死霊を支配する者 −決戦−

死霊を支配する者 −使魔−
著・とち

 「……うっ。」
薄暗い、広いのか狭いのかもわからない空間、
若い女の苦痛にうめく声が響きました。
 「カンタ、長瀬とかいう男に殺られたか…」
彼女はそう言うと左手を複雑に動かしました。
その美しい唇からは不思議な歌のような言葉…。
歌が終わると、
 「我が魂より離脱せん…」
と一言つぶやきました。
 「……。奴を少々甘く見ていたようね……ん?」
女は何かに気がついたように、意識を集中させました。
 「あれは? ついに見つけたようね。…姫様…」
にやりと笑みをもらすと再び意識を集中させました。
 「ふふっ、とりあえず、あなたには死んでもらいますよ、お姫様」


 「健太郎さん、こっちです。こっちに続いてます。」
何かを手繰り寄せるように駆けるリアン、
青く長い髪の毛が跳ねるたびに汗のしずくが宙に舞います。
さっきまで雲の隙間から光がこぼれていたハズなのに、
いまはその光さえなく、空は厚い雲に覆われていました。
健太郎は時折光る稲妻を遠くに眺めました。
その下にはさっきまでいた遊園地があるハズです。
 「スフィーは無事だろうか? 長瀬さんは無事だろうか?」
不安に思った彼の足は自然に遅くなりました。
 「健太郎さん…、姉さんたちは、きっと、きっと大丈夫です。」
リアンは力強く、そう答えました。
彼らの進む道の先には、彼らの街の隅の墓地、
リアンたちは確実に敵のすぐそばまで辿り着けたようでした。


 「さぁ、派手に遊ぶよ〜」
薄暗い、広いのか狭いのかもわからない空間、
そこには女しかいないハズでした。
どこからか幼い少女の声が聞こえたような気がします。
 「スケルトンぐらいは準備したかったけど、まだ一体しか出来てないから」
今度は、この女の声のようです。
 「まぁ、たかがお姫様ひとりなら、カンサブローぐらいで…」
女は口の端だけで笑うとそう言いました。ネーミングセンスはちょっとアレですが…。
暗闇の中で怪しく赤く光る眼球には、一人の少女が映し出されています。
おそらく、この女は高位の魔術師か何かでしょう。
彼女の目には彼女と感覚を同じくする使魔が見ている映像が映し出されているのです。
 「ふふ、ミラーハウスなんかに逃げ込んでどうするつもりかしら?」
 「えぇっい、まじかるサンダーっ!」
 「なにっ!?」
女の身体に緊張が走ります。そこには鏡張りの空間と少女の映像と、
そして、その空間を乱反射して走り回る電光っ(汗)
 「か、考えたわねっ(汗)」
 「もっといくよーっ まじかるサンダーっ!」
ついにその電光が眼球いっぱいに広がります。次の瞬間、女の身体が激しく痙攣しました。
 「あぁぁぁ〜、きっくぅぅぅ〜〜〜」
ちょっとだけセクシーな悲鳴(?)
 「でも、それだけではこのカンサブローは死にはしないわっ!」
 「うわぁっ、まだ生きてる。」
はぁはぁと肩で荒い息をしている少女を見て女はまた口の端だけで笑いました。
 「お姫様? 残念ながら、ここでお別れです。怨むならあなたのおじいさんを怨んでね」
っとどこかで聞いたようなセリフですが、それが聞こえたのか聞こえなかったのか、 スフィーは拳を胸の前で作り、  「こうなったら、こうなったら、変身するしかないねっ!」
っと、まだまだ戦う気満、々ですっ!  「む?」
暗い空間に、女の目からまばゆい光が漏れました。
それは、おどろおどろしい雰囲気ぶち壊しなメルヘンちっくバリバリな光です。
 「ふふっ、何に変身したってもう姫様には魔力が残っていないハズ…」
 「ほな、いっくでぇ〜」
 「な、なんだとっ!」
光の帯が途切れると、そこに現れたのは…
眼鏡に二つ結い、八重歯がとってもキュートなハリセン娘だったり、だったり、だったり…(汗)
パシパシとハリセンを鳴らすと、
 「あんたに好き勝手させるのも、ここまでやっ!」
ビシっとハリセンを突きつけられましたっ!
映像的には、です。
その実際の姿は…カラスにむかってハリセンを構える少女、
はたからみると………うわっ、動物虐待だっ(汗)
 「好き勝手って、お前の一方的攻撃だったろうがっ!! うわぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っ」
女の眼球が白に染まりました。画像いっぱいハリセンだらけです。
彼女は左手を複雑に動かしました。美しい唇からは不思議な歌のような言葉を紡ぎだします。
さっきの不思議な歌は、まるで早送り状態でしたが、歌い終えると
 「わ、我が魂より離脱せんっ」
っとなんとか使魔を切り離したようです。
 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」
よほど焦ったのか、さっきまで冷笑的だった彼女の姿はどこにもなく、
額に張り付いた黒い髪を手の甲で払いのけ、肩で息をついています。
 「し、少々、あ、あ、甘く、み、ていた、ようね、はぁ、はぁ、はぁ」
本当に少々だったのでしょうか?


 「多分、ここだと、思います…」
リアンが立ち止まったのは、墓場の真ん中、地面にぽっかりあいた穴の前でした。
 「こ、こんなところに隠れていたというか、なんというか…」
なんか、なんでいままでバレなかったのだろうか? という大きさの穴を前に、
リアンと健太郎は一瞬、大きな汗マークをおでこに出しましたが、
相手は強大な魔力を有する死霊使いです。
二人を顔を見合わせると意を決して穴へと入りました。
穴の中は思ったより狭く、暗く、階段が奥深くまで続いています。
 「健太郎さん、大丈夫ですか?」
前を歩く健太郎は手を壁について、ゆっくり、ゆっくりと階段を下りて…
 (ごんっ)
 「痛いっ(汗)」
階段は下に続いているのですが、なぜか前に進めません。
 (ごんっ、ごんっ)
 「魔法の障壁でしょうか?」
 「リアンにも分からないの?」
 「いえ、なんか、階段の幻覚を見せようとして、失敗しているっていう感じなんですけど…」
リアンがそう言ったとたんに、健太郎にもなんかそういう気がしてきました。
リアンの眼球には、その向こうで肩で息をしている女性が映っていたからです。
健太郎は振り返るとゆっくりと、確実に、いままで進めなかった場所を触ろうとしました。
 (すぅーっ)
 「あ、通り抜けられそうだ。」
 「お、お、お、お、お前ら、どうやってって、ああぁぁっ、もう一人の姫っ!!!」
本当は、美しい顔立ちに冷笑的な雰囲気…な感じの美女なんでしょうが、
額に汗で張り付いた髪があちらこちらに跳ねている様は、
ただの慌てモノのおばさんです。
 「リアン、一応、念のために魔力封じ込める…というか、キャンセルの準備しようか?」
 「え、えぇ、そうですね。」
 「お前ら、一応とか言ったな、いますぐ後悔させてやるっ!」
どうやら死霊使いらしい女は両手を大きく、円を描くように振りました。
その中央、何もない空間から炎が現れはじめます。
 「や、やばいっ、リアン、逃げるんだっ」
 「はいっ」
リアンは魔法で一時的に小さくした『封魔の杖』のネックレスを外し少し魔力を込めながら外へと走ります。
少しづつ大きくなっていく『封魔の杖』、しかし杖に頼るより今は逃げるのが先のようです。
健太郎とリアンが穴から這い出したその瞬間に、穴から巨大な炎が吹き上がりました。
すでに元の大きさを取り戻した『封魔の杖』を手にしたものの、
リアンの詠唱より、相手の詠唱が早いようです。リアンは精神の集中を躊躇いました。
 「だいじょうぶですよ、リアンさん」
 「え?」
 「あちらさんも、ずっと魔力を使い続けてますからね、そろそろ打ち止めのハズです。」
ひょっこりと姿を現したのは、お墓にお供え物のウーロン茶をぐびっと飲んでいる長瀬。
って、いいのか?(汗)
 「な、長瀬さん?」
 「く、くそっ」
女死霊使いは舌を鳴らしました。
 「だが、私は死霊を支配する者…。いでよホネタローっ!」
やっぱり、そのネーミングセンスはちょっと……
 「うわぁ〜、骸骨だぁっ(汗)」
 「リアンさん、今度はキャンセルしてくださいっ!(汗)」
 「は、はいっ」
あたふたと詠唱に入るリアンでしたが、どう考えてもそれは遅いようです。
 「あははははははっ、まずは一人、お姫様の命、今度こそ貰ったぞっ!」
死霊使いは勝利の高笑いをしました、が……。
 「こみパカタログは最後の武器やっ」
どこからともなく飛来する電話帳ならぬブ厚いこみパカタログ…
ホネタローの何も映し出していない目があるはずの窪みにヒットしました。
いきなりの攻撃にさすがのホネタローもよろけました。
 「リアン、いまやぁっ!」
どこからともなく聞こえてくる元気な声っ!
 「『封魔完了!』」
って、なんか別のゲームみたいです(汗)
しかしながら、効果はちゃんと出たようで、死霊使いの魔力の結晶である、ホネタローは
無残にもボロボロと崩れ落ちて行きました。
 「な、なんで?」
ひとり呆然と立ち尽くす死霊使い、
残念ながら魔力を失った魔法使いなど、ただの女です。
 「え、えーっとぉ〜」
 「あとは、まぁ、素手でボコボコやなっ♪」
ひょいと現れたスフィー、なぜかハリセンをパンパンとならしています。
 「姉さん、その格好は…」
はい、みなさん、御一緒にっ♪
 「乙女の秘密やっ♪」


 「それじゃ、けんたろー、リアン、またね〜」
 「覚えてろ、猫耳っ!」
 「うるさいっ」
 (ぽかっ)
っと帰る時まで賑やかなスフィーと女死霊使い、
 「健太郎さん、ようやく寂しくなりますね。」
リアンが夜空を見上げてつぶやきました。
いかにも姉思いのリアンらしい感想…なのか?
…自力でこの世界に来れるようになったスフィーですが、
その魔法を使うために1ヶ月のインターバルが必要らしいのです。
ですが、今回の帰りはグエンディーナ特捜宮廷魔術師団持ちらしいです…。
っというのも、あの死霊使い確保という、スフィー(?)のお手柄だからです。
ようやく、たったいま、もとの世界、グエンディーナに帰ったスフィー(と女死霊使い…)
また、一ヶ月、スフィーとは会えません。(たぶん、死霊使いには一生会えません…)
リアンにとってはすごく寂しいことなんでしょう……。
 「リアン、風邪ひかないうちに帰ろうっ」
健太郎は夜空を見上げるリアンに声を掛けました。
とその時、何かが、何かがHoneyBeeの方向へと落ちていきました。
 どごぉぉぉぉぉんっ!!
すごい音がしてあたりが一瞬明るくなりました。
 「健太郎さん、わたし、もう嫌です。」
振り向いたリアンは微笑みながらそう言いました。

−おわり−



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