皆既日食観測






私の場合は多少の興味はあるものの
決して天文ファンというわけではありませんが、
雑誌やニュースで記事を見るたび、常々
皆既日食を見られるなら見てみたいと強く思っていました。
この1999年の皆既日食は、ヨーロッパで8月と、場所や時期の条件が良く
また調べてみると、これを逃すとしばらく条件の良いものはなさそう。。。
ということで、かなり前から是が非でも行きたいと思っていました。

この皆既日食は、ニューヨークの東約700キロの大西洋上から始まり
(日の出に皆既日食が始まります)、イギリス南端をかすめフランス北部、
ドイツ南部、オーストリア、ハンガリー、ルーマニア、トルコ、パキスタン、インドと進み、
ベンガル湾で終わります(日没に皆既日食が終わります)。
最大皆既継続時間は2分23秒で、ルーマニアで起こります。

ヨーロッパから西アジアへと広い範囲で観測可能ですが
さて、どこへ行くかです。
ヨーロッパでは、皆既日食帯が、フランスのランス、
ドイツではシュツットガルト、ミュンヘン、
オーストリアではザルツブルク、ハンガリーはバラトン湖周辺、
ルーマニアの首都ブカレストといった大都市、観光地を横切ります。

日食というのは流星群と違い、当たりはずれなく
起こる場所、時間がはっきりしています。
しかし空が晴れていないことには、見ることは出来ません。
色々な雑誌を読むと天候というのは実に難儀な話のようです。
何度も日食を見に行ったのにダメだったり、何勝何敗だという話が出ています。
(今回の日食も場所により、雨だったり厚雲だったりで、
悲喜こもごもだったようです)
行く気になったら、その辺が一番に気になるところです。
西ヨーロッパでは雲が多そうで、東ヨーロッパになると晴天率が良くなり、
トルコ、イランは最高(快晴以外の理由がないとか)、
インドではまた雲がちということです。

皆既継続時間が一番長いのはルーマニアで、
ドイツ〜ハンガリーもそれに近いものがあります
しかし天候が第一ですから、日食本位ならば、トルコ、イランでしょうか。
宿泊や治安、交通機関、観測前後での観光などを考えるとヨーロッパでしょう。
宿泊条件も良く、せっかくですから観光も、でも日食が本位、悩むところです。
天文雑誌をめくってみると、天文雑誌関係が主催するツアーが
早いうちからいくつか予告されています。
天文雑誌関係の主催ですと、なるべく良い条件で日食が見られるそうですし、
サポートも期待できそうです。
確実に(天候は仕方ありませんが)日食も観測できて、観光もおいしい、
ということで、天文雑誌の主催するツアーを調べて
今まで行ったことが無く、見どころも多いハンガリーでの観測に参加しました。
(このツアーでは日本出発時に編集長が来て
成田空港の特別室で結団式が行われました)
ハンガリーは晴天率、皆既継続時間(最大に1秒少ないだけ)も
今回の日食では良好です。


観測地は皆既日食帯の中心線にほど近いハンガリーのリゾート地バラトン湖畔です。



観測地で


ハンガリー・バラトン湖での日食データ

第1接触
第2接触
第3接触
第4接触
現地時間
11時26分9秒
12時48分47秒
12時51分9秒
14時12分57秒
世界標準時
9時26分9秒
10時48分47秒
10時51分9秒
12時12分57秒
皆既継続時間
2分22秒

第1接触:欠け初め
第2接触:完全に欠ける瞬間
第3接触:太陽が顔を出す瞬間
第4接触:欠け終わり


下の写真は、日食当日の観測地付近の様子です。
左側の2枚で見えている湖がバラトン湖です。
ハンガリーでは海と呼ばれているバラトン湖は東西に細長い湖で、
ヨーロッパの大陸部では最大の湖ということです。







さて、日食当日の話ですが、これが何とも劇的でしたので、
その辺から始めます。

夜明け前の未明、外が騒がしいのに気が付きました。
ものすごい大荒れの天気です。
雨、風が激しく、稲妻が横走りしています。
な、なんという天気でしょうか。嵐です。もうこれでは、日食は無理!
(インターネット上では、この地では過去20年間のこの日の前後
計300日間のデータでは晴天でなかった日はたったの 3日しかない
という気象データもあったのですが)

それでもあきらめずに観測地に向かうことになり、
観測地へ向けて出発する予定の時間になると、雨もほぼあがってきました。
しかし、空は分厚い雲で覆われ真っ暗です。
ところが、観測地へ向かっている間に、雲も所々切れてきて
一部には青空も見えてきました。
観測地に到着する頃には、すっかり青空が広がり、雲もほとんどなくなりました。
初めはもうダメかと思っていましたが、あれよあれよという間に、天候が変わり
バッチリ観測できる条件になりました。何とも劇的です。



日食が始まる前の様子


日食観測の準備も終え、日食が始まるのを待っていると、
飛行機のエンジン音が聞こえてきました。
どこかのTV局ででも飛ばしているのかと注目して見ると、
なんとNOKIA社の携帯電話の広告でした。
多くの人が空を見ているのでなかなかうまい宣伝です。
でも、日食中だったら、大ひんしゅく!
結局、バラトン湖のまわりを2度ほど通過して行くのが確認されましたが、
日食のじゃまにはなりませんでした。

この2枚の画像はビデオで撮影した画像です。


  


広告をうらから見ています


さていよいよ日食が始まります。現地時間で11時26分頃に第1接触です。
ところが、日食の時間が近づくにつれ段々雲が多くなって来ました。
結局、日食の最中は雲を通しての観測になってしまいました。
(日食が終わるとまた雲が無くなるのですから、イヤになっちゃいますね)
雲が多くなってしまって、あまりはっきりした写真ではありませんが、
どうにかここにお見せするような写真が撮れました。
(私は天体写真の経験が無く、もちろん日食も初めてで、まったくのど素人です)


部分日食中の写真です。太陽がずいぶん細くなってきました。
写真を見ただけでは、三日月のようにも見えますが、
明るいところは月ではなく太陽です。


  





部分日食中は、さほどの感動が無かったのですが、
ダイヤモンドリング(※)から皆既日食、更にまたダイヤモンドリングになる間は、
ものすごく劇的で感動ものです。
急に暗くなり(かなり暗いです)、地平線が夕焼けになり、肌寒くなり、
太陽の近くに星(たぶん金星)が見えます。
空には黒い太陽が浮かび、フレアーや赤いプロミネンスが見えます。
異様な光景です。
部分日食とは比べものにならない驚きです。(この感動は癖になります)

※ダイヤモンドリングは学術的に明確な定義が無いそうです。
第3接触直後に見えるもののみをいう、という話もあります。







  







皆既日食中はカメラのレンズを通して(時々は肉眼で)見ていたわけですが
写真に写ったものよりもレンズを通して目で見たものの方が遙かに素晴らしい感じです。
赤いプロミネンスもはっきり見えました。
肉眼で見るのが一番良いとは聞いていましたが、ほんとにそうです。
(写真では人間の目のように補正がうまく行かず、
良い出来映えにするのには後処理をするようです。
でも見た目とは違うなあ、と感じるものも少なくはありません。
やはり、色などを含めて目で見たのが一番美しい気がします)




  





下の写真は皆既日食後のダイヤモンドリングが終わったあと
(第3接触のあと)の様子です。
多少ですが、地平線に近い空が夕焼けのように染まっています。
(それにしても雲が多い)






日食の時は、木漏れ日も太陽と同じようにかけて見えます。





拡大してみて下さい。
木漏れ日が日食の欠け具合と同じく
三日月状になっているのがわかると思います。



皆既日食の前後の写真を一枚に張り合わせてみました。




雲を通しての写真ではっきりしなかったり、
私がこの手の写真にまったくのど素人だったりでこの程度の写真ですが、
電子暗室処理をするなどして、
素晴らしい皆既日食の写真を公開しているホームページもあります。
そちらは、リンク集をご覧下さい。



下の写真はハンガリーとオーストリアで買い求めた新聞です。
(右上のは雑誌(?)の号外)
今回の日食は日本でも新聞に掲載されていましたが、
下の写真にある朝日新聞は衛星版でウィーンで購入したものです。





下の切手はハンガリーで販売されていたものです。
バラトン湖を横切る皆既日食帯がデザインされています。
1999Ft(フォリント)です。1フォリントは0.54〜0.6円です。
1999年なので1999Ftなのでしょうか。


記念切手とそれが入っていた袋
 


切手だけのアップです


雲が多く多少残念なところはありましたが、
何はともあれ、念願の皆既日食を自分の目で見て
その前後の様子を直接体感できたのは、とても素晴らしいことでした。
部分日食では体験できない劇的な変化。
はっきり言って、癖になるほど素晴らしいものでした。
何回も出かける人がいるということですが
その気持ちが十分にわかるものです。




オープニングへ(表示リセット)