「北の海」篇   


「北の海」にあらわれた洋食
文頭のカッコは場所です。


(沼津)

この中学生活の打上式は誰にも至極満足に行われた。スープをのみ、魚のフライとトンカツを食べ、コーヒーを飲んだ。料理が全部出て しまってから、あとはビールを飲んだ。

(沼津)

「君は甘いものは食べるか」
「食べます」
「じゃ、菓子も序でに買っておこう。多分家にあると思うんだが」
そう言って、すぐそこにあった菓子屋の中にはいって行った。洪作も随った。
宇田は化学の教師とは思えぬ買い物をした。ゼリービンズという菓子である。洪作はこういう小さい菓子は子供の食べるものとばかり思 い込んでいたので、その袋を受けとって、奇妙な思いに打たれた。

(沼津)

「何だい、それ」
宇田は菓子包みをさして言った。
「あんパンでしょう」
いきなり洪作が口を出した。
「そう。よく当たったわね」

(金沢)

そこへぜんざいが運ばれて来た。どんぶりにはいったぜんざいというものは、洪作にとっては初めてだった。大きな餅のきれが二つはいっ ている。

(金沢)

「ライスカレーか、それともカツレツか」
山川が訊くと、
「両方食わせろ」
杉戸は言った。
「ノートを貸してやるんじゃないか。けちけちするな」
「よし、仕方ない。ライスカレー三つに、カツ二つ」
山川は女の子に注文した。

(金沢)

「ちょっと待っていましょう。きっとカステラにありつけますよ」
杉戸は留めた。暫くすると、杉戸の予想した通りおばさんの声が階段の下から聞こえて来た。
「お茶をあがるなら、どうぞ」
「ほうら、ね。じゃ、折角だから、ご馳走になりましょうよ」
杉戸が部屋を出たので、洪作もついて行った。階下の茶の間でカステラのご馳走になった。

(金沢)

「胃ががぶがぶしている」
と鳶は言った。鳶の胃の中には、アイスクリーム五個と、ソーダ水一杯と、ラムネが二本入っていた。がぶがぶする筈であった。

(沼津)

釜淵は、それから、
「どこかでコーヒーを飲もうか」
と言った。(略)
洪作は、釜淵を最近できた一軒の洋菓子屋に連れて行った。そこの店の一隅が喫茶部になっていて、二組か三組、卓と椅子が配されてあ る。
(略)
洪作はコーヒーがうまいか、まずいかは判らなかった。コーヒーというものはたまに藤尾の家でご馳走になるぐらいで、めったに飲む機会 はなかった。金沢でもついにコーヒーにはありつけなかった。

(台北からの小包)

その小包から出て来たものは、新しい絣のひとえの着物、肌じゅばん、パンツ三枚、チョコレートの箱二箱、ハンカチ一ダース、石鹸六個 、ピーナッツ・バターひと罐。

(神戸)

途中で一軒のミルク・ホールに大勢の人が詰まっているのを見て、そこへはいった。どの卓も客でいっぱいだった。客は申し合わせでもし たように新聞を読みながら、パンとミルクを胃の腑に落し込んでいた。これから職場に出勤する勤め人たちであった。沼津でも、金沢でも 見られなかった風景であった。
洪作もパンとミルクで朝食をとった。二度目の朝食であった。頭がはっきりしなかったのでコーヒーを二杯飲んだ。
(略)
路傍にアイスクリーム屋が店を張っていて、そこに人が群がっていた。洪作もそこの客となった。沼津で食べるアイスクリームよりうまい と思った。



神戸や台北はさすがにモダンですね。神戸のミルクホールやアイスクリーム屋は、六甲牧場のミルクを使っていたのでしょうか。今読んで も美味しそうです。

金沢でもけっこう庶民的な洋食が普及している様子が興味深いです。沼津や金沢は、学生生活が描かれていることもあって、神戸に比べる とバンカラな雰囲気になっていて面白いです。

このほかに、ラーメンを食べたり、ラムネやサイダーを飲むシーンは何度も出てきました。

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