噴水のあ る庭が見えた。アリスは小さくなってその庭に行ってみたいと思う。テーブルの上にあった瓶の飲み物を飲むと小さくなるが、扉を閉めて 鍵はテーブルの上に置いたまま。テーブルの下にはお菓子があって、それを食べると身体が大きくなるが、今度は扉の中に入れない。

その後、白ウサギの落とした手袋と扇子、森の中のきのこなどで、アリスは何度も大きくなったり小さくなったりする。まわりの景色も 移り変わり、きせるをふかす不愛想なイモムシ、醜い公爵夫人、にやにや笑うチェシャ・ネコ、ティー・パーティーをしている三月ウサギ と帽子屋などに出会う。みなそれぞれナンセンスな、勝手なことを言っていて、アリスはめんくらったり腹を立てたりする。

やがてアリスは、何度目かに現れた小さな扉の鍵を開けて美しい庭にはいることができた。そこはトランプの王国で、気ままで残酷なハ ートの女王がとりしきり、クローケー遊びをしてたくさんの人に死刑宣告をしたり、全員を許したりしている。やがて裁判になり、アリス が聞いていると、身体がだんだん大きくなる。ハートの王と女王はアリスを追放しようとし、トランプたちが襲いかかってくる。払いのけ ようとするとふと目が覚めた。アリスは川の堤で退屈しているうちにいつしか眠ってしまい、夢をみたのだった。


長い金髪で、ワンピースの上にエプロンを着たかわいいアリスの姿は、ジョン・テニエルの絵でも、ディズニーのアニメーションでもよ く目に入ってくる親しみ深いものです。アリスは大きくなったり小さくなったりしながら、さまざまなふしぎの国の住人たちと出会います。 みな気ままにおかしなことばかり言っていて、無愛想な相手も多く、アリスは腹を立てたりあきれたり大忙しです。

アリス自身、想像力は豊かな方で、これから何が起こるかをいろいろ想像しますが、それでも思いがけないことが次々に起こります。ア リスは、ときに学校や本で身につけた知識を駆使したり、または、ふしぎの国で起こること(食べたり飲んだりするとたいてい身体の大き さが変わること)をマスターしたりしながら、なかなかたくましく冒険を続けます。アリスがめざすのは、小さな扉の向こうの美しい庭で 家に帰りたいというようなことは考えていないようです。小さな扉は何度か表われ、そこに行けそうになりながらうまくいかず、やっと最 後近くになってアリスはその庭にたどり着きます。この美しい庭は、人間が憧れる理想や、美の世界なのでしょうか。

けれど、美しい庭にたどり着いたところがゴールではありません。そこにはふしぎの国でもっとも気ままで残酷なハートの女王がいまし た。アリスは女王がトランプの1枚にすぎないので全くこわがっていませんが、それでも、最後にトランプの群れが襲いかかってくるのに は恐怖も感じたようです。

アリスはどんな相手に出会っても自分なりの判断で自己主張し、またときには、(勘違いながら)誰か蹴られた人の介抱をさせてほしい と言ったり、ふしぎの国にいても現実の世界と同じように生き生きとして、自分を失っていません。あくまでも可憐なようでいて、なかな かたくましく果敢です。アリスの現実の世界での、学校や家でのできごとを綴っても物語ができそうで、想像すると楽しくなります。

アリスの冒険は、どこまでも美しいものを求めて、世の中のさまざまな変わった人たちに出会いながら続けていく人生の旅のようにも思 えます。ふしぎの国の住人たちは、あの残酷なハートの女王でさえ、クローケーに勝ってばかりいると噂されるとご機嫌になってしまうほ どで、とっつきにくそうなのにどこか憎めないのです。小心そうなシロウサギ、悲しみの陰があるニセ海亀、いつも高見の見物のようにに やにや笑っているチェシャ・ネコなどは、敏感な少女のアリスが、大人たちの中にすでに見出している人間像なのかも知れません。


アリスのお話に出てくる食べ物や飲み物をアレンジしたレシピの本が以前に出ていました。「私をお食べ」と書いてあるケーキや、裁判 の席にあったタルトなどが出ていたように思います。でも私が一番味わってみたいのは、アリスが最初に飲んだ、体が小さくなる飲み薬で す。とてもおいしくて、「さくらんぼのパイと、カスタードと、パイナップルと、七面鳥のあぶら肉と、タッフィーと、焼きたてのバター ・トーストをまぜたような味」だそうです。さてどんな飲み物なんでしょう。

「物語の中のともだち」に戻る

「流星何処へ行く」に戻る