死霊を支配する者 −禁忌−

死霊を支配する者 −禁忌−
著・とち

 「健太郎さん、また寂しくなりますね。」
リアンが夜空を見上げてつぶやいた、
いかにも姉思いのリアンらしい感想だと思う、
自力でこの世界に来れるようになったスフィーだが、
その魔法を使うために1ヶ月のインターバルが必要らしい、
たったいま、もとの世界、グエンディーナに帰ったスフィー
また、一ヶ月、スフィーとは会えない、
リアンにとってはすごく寂しいことなんだろう……。
 「リアン、風邪ひかないうちに帰ろうっ」
夜空を見上げるリアンに声を掛ける、
振り向いたリアンは微笑みながら言った
 「そうですね、また一ヶ月、二人でがんばりましょうっ♪」

ふと夜中に目が覚めた、
隣で静かな寝息を立てているリアンを起こさないように布団から出る、
リアンと二人っきりというのは嬉しいが、
たしかにリアンの言うとおり、
明るく無邪気なスフィーがいないと、この五月雨堂も静かなもんだ。
ふと窓の外を見ると………。
な、なんだ? あれ?
何かが、何かが長瀬さんの店の方へと落ちていく……
まさか、スフィーが帰ってきたのか?
でも、だったら、なんでこっちにこないんだ?
 どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!
すごい音がしてあたりが一瞬明るくなった、
ただの隕石なのか?
いまの物音でリアンも目を覚ます、
 「健太郎さん、なにかあったんですか? ……。」
そういってリアンは小さな身体を震えさせた、
 「……すごい魔力を感じます。」
 「え? どういうこと?」
 「強い、荒々しい魔力です。……。」
リアンは窓の外を見た、
外からは消防車のサイレンの音……
 「健太郎さん、行ってみましょうっ!!」
いつもとは違う、力強い眼差しでオレを見上げるリアン、
 「わかったっ」
オレたちは上着を羽織ると外へと駆け出したっ!!

まだ薄暗い街を走る、
淡い光を放つ星がいまだに舞う薄明かりの空を突き破った何か、
リアンによると、その何かは、強い魔力を持っているらしい、
オレたちが目指す先からは、もうもうと黒煙が立ちのぼっていた、
とにかく、オレたちは懸命に走った。が、
長瀬さんの店は、オレたちがたどりついたときにはもう、火の海だった、
テレビでも有名な人なだけあって、あたりは野次馬だらけ、
消防士や警察官の叫び声があたりを包む、
長瀬さんは無事だろうか?
 「まさか、おじいさまが……」
リアンが不安そうにつぶやく、
オレはリアンに対する転移の魔法をキャンセルするために
長瀬さんが協力してくれたのを思い出した。
リアンもそれを思いだしたのだろう、
 「いえ、違いますね、」
オレたちの後ろから、間延びした声がした、
 「な、長瀬さん、無事だったんですか?」
長瀬さんは優しそうな目をして笑って見せた、
 「わたしの知る限り、リアンさんのおじいさんの魔法ではありません。」
 「え? どういうことですか?」
 「先代の王様の魔力とは明らかに魔力の質が違います。」
長瀬さんは、そう言うとオレたちの手を引いて人気のない公園へと向かった
 「リアンさん、魔力を隠してついてきてください」
歩きながらそう言ったっきり、公園まで沈黙が続く、
あたりに人影が無いことを確認したあとで、
 「あそこでは、話しづらかったもので……。」
優しそうな目から一転、険しい目つきにかわる……
 「ごく稀に、あちらの世界から犯罪者が逃げ出すことがあります。」
 「え? 犯罪者……」
 「こちらの世界と同様、あちらの世界にも悪人がいるということですよ」
オレの反応に長瀬さんは冷静に答えた、
リアンは唇をかみ締めている、
オレは、グエンディーナの住人はみんな明るくて優しい人間だと思っていた、
スフィーや長瀬さん、そしてリアン、みんないい人だから……。
 「そういった連中はこちらの世界を我が物にして力を蓄え……」
 「おじぃさまや、おとうさまに対抗しようとする……」
リアンがぼそりとつぶやいた、なにかの記憶を手繰り寄せるように…
 「そうです、リアンさんはまだ生まれてなかったでしょうけど…」
 「はい、なにかの本で読んだことがあります。」
 「グエンディーナでも戦争は起こるんですよ…。」
リアンと長瀬さんの悲しそうな目を見ると何も言えなくなる…。
でも、オレの中にひとつの疑問が浮かび上がってくる、
 「でも、なぜ、長瀬さんの店に……」
その、この世界を我が物にしようとしている悪人が、
なんで長瀬さんの店を攻撃したのか?
リアンやスフィーでさえ、
長瀬さんがあっちの世界の人間だと気づかなかったのに、
 「実はですね、わたしは、こちらの世界に逃げ込んだ犯罪者を退治する役なんですよ」
涼しげにそう言う長瀬さん、
 「まぁ、罰のようなもんですよ」
……にしても、失礼かもしれないが、お世辞にも強そうには見えない…。
 「…そうでしたか……」
え? リアン……
 「わたしの転移の魔法をキャンセルしたとき、すごく強い魔力を感じたんです。」
 「でも、それだけではありませんよ、健太郎くんの想いが強かったからですよ。」
リアンが嬉しそうにうなずく、
 「健太郎くんが思うように、わたし自身の魔力はそれほど強くありません…」
長瀬さんがオレをまっすぐ見て言う
 「わたしの魔力だけでは、あの魔法をキャンセルできなかったでしょう。」
そう言うと顔を曇らせた、
 「骨董品にも人の想いが込められています。」
そ、そうか、そういうことなのか、
その悪者にとって長瀬さんの魔力は脅威だった、
だけど、その根源である骨董品を、焼き尽くすことによって……
……長瀬さんの魔力を抑えることができる……
 「こんどは骨が折れそうですね、かなりの事情通の敵ですよ…。」
 「…あ、あの…、わたしにもお手伝いできませんか?」
リアンが、静かに、でも力強く言った。
 「駄目です。敵の狙いは、あなたかもしれないのですよ?」
 「そ、そんな……」
 「人質……として、使う……ということですか……。」
 「リアンさんだけではありません、こちらの世界に来ているグエンディーナ人、全員が人質となり得るんです。」
 「………。」
 「………。」
オレは、オレだけじゃない、たぶん、リアンも、底知れない恐怖に怯えた……。
何者か分からない敵、そして長瀬さんのコトを知っている敵、
もしかすれば、この世界は、その敵の強大な魔力に屈するかもしれない…。
 「とにかく、」
長瀬さんが沈黙を破る、
 「わたしを五月雨堂においてもらいたいのですが……。」
 「……あ、はぁ、そうですね、」
 「あそこなら骨董もある、わたしの魔力の回復も多少は早くなるでしょうし…」

オレたちがウチに帰ったころには、すでに空が白みはじめていた、
すこし早い朝食を終えると長瀬さんは店の倉庫へと引っ込んだ。
 「何か使えそうなものがあるかもしれませんし……」
オレとリアンは仮眠をとる、
昨日、布団に潜り込んでから、わずか数時間……
この数時間のあいだに、いろいろがコトがあったような気がする……
結局、いろいろ考えているうちに寝ることもなく、店を開ける時間になってしまった。
気が早いワイドショーなんかでは長瀬さん行方不明の報を大々的に取り扱っている
振ってきた隕石らしきものについては、ぜんぜん触れていない、
…というか、なぜかガス爆発によって炎上と報じられている、
おそらく敵の魔法かなにかで事実が曲げられているのかもしれない、
 「あ、あの、健太郎さん、お店、どうしますか?」
 「……今日は休みにしよう、」
あけようとしていた店の入り口にカギを掛け、住居の方へと戻り入っていく、
 「姉さんが居てくれたら……」
 「スフィー……か……」
オレたちは、そう話しながらリビングへと入っていった。
 ばたんっ、
冷蔵庫を閉める音が聞こえる
ふたりに緊張が走った。はっとして振り向くと……
 「けんたろ〜、なんか食べるものないのぉ?」
 「ね、ねぇさんっ!!」
 「すふぃ〜?」
幼い姿のスフィーがジュースのペットボトルを片手に頬を膨らませていた。
もう片方の手には、見たことも無いような古めかしい杖を握っている。
 「せっかく元の姿に戻ったのに、無理して来たら、また小さくなっちゃったよぉ!!」
 「無理してって……」
 「あ、そうだった、大変なの!!」
まぁ何が大変なのか、だいたいは予想できたが、
なにか新しい情報があるかもしれない、
要領を得ないスフィーの話を要約すると、
禁忌の魔法を使った罪で捕らえられた魔法使いが脱走し、こちらの世界に逃げ込んだ、
ということらしい、
 「禁忌の魔法? なぁ、スフィー、禁忌の魔法ってなんだ?」
 「うーんと、たしか、ネクロマンサー系の魔法、使ったみたいなの、」
 「ネクロマンサー系?」
 「あ、あの、死霊使い系の魔法です。」
 「うん、結局、死人に対しての冒涜なのよね、だいたい気持ち悪いしっ」
 「で、その魔法使いってのは?」
 「うん、ゾンビ軍団で反乱起こしたのよ、前に、それで捕まったんだけどさっ」
 「なるほど、ネクロマンサーですか、やっかいですね……。」
いつのまにか長瀬さんが後ろに立ってた。
 「あ、こんにちはっ」
 「こんにちはスフィーさん、それで、あなたが持ってる、その杖……。」
 「そだ、そだ、これ、おとうさんから、預かってきたんだ。」
 「わたしにですか?」
 「うんっ」
 「こ、これは、……いい仕事してますねぇ、すごい魔力を感じます……」
 「でしょ? おとうさんが若い頃に作った『封魔の杖』だってっ」
 「あの、すべての魔法を一時的にキャンセルするという『封魔の杖』ですか…」
スフィーが古めかしい杖を長瀬さんに渡す。
 「あ、これは……つらいですね、いまのわたしだと……」
長瀬さんが顔をしかめた、
 「魔力が強すぎて、この杖つかったら、わたし、死んでしまいますよ」
苦しそうに話す長瀬さん、
 「今朝の爆球を防ぐので魔力を使い果たしてしまったもので……」
 「う〜ん、あたしもこの身体だからなぁ、こんな強い魔法、制御できないよっ」
スフィーと長瀬さん、同時にリアンを見る、
 「あ、あの、わたしですか?」
 「この際、しかたないですね……」
 「リアンやってみる?」
おどおどとスフィーと長瀬さんの顔をかわるがわる見つめるリアン、
 「健太郎さん……」
不安そうにオレの顔を見るリアン、
オレも不安でしかたがない、
死霊使い系の魔法を使う魔術師、
火球、一発で長瀬さんの店を燃やし尽くす強大な魔力、
そして、いま、その魔術師は、どこに潜んでいるかもわからない、
でも、ここでオレも不安がっていたら、リアンが………。
 「大丈夫、オレも手伝う、オレの想いも使ってよ」
そう、力を込めて言って、リアンの肩に手をおく、
 「……はいっ、がんばりますっ!!」
なにかが吹っ切れたように、リアンは力強く、オレの目を見てそう言った。

− つづく −

………。す、すみません、勝手に設定をいじくりまわして……。
あぁ、いいのだろうか、勝手につづいてしまって……(汗)
ってなワケで以下次回ですっ♪



戻る