プロフィール   


五人の婦人たちのプロフィール(カッコ内は生年、昭和元年時点の年齢) (五人の婦人たちについては、私が大好きな人を恣意的に選んだだけですので、小説のヒロインかどうか、また、作者が近代文学 の時代の方かどうかもまちまちになっています)



曾根真知子(明治35生まれ、24歳) 野上弥生子著「真知子」のヒロイン

官吏の父なきあと、母と住む。東大の聴講生となって社会学を学ぶ美しく聡明な女性。自立した生き方を望み、社会主義に賛同し て、母や上流階級に属する親戚の虚飾に満ちた世界から逃れようとする。ある日、学校の友人米子を介して、大学争議で未決囚と なっている運動家関三郎と出会う。関の冷淡で無礼な態度に反発を覚えるが、次第にひきつけられていく。貴族の御曹司河井輝彦 からの求婚を断った真知子は関のもとに走り、二人は結婚しようとするが、米子は関の子供を妊娠していた。真知子は関の米子に 対する男性的なエゴイズムや、それの解決にならない社会主義に失望し、関と別れて姉の婚家に身を寄せる。そこで河井と再会し、 二人は心を開いて話し合う。その直後、米子の仲間が河井が役員を勤める会社でストライキを起こし、河井に退陣を迫る。河井は 真率な態度で応えようとする。河井への強い愛に目覚めた真知子は、彼のいる東京へと急ぐ。 真知子について

黒川(三村)菜穂子(明治36生まれ位、23歳) 堀辰雄著「菜穂子」のヒロイン

父の死後、軽井沢の別荘で作家の森から思慕を寄せられた母に反発し、結婚を決意するが、夫と姑との世界にとけこめない。幼な じみの都築明と再会した後、自分の生活の欺瞞を感じる。やがて結核を病み、療養所での孤独な生活の中で自分の生き方を省み、 今までにない心の安らぎを覚える。ある日、療養所に明が訪ねて来た。彼も自分の生きる目的を探して、病をおして旅をしている のだった。昔と同じように、そっけない応対しかできなかった菜穂子だが、明の姿に驚き、またどこか自分と似たものも見出す。 雪が激しく降る日、菜穂子は突然思い立って療養所を抜け出し、東京で夫と会う。ぎこちないやりとりの中で、夫の知らなかった 面を見、二人はわずかながら心がふれあったように感じる。菜穂子はひとり東京のホテルで一晩を過ごしながら、今日のように心 の思うままに行動してみたら、自分の求めるものが見つかるのではないかと思う。 菜穂子について

真谷文緒(のち晴海文緒、明治36年生まれ、23歳) 有吉佐和子著 「紀の川」のヒロインの長女

和歌山の県会議員(のち国会議員)の父敬策と、紀州の名門出身の母花の長女として生まれる。父の政治家としての成功は、母の 有能さによるところが大きかった。文緒は、美しく完璧主義で、保守的でもある母に反発するが、面と向かうと頭が上がらない。 女学校でストライキを企てたり、東京の女子大で男女平等論をぶったりした後、晴海英二と恋愛結婚する。(実質は仕組まれた見 合いであったが)後に文緒の妹と文緒の次男が同じ頃病死し、悲しむ母と娘ははじめてしみじみと心を通わせ合う。文緒の娘華子 は大きくなると文緒が花に反発しながらも金の援助は受けていた点を批判し、母よりはむしろ祖母を慕う。その頃の真谷家は、無 気力な文緒の兄のために凋落への道をたどっていたが、それとはまた別に、花から文緒、華子へと、女の系譜には確実に伝わって いく何かがあるようだった。 文緒について

小川万亀(のち高瀬万亀、大正四年生まれ、11歳) 林真理子著「本を読む女」のヒロイン

山梨の菓子屋の末娘。母に都会風に育てられ、小さい時から本を読むことが好きで頭がよいが、背が高く、特に美しくないことに コンプレックスを持っている。東京の女専に進み、相馬の女学校の教師、いったん実家に戻って祖母の介護、再び東京で幼なじみ 末吉の会社に就職と、運命は転々とする。その背景には、見栄を張るところがあり、同時に本人より家族の事情を優先させる母の 強い態度とそれに反発しながらも逆らえない万亀の性格とがあった。学校や職場でいつも優秀さをほめられるが、万亀には自分は 結婚できないのではないかという恐れがあった。東京で恋に破れたあと、末吉のすすめで高瀬と結婚した万亀はやがて大陸に渡る。 生活能力のない夫のために働き、夫の出征、生まれた子の死など、つらい出来事を経て終戦を迎える。身を寄せた実家の生活を支 えるために万亀は再び上京し、好きな本の店を開くことに活路を見出す。のちには夫が帰還、長女(著者の林真理子)も生まれる。 万亀について

津田典子(大正6年生まれ、9歳―小説の時代を昭和12年とした場合) 伊藤整著「典子の生きかた」のヒロイン

父をなくし、母が再婚して叔父夫婦にひきとられる。同じように叔父の家に身を寄せる親戚の速雄を愛するようになる。二人とも 叔父の家では疎外されがちであった。速雄は家系的な結核にかかって入院し、典子は叔母から気の進まない縁談を強いられる。典 子は家を出て、友人の叔母の喫茶店で働いて自活しようとする。その後速雄が死に、一方、次第に騒がしくなる喫茶店になじめな くなる。 ある日、客の鈴谷が忘れて行ったトルストイの本に強い印象を受けたことがきっかけで、鈴谷と親しみ、恋人となる。彼の紹介で タイピストの勉強を始めた典子は、喫茶店を出る決意をする。一方、やはり喫茶店の客の砂田からも、好条件で住み込みの家庭教 師を依頼される。新たな自立の可能性が出てきた典子だったが、鈴谷との愛情は、お互いに観念的なものにすぎないことを知る。 典子は鈴谷と別れて生きて行く決意をする。 典子について

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