未来の翼 9話
 銀座での戦闘の翌日、帝劇は舞台の準備などで騒がしかった
 「案外今までの舞台をもう1度やるのもいいものね」
 と、マリアが舞台袖でいった、今回の舞台はマリア、さくら主演の「愛ゆえに」
 「今回は特に女性の方からの人気が集まりましたよ」
 舞台に見学に来ていたかすみが言う
 「やっぱりマリアさん人気ですよね〜」
 くっついてきた由里もいた
 「マリアさん、怪我は大丈夫ですか?」
 売店の仕事ほったらかしの椿、マリアの事となると仕事そっちのけである
 「ええ、心配してくれてありがとう」
 「椿、由里、仕事にもどりましょう」
 見切りをつけてかすみが仕事にもどそうとするが・・・
 「「え〜〜もうちょっと見たいです〜」」
 見事にハモった由里と椿
 「だーめ、特に由里は伝票整理まだ終わったないでしょう!」
 由里にかすみの雷が落ちかけていた
 「はーい・・・」
 しぶしぶ了解する由里・・・だったが・・・
 「でもーあと5分くらい〜」
 「残業したいの?」
 「したくないです」
 さすがの由里でも「残業」の言葉には弱かった
 
 と、そこに・・・
 「やあ、皆がんばってるね」
 いつものモギリ服の大神が来た
 「あ、隊長、おはようございます」
 「大神さん、お仕事は?」
 マリアの影に隠れていたさくらが顔をだす
 「ああ、今日は特に仕事ないんだ」
 笑いながら答える大神、モギリがないときは伝票整理、これが普通なはずだが今日は免除されたらしい
 「あ、少尉、こんなところにおられましたか、支配人がおよびですわよ」
 愛ゆえにの台本を持ったすみれが来た、マリアになぜ遅れたかかと聞かれて「髪の手入れに時間がかかった」と答えた
 「(寝坊だな・・・ちょっと冷や汗かいてるし)」
 一瞬すれ違っただけで大神は見抜いた、すみれの首の裏にわずかに冷や汗と取れるものがあった
 「(まあすみれくんでもそういう事があるかな)」
 大して気に止めず支配人室へと向かう大神

 普通どうりにノックして入った大神の眼前には酒瓶片手に朝っぱらから酒を飲んでる米田がいた
 「おう、来たか」
 「なにかありましたか?」
 最近呼び出される事が多い大神だから何かあったのではないかと思う
 「ああ、隆起のことなんだけどな」
 「隆起くんが・・・何か?」
 先日の戦闘での単独行動、それが気になっていたがそれが何かと思う大神
 「あいつがよぉ・・・部屋から出てこねぇらしいんだ」
 「ええ!」
 あの真面目な隆起が部屋に閉じこもりだなんて大神には予想外だった
 「自分が様子を見てきましょうか?」
 隊員の事を心配するのが隊長の役目、大神はそれを思って言った
 「やめとけ、紅蘭が説得しても一人にしてくれとしか言ねぇらしい」
 「先日の戦闘でしょうか?」
 「なんとも言えねえ、しばらく様子を見るしかないな」
 
 所変わって隆起の部屋の前
 「隆起はーん、何か食べなきゃ身体に悪いでー」
 「隆にいちゃーん、でてきてよー」
 「おーい、大丈夫かー?」
 カンナ、アイリス、紅蘭の3人で説得に当たってる
 「ほっといてくれ!!」
 隆起の今までにないような声が部屋から飛んでくる
 「昨日の事気にしとるんか?見てのとうりウチもアイリスもマリアはんもピンピンしとるて、だから顔みせてーな」
 なんとかして話だけでも聞こうとして説得をしている紅蘭だが隆起は聞く耳を持たない
 「だからほっといてくれ!!何度も言わせんな!!」
 相手がたとえ紅蘭でも罵声が飛ぶのはおさまるどころか酷くなる一方だった
 「わかった・・・いつでも相談のるさかい・・・いつでも言ってや」
 カンナと紅蘭はしぶしぶ諦めたが一人だけ部屋の前に残った花組がいた、そうアイリスである
 「(ごめん・・・隆にいちゃん・・・)」
 
 部屋の中では・・・
 「(何イラついてんだ俺!!戦闘での失敗でここまでイラつくなんてどうかしてる!!)」
 隆起は苛立ちの矛先を自分に向けてさらに苛立っていた
 「紅蘭だって皆軽症だったし・・・アイツだってもう敵なんだから容赦する必要なんてねえんだ!!)
 とそこに・・・
 「隆にいちゃん・・・ごめんね・・・でも・・・」
 瞬間移動で部屋に入ってきたアイリス、怒られるのを覚悟の上だろうが顔は脅えている
 「アイリス・・・いいから・・・どうしたんだ?」
 怒る様子もなく理由を尋ねる隆起  
 「昨日から隆兄ちゃんおかしいよ、怒ってばっかりで・・・怖いよ」
 アイリスもアイリスなりに心配していたのだろう
 「ごめんな、アイリス、アイリスが来てくれたら、少し落ち着いたよ」
 思いっきり作り笑いを浮かべる隆起だが心の読めるアイリスにはきかなかった
 「誰かの事、思ってるんでしょ、アイリス心読めるもん」
 作り笑いも見事に見抜かれ観念した隆起は誰にも言わないという条件ですべてを話した
 新寺秋の事、その秋が敵になった事、隆起は開き直ったかのように淡々と喋った
 「やだよね・・・そういうの、アイリスたちもね、前の戦いでねあやめお姉ちゃんっていう人が敵になっちゃってね」
 「アイリス達って事は・・・花組の皆っていうことかい?」
 「うん、それでも皆で力を合わせてがんばったんだよ、あやめお姉ちゃんは戻ってこなかったけど、皆それでよかったんだよ」
 花組の事実が次々と明らかになる、隆起は一年前の戦いでは、帝都にいて聖魔城の恐怖をじかに味わっている
 帝撃に配属になる事が決まったのもその次期である、ただ霊子甲冑の開発に時間がかかってしまい正式配属がおくれたのである
 「そうだったんだ、アイリス達も・・・俺と同じ気持ちになったんだ」
 しだいに隆起の表情があかるくなる
 「それでもお兄ちゃんが励ましてくれたんだよ、だから隆兄ちゃんもお兄ちゃんにお話してみれば?」
 そこまでが自分に出来る精一杯の事、アイリスもそれを分かっていた、あとは隊長の大神の仕事だと・・・
 「じゃあアイリス、俺、大神さんの所に行ってくるから」
 決意を固め、自室を出ようとする隆起がふと足を止めた
 「あ、アイリス」
 「何?」
 「この話終わったらアイスでも買ってきてやるから待ってろよ」
 「わーい」
 無邪気なアイリスの後ろ姿を横目に大神の部屋へ行く
 が・・・大神は支配人室で米田と話し合い真っ只中である、それを通りかかった椿に聞き支配人室へ向かう隆起
 支配人室のドアを力強くノックする隆起
 「失礼します」
 入ってきた隆起の姿に驚く大神と米田
 「どうした?急に」
 「身体は大丈夫なのかい?」
 なぜか身体のことを心配する大神は置いといて
 「ご迷惑おかけしました、今回の自分の事にかんしてご相談があります」
 一礼をして本題を切り出す隆起
 「まあ、聞くだけ聞いてやる」
 そして隆起は全てを話した、話を聞いた2人は驚きはしたものの酷く動揺するまではなかった、やはりあやめのときの経験もあるからだろう
 「アイリスから聞きました、あやめさんという方も、同じようになって花組の皆さんと戦ったという事を」
 あやめという言葉を聞いた時、2人が一瞬反応した、やはり思い出は忘れていないらしい
 「おめえはそれで・・・戦えるのか?」
 米田は率直に切り出した
 「戦います、それで帝都の平和が守れるなら・・・あいつも助けてやりたいですし」
 迷わず即答する隆起、その目には迷いはなかった
 「頼むぞ、帝国華撃団、花組、木立隆起隊員!」
 「は!」
 隆起は力強く敬礼をして部屋を出た、すぐ後ろに大神もついてきていた
 「つらくはないのかい?」
 「多少はきついですね」
 「無理しなくても・・・俺たちがやるよ」
 そういう事が大神に出来る隆起に対しての励ましだった、すこしでも負担を減らそうとするための
 「いいえ・・・あいつやるのは・・・俺がやります、俺が決着をつけなきゃ・・・」
 隆起の目に決意がよぎっていた、せめてこの手でということだろう
 「そうか、それじゃあ」
 そういって自室に入っていく大神、とそこに
 「隆起はん!!どこいっとんたんや!?」
 自室の前でばったり紅蘭と会った
 「ちょっと支配人のとこに・・・」
 さっき酷い事を言った相手なだけにすこし戸惑っている隆起
 「話あるから・・・部屋いれてもらうで」
 返事も聞かずに隆起の部屋の鍵(本人曰く合鍵をパクったらしい)をあけて入る紅蘭
 「(合鍵いつのまに取られたんだ?)」
 机に入れてた合鍵の紛失に気がついたのは数日前だがきには止めなかった
 「で・・・話って」
 「アイリスに全部話したらしいなぁ」
 なぜ?誰にも言うなと言ったはずなのに・・・
 「(アイリス・・・アイスやっぱ無し)」
 心の中でアイリスへの報復を決意した隆起だった
 「全部聞いた、辛かったんやろ」
 「(アイリス・・・口軽いな・・・)」
 「聞いとるん?」
 「あ・・・ああ聞いてるよ」
 本当は全然聞いてなかった隆起である
 「言ってくれればよかった・・・ウチでも相談のったのに・・・」
 「ごめん・・・お前が聞いたら・・・よけいな心配すると思ってさ」
 「また!・・・また・・・」
 ふと隆起が顔を上げると目に涙を浮かべている紅蘭が目に映った
 「どうしてウチばっか心配するんや!自分の事少しは考えな・・・」
 「紅蘭・・・」
 「ウチは確かにアイリスやさくらはんほど霊力はないけど・・・花組の隊員や・・・」
 涙を流しながらの必死の紅蘭の叫びに隆起はなにも言えなかった
 「ウチやて・・・戦えるんや・・・ウチやて・・・」
 「ウチにやて隆起はんを守るくらいでき・・・」
 紅蘭のこの言動には無理はしないようにと言う気持ちが込められていた、その事は隆起もよくわかったいたが・・・
 「そんなに・・・涙流すなよ・・・」
 「ほぇ・・・」
 泣きじゃくる紅蘭を優しく隆起は抱き寄せた
 「お前に涙は合わないんだよ・・・」
 紅蘭を抱き寄せたままそっぽを向いて話す隆起、おそらくやったのがいいが後先を考えてなかったらしく相当赤面してると思われる
 「前にも・・・言われたなぁ・・・大神はんに」
 (サクラ熱き血潮に第11話現れた最終兵器参照)
 「大神隊長の事・・・好きなのか?」
 隆起は率直に聞いた
 「好きや、戦闘の時でもかばってくれるし・・・日常でもいろいろ相談のってくれるからええ人やと思う」
 「そっか・・・」
 その言葉を聞いて紅蘭を抱きしめていた隆起の腕の力が少し強くなった
 「りゅ・・・」
 「大神隊長を好きならそれでもいい、でも・・・今だけは・・・今だけは俺を見てくれよ」
 「ウチ・・・大神はんよりも・・・」
 「そこから先は・・・また今度な」
 ふと紅蘭を放しドアを見る隆起
 「いつまでやってんですか!?皆さん!!」
 その大声と共にドアの外ではバタバタと走り回る音が聞こえる
 「まさか!」
 紅蘭がすばやくドアを開けるとそこには大の字で倒れている大神がいた
 「やっぱり・・・」
 「いつからいたんだか・・・」
 大神の服には踏まれたような形跡が多数あり花組や風組もいたと思われる
 「どないする?」
 「尋問♪」
 なぜか嬉しそうな隆起
 「そやね」
 その後大神は紅蘭のありとあらゆる発明品(7割爆発)でどこから聞いてたか、誰がいたかなど洗いざらい喋らされたとか・・・
 
 「みんなも盗み聞きはあかんで〜」
 「誰にいってんだ?」
次回予告!
 いよ!桐島カンナだ、あたいもやっと出番か〜
 予告はあたいだけどあたいメインじゃないからな、もちろんあのサボテン女もだ
 今度は皆で温泉旅行だ、いや〜疲れもとれるってもんだぜ
 
  次回!過去との決別

 太正桜に浪漫の嵐!

 隊長・・・なにしてんだ?
 
 隆起さん、訳を話してくださいよ!!