未来の翼 12話
 帝国華撃団花組は敵の本拠地を突き進んでいた。8体の神武・改が襲い掛かる降魔、脇侍を一瞬で蹴散らしていく
 「どけぇ!!」
 「でやぁ!!」
 先陣を切ってるのはカンナと隆起である、案外良い連携で襲い来る降魔を殴り、切り捨てていく
 あたりには断末魔の悲鳴が休みなく聞こえた、花組が突撃してすでに2時間ほどだ、いい加減に降魔も尽きてくる頃である
 と、その時
 「あれ?なんだここ?」
 「妙ですね・・・」
 花組が行き着いたのはとても広い部屋であった、とてつもなく、翔鯨丸がすっぽり収まるくらいの広さの部屋
 「隊長、あそこに道が」
 マリアが部屋の右上の方に道を見つけた
 「よし、全員進撃再開!!」
 「大神さん」
 不意に隆起が口を開いた
 「?なんだい?」
 「先お願いします・・・ここでケリつけますから」
 ドゥ!!
 隆起が部屋の左端の屋根に砲撃をした
 「了解だ、隆起くんを除く全機は先にいくぞ!」
 「え?隊長?」
 マリアの頭の上にも?マークが浮かんでいる
 「コラァ!!さっさとでて来いこのまな板女ぁ!!」
 隆起が突然砲撃したところに悪口(?)を言い出した
 「誰がまな板ですってぇ!!?」
 出て来たのは黒の魔躁機兵、右の腰には1本の刀、形は限りなく神武に近い
 「テメーの事だ尻デカ女!!」
 普段の隆起のイメージが総崩れ、じつは毒舌だった隆起
 「隆起くん・・・口喧嘩で勝つのは無理なんじゃ・・・」
 大神が小声で聞いた
 「あいつ熱くなると隙だらけなんでそれを利用しようかと・・・」
 「なるほどねぇ・・・」
 「って喋ってる場合じゃないっつーの!!早く行ってください!!」
 「あ、あぁ、全機進め!一気に行くぞ!!」
 大神の後に6体の神武が続く
 「隆起はん、死んだらあかんで!」
 進み際に紅蘭が言った
 「・・・・」
 その言葉に隆起は何の反応も示さなかった
 「先でまっとるで」
 「ああ・・・」
 そして紅蘭も行った、広い部屋に残ったのは2人・・・帝国華撃団、花組、木立隆起と・・・暗黒会、夢魔、空蝉・・・
 「あんたねぇ・・・そこだけは昔っから・・・」
 「事実だろ・・・」
 ボソっと言う隆起
 「あーったま来た!!この場で叩ききってやるから覚悟なさい!!」
 「そのセリフそのままお返しするぜ!!」
 先手必勝!隆起がまず砲撃をする
 「遅い!」
 それをかわした空蝉が空中から隆起に切りかかる
 「木立風師流・・・牙隆鎚臥(がりゅうついが)」
 隆起が小さく言うと辺りの地面からいくつもの岩盤が隆起の機体を守るように現れた
 「くっ・・・」
 空蝉もさすがにこの攻撃にはひるみ空中で後退する
 「わるいが遅れたくないんでな!さっさとケリつけさせてもらうぜ!」
 空中に飛び上がった隆起は一気に空蝉に切りかかる
 「この程度で・・・やられると思うなぁ!!」
 「はや・・・」
 神武の2倍近いスピードで隆起の後ろに回る空蝉
 「死ぬのはあんたよ!!」
 剣を神武に目掛けて突進する空蝉
 「なんの!!」
 ガアァン!!
 隆起も剣で受け止め力比べになった
 「強くなったな・・・」
 そんな中で隆起が口を開いた
 「あたりまえよ!!あんたを越すために強くなった、あんたを殺してこそ私は生き返った意味があるのよ!!」
 「悪に魂をうってもか?」
 「当然よ!あの人は・・・神王様の言うことは正しい!あんな帝都滅ぼして、私たちだけの楽園を作る、死と混乱と恐怖の世界をね!」
 「くっだらね・・・」
 「なんですって!?」
 隆起が小さくいった言葉が空蝉にはとても腹立しかった
 「くっだらねぇっつったんだ!そんな世界なんか作らせてたまるか!いや作らせねぇ!」
 普段はほとんど感情を表に出さない隆起が感情を思いっきり表した
 「口じゃあそんなことも言えるのよ!昔だってアンタは私を守るといった!!でも結果は知ってのとおり!!」
 「くっ・・・」
 その言葉に一瞬隆起が怯んだ
 「隙あり!!」
 ガン!!
 空蝉が隆起の剣を弾き飛ばし床に叩き付けた
 「ぐあぁ!!」
 降魔に秋を殺されたこと、自分の弱さ、隆起の最大の弱点をついてきた空蝉、隆起の神武はぴくりとも動かない
 「はぁ・・・あんたの実力はこんなもんなの!?つまんない・・・それじゃあさよなら・・・」
 空蝉が隆起に向かって剣を振り下ろした瞬間
 ドン!!
 「ぐぅぅ!!」
 隆起が起死回生の砲撃、至近距離からまともに砲撃を受けた空蝉は体制を崩す
 「てめぇともこれで終わりだあぁぁ!!!」
 いつの間にか剣を拾い、空蝉との間合いを詰める隆起
 「木立風師流・・・天翔夢限!!」
 キン!
 過去との決別の一太刀、その一撃は空蝉の機体の胴体を横に真っ二つにした
 「・・・隆ちゃん・・・強くなったね・・・」
 空蝉の言葉だが隆起には最愛の新寺秋の声に聞こえた
 「・・・あったりまえだ・・・こちとら未だにお前を助けられなかったの悔やんでんだ・・・」
 隆起の頬に一筋に涙が通った
 「私・・・隆ちゃんになら・・・殺されてもよかった・・・」
 空蝉、いや、新寺秋の声は少しずつ小さくなってきた
 「あとで行くかもしれねぇから・・・」
 「死ぬ気・・・なの?」
 「そのつもりだ・・・」
 隆起はこの戦いで死ぬ気だ、でもただで死ぬ気はないようだ
 「神王と相打ちだな・・・せいぜい」
 「死なないで・・・隆・・・ちゃ・・・」
 「・・・あばよ・・・」
 隆起は秋の機体の剣を持ちそのまま花組の面々が進んだ道へと進んだ

  花組は・・・

 「敵の妖力反応!増大してます!」
 翔鯨丸からのかすみからの報告
 「この先だ!一気にいくぞ!!」
 道の先には大き扉があった
 「突破ーー!!」
 ドオォォォン!!
 カンナの一撃が扉を粉々にした
 とその矢先!
 「うわぁ!!」
 「な!!」
 部屋から触手のようなものが7体の神武を捕らえた、その先にいたのは・・・機体中に触手を張り巡らせた・・・魔躁機兵・・・
 いや、もはや魔躁機兵ではない!ただの化け物だ
 「よくここまでたどりついたな・・・・」
 その化け物のようなものが口(?)を開いた
 「我が暗黒会首領・・・神王・・・」
 以前帝都タワーで見たときとはまるで違う、妖力も以前よりケタが違う
 「ぐ・・・」
 触手で動きが封じられて攻撃もできない花組、さらにその触手は霊力を吸い取っていった
 「あっけないものだな・・・まあよい、我の帝都崩壊の礎となれ・・・」
 神王の腹部が開き妖力が集まっていく
 「まずい・・あれを食らってしまったら・・・」
 まず跡形も残らない・・・誰もがそう思った
 「死ねぇい!」
 今まさに必殺の一撃を放とうとしたその時
 「木立風師流・・・惷瞬碌花(しゅんしゅんりっか)!!」
 カアァン!!
 白刃一線、隆起の必殺技が神王をまともに捕らえた、神王は衝撃で花組を捕らえていた触手の制御を乱し、花組は開放される
 「遅くなりました!」
 「隆起くん!!」
 隆起の神武がとても輝かしく感じた、さきほどの戦闘で多少機体にダメージがあるもののそこは上手くカバーしている
 「隆起くん・・・その刀・・・」
 隆起の神武の左手に握られている2本目の刀・・・新寺秋の物だ
 「はは、あいつのですよ」
 笑って答える隆起、いつもの隆起だ、誰もがそう思った
 「さてと、ささっと片付けましょう」
 隆起が振り返り神王を見る
 「よし!いくぞ!!」
 その言葉と同時に紅蘭、マリアの砲撃
 ドオォォ!!
 「やあぁぁぁぁ!!」
 「ええぇぇぇい!!」
 「でやあぁぁぁ!!」
 爆煙で視界がふさがったところにカンナ、すみれ、さくらの3人が一気に突っ込む
 ガガガガ!!
 しかしそれも神王の触手に受け止められてしまう
 「まだまだぁ!!」
 「はあぁぁぁ!!」
 さかさず空中から大神、隆起の2人がそれぞれ2本、計4本の剣を突き立て振り下ろす
 ザク!!
 その1撃は神王の触手を数本切り落とす程度に終わったが効果はあった
 「まだです!一気に畳み掛けましょう!!」
 さかさず空中から攻める隆起
 「同じ手は通用せぬわぁ!!」
 3本の触手が隆起の神武を捕らえる
 「まだまだぁ!!」
 それも細切れにし突撃をしなおす隆起
 「隆起くんに続け!!これが最後の攻撃だ!!いくぞぉ!!」
 大神も腹をくくった、触手に捕らわれたさいに霊力を吸収されもはや一撃分の力かしかない
 「狼虎滅却天下無双!!」
 「破邪剣征百花繚乱!!」
 「四方攻相君!!」
 「パールクヴィチノィ!!」
 「神崎風塵流鳳凰の舞!!」
 「いけ!!聖獣ロボ!!」
 全員の必殺攻撃が炸裂、辺りにはすさまじい爆煙が巻き起こる
 「やったか・・・?」
 「どうでしょう?」
 一瞬警戒を解いたその時!
 ガガガガガ!!!
 「うぁ!!」
 神王が見るも無残な姿となり現れ、金色のような矢を放ち、隆起以外の機体の動きを封じた
 「大神さん!みんな!!」
 偶然大神の後ろにいた隆起はかろうじて攻撃を避けた
 「我死しようとも・・・我の魂は不滅だ・・・」
 「てめぇ・・・」
 隆起が怒りに震えていた、最愛の人を操り、帝都の人を苦しめた敵に怒りはすでに頂点にたしていた
 「これで最後だ、我と共に死ぬことを光栄に思えぇぇぇ!!」
 腹部に妖力が集まる、あの攻撃だ、動けない花組にかわすすべはない
 「させるかぁぁ!!!木立風師流、天月召雷(てんげつしょうらい)!!」
 ドドオォォ!!
 隆起の魂の一撃は神王の腹部を突き刺し止っていた
 「グオォォオ!!」
 まさに電光石火、その一撃で妖力は乱れ、大神達を捕らえていた矢は消えた
 「隆起くん!!今・・・」
 大神が助けに行こうとしたとき
 「早く翔鯨丸に!!急いで!!」
 隆起が予想もつかない事を言った
 「こいつの妖力が爆発したらここらへんは焼け野原のレベルじゃすみません!急いでここから脱出してください!!」
 隆起は必死に剣をつきたてながらも言った
 「しかし・・・」
 「急げ大神!!」
 隆起がついにキレた、今までにないような大声で言った
 「隆起はん!!」
 「なにしてんだ!!紅蘭!!はやく!!」
 隆起の霊力もそろそろ限界だ、開放しっ放しではとてもじゃないが長時間はもたない
 「ウチとの約束どうすんや!!破るんか!?」
 紅蘭は涙を流しながら言った、隆起を死なせたくない、紅蘭の心はそれだけだった
 「わりぃ・・・守れそうにない・・・」
 「ウチは嘘つきは大嫌いや!!そんくらいわかっとるやろ!!」
 「・・・行け・・・」
 「隆起はん残して・・・」
 「行けつってんだろ!!お前まで死なせたくないんだ!!」
 そうこうしてる間に隆起が少しずつ押されてきた、霊力の限界だろう
 「紅蘭!いくぞ!!」
 大神も苦渋の決断だった、しかしこのままでは花組は全滅だ
 「大・・・」
 「なにしてんだ!いくぞ!!」
 カンナが大神に続いた
 「やむおえませんわね・・・」
 すみれがさらに続いた
 「隆起さん・・・」
 さくらも迷いながらも続く
 「急がないと間に合わないわよ!」
 マリアも続く
 「隆にいちゃん・・・ありがと」
 アイリスもマリアに続いた
 「隆起はん・・・さよなら・・・」
 ついに紅蘭も走った
 「ばかやろ・・・少しは泣かせろって・・・」
 隆起の目には涙が浮かんでいた、死ぬことへの怖さ、別れ、それが一気に襲ってきたのだ
 「さあ!!後味は悪いが、決めさせてもらおうか!!」
 隆起は右の刀で神王の腹部を一気に突いた
 「があぁぁぁ!!!」
 神王も完全に化け物と化し、必殺の一撃を放とうとしてるが隆起が霊力で抑えている
 「負けるかああぁぁ!!!でやあぁぁぁ!!!!」

 キン・・・
 乾いた音が響いた次の瞬間・・・

 ドゴオォォォォォォン!!
 大爆発・・・辺りは全て光に包まれた

 「翔鯨丸、コントロールできません!!」
 かろうじて脱出した花組を乗せた翔鯨丸も爆発をもろに食らいこのありあさまだ
 「隆起が時間を稼いでくれたんだ!!こんなことこでくたばってたまるか!!」
 米田が舵を握る、本人もいてもたってもいられなくなったらしい
 「うわあぁぁぁぁ!!!!」
 ついに爆炎に飲み込まれた翔鯨丸、あとは耐久性にかけるしかなかった
 
 そして・・・・

 「おう・・・全員無事か・・・」
 米田が言う
 「無事です・・・」
 起き上がった大神は言う
 衝撃で全員が倒れこんだがなんとか全員起き上がった
 「隆起の死は残念だったが、あいつはやってくれた」
 できれば出したくないが出さざるをえない名前・・・米田はあえて口に出した
 「隆起はん・・・嘘・・・嘘や・・・」
 紅蘭はまだ現実を受け止められなかった
 「うわあぁぁあぁ〜〜〜隆起はあぁぁぁぁん!!」
 紅蘭はそのまま床に泣き崩れた・・・
 「紅蘭・・・」
 大神がそっと駆け寄ろうとすると・・・
 「紅蘭さん・・・これ」
 かすみが懐から手紙を出した
 「これ・・・は?」
 「隆起さんが・・・出撃の前に・・・」
 「え!?」
 かすみは全てを説明した、隆起は最初から死ぬ覚悟で、言いたいことを残した手紙をかすみに託していたこと
 「隆起はん・・・・」
 紅蘭はそっと手紙を開いた

 
  親愛なる紅蘭へ・・・

  悪いな、こんなことなってよ、まぁなんつーかよ、温泉のことゴメンな、俺なりにやるつもりだったんだけどさ・・・
 
  お前とはいろいろ楽しい思いもできた・・・そして心から愛せた・・・本当にありがとう・・・

  俺が死んだ程度で落ち込むなよ、お前にはたくさんの仲間がいるんだから・・・これからがんばっていけよ・・・

  でも爆発はほどほどにしろよ・・・

  おまえの舞台・・・一度でいいから見たかった・・・


                                   木立 隆起

 
 「・・・死ぬつもりやったら・・・あんな約束するんやないて・・・」
 紅蘭は手紙を涙でぬらしていた、抑えたくても抑えられない、ぬぐっても溢れる、その涙の量が隆起への思いを表していた
 「ったく、落ち込むないうのが無理な話やねん、まあええ、アンタの事なんかすぐ忘れたる」
 「紅蘭・・・」
 紅蘭は必死に強がった、笑ってみせた、それが隆起に対する・・・精一杯のできること・・・
 「よっしゃ、帝劇かえろか!パーっと宴会や宴会やー!!」
 「おーーー!!!」



  終わり

あとがき
 未来の翼、ついに完結です、よんでくれた方々、誠にありがとうございました

 主人公の隆起が死ぬという話は一番最初からあった設定です

 紅蘭の思いと隆起の思い、こういうバッドエンドという形になりましたがこの2人はある意味とても幸せなカップルだと思います