未来の翼 5話

 芝公園での戦いから1夜あけた、隆起は医療ポットで眠っている、敵の刃がわき腹の所をかすめたための大量出血
 出血多量の寸前で抑えたため命は助かったがまだ意識は戻らない
 サロンにて・・・
 「・・・・」
 椅子に座ってボーっとしている大神
 「なにしているんですか?隊長?」
 マリアが来た
 「いや、ちょっとね、隆起くんの負傷の事を考えてたんだ」
 昨日の戦いを思い返していた大神だったが・・・
 「隆起中尉の負傷・・・おそらく敵は相当な強さの組織でしょう」
 その場にいなかったマリアだが大体の話は聞いている
 「・・・・」
 大神の口がとまった
 「隊長?」
 何か変なことを言ったかと思うマリア
 「いや・・・また「隊長失格です!!」なんて言われるのかなって」
 一年と少し前のことを思い返す大神
 「あの時は私は自分一人ですべて抱え込んでましたからね」
 マリアも思い出してみる、深夜一人で光武で出て行ったことも今では思い出だ
 「この一件で帝都はまた静かになったね・・・・」
 窓から外を見てみると外には人っ子一人いない
 「ええ・・・それから紅蘭がいっていたのですが・・・」
 「なんだい?」
 すこし沈んだ顔になるマリア
 「神武ではあの幹部勢には勝てないという可能性が高いらしいのです」
 「なんだって!」
 「神武は今までの度重なる戦闘で整備しても隠しきれないダメージがあります、隆起中尉の機体は出力は神武ほど
 ではないとはいえ相当な性能でしたから」
 たしかに今までの戦いで・・・サタンや降魔との戦闘でのダメージがある
 「隆起中尉の機体は完全に再起不能だそうで・・・」
 「戦力的にも痛いね・・・」
 悩みの種は増える一方だった
 所変わって医務室・・・
 隆起は医療ポットの中で意識は戻らない
 「ふぁ・・・」
 椅子に座っていた紅蘭があくびをする
 「紅蘭、寝てないんでしょう、すこし休んだら?」
 さくらが駆け寄ってきた
 「さくらはん・・・いや、大丈夫やこんくらい・・・」
 夜遅くまで起きているのは比較的慣れている紅蘭
 「・・・隆起さんとなにかあったの?」
 一瞬ためらったがあえて聞いてみるさくら
 「うん・・・隆起はんの過去・・・キャンプの時に聞いてな・・・」
 数日前・・・隆起は泣きながら話した自分の過去、大切な人が死んだ過去をうちあけたただ一人の人間、それが紅蘭
 「そう、それじゃあ見捨てられないわね、ご飯おいとくから、食べてね」
 そういって机に朝食を置いて医務室を立ち去るさくら
 「あんがとさん・・・さくらはん・・・」
 「それじゃ」
 しばらく医務室に医療ポットの作動する音だけが響いた
 「・・・なんでなんやろなぁ・・・」
 紅蘭がポツリと口を開いた
 「こないに必死についてることなんやけどなぁ・・・」
 それもそうだ、ついて無くたって何も問題はない、自分でもなぜか離れたくない、そう思った
 「隆起はん・・・教えて」
 医療ポットで眠り続けている隆起に問いかけても返事はない
 「なんで?あんなに元気で・・・笑って・・・うちに全てを打ち明けてくれた隆起はんが・・・」
 知らず知らずのうちに紅蘭の目には涙が浮かんできた
 「関係ないど・・・うちのことどないに思ってるんや?機械いじりだけしかできひんうちの事・・・」
 なぜ・・・そんなことを思ってしまうのか、自分でもわからない紅蘭だった
 「おしえて・・・うちのこ・・・と・・・」
 急に睡魔に襲われてそのまま倒れこんでしまう紅蘭
 

 「ん・・・」
 どれくらいの時間がたったのだろう・・・不意に目を覚ました紅蘭
 「あれ・・うち・・・医務室にいたはずやったのに」
 辺りは発明品やら工具が散乱する自分の部屋
 「大丈夫かい?紅蘭」
 そこには大神の姿があった
 「大神はん・・・」
 「びっくりしたよ、医務室で倒れてるもんだから」
 苦笑い気味の大神
 「はは・・・いや〜ちょっと居眠りしただけやろなぁ」
 すこし赤面している紅蘭
 「隆起くんとなにかあったのかい?」
 空気が一変して張り詰める、紅蘭のがんばりは異常だということを不審に思った大神が紅蘭に聞いた
 「な・・・なんにもあらへんで、なにいうとるんや大神はんは・・・」
 すこし焦ったような紅蘭の表情を大神は見逃さなかった
 「嘘だろ・・・そのくらい俺にもわかる」
 戦闘の時以上に冷たい瞳の大神
 「・・・言うわけにはいかへんのや・・・隆起はんはうちに話してくれたけど、誰にも言わないでくれっていってはった」
 あのキャンプの日、隆起は最後にこのことは誰にもいわないでくれと言った、それを破るわけにはいかない
 「・・・でも、なんで隆起くんに付きっ切りで?その話だけなんだろ?」
 それも最もな話だ、話を聞いただけならそこまでする必要はない
 「わからへん・・・わからへんけど」
 「けど?」
 「好き・・・なんかな・・・」
 小声で言った一言だった、その声は大神には届いてなかった
 「なに?」
 「なんでもあらへん!!うち休むからでてってや!!」
 顔を耳まで赤くした紅蘭が大神を部屋から押し出す
 「はぁ・・・秋の空と女心は変わりやすいってね・・・」
 紅蘭に追い出されて立ち尽くしていた大神がつぶやく
 ちなみに季節は・・・まだ春の陽気がただよう5月だったりする
 (はい、計算してみましょう、聖魔城での戦闘があったのは大体1月後半から2月にかけて、ということで4ヵ月後=春というわけです) 
 紅蘭の部屋の中では・・・
 「(なんでなんやろ・・・少し前まで大神はんのことがすきやったのに・・・隆起はんにどんどん魅かれてって、
  そしてこの間の一件で・・・)」
 あのキャンプでテントの中で語り合った時、隆起は普段以上に打ち明けてくれた、あの暗い過去だけじゃなく、今までの事、帝撃に配属
 される前のことも
 「(うちのこと・・・信頼でもしてくれてんかな?)」
 「(なにかんがえとんや・・・そないなことあるわけないやろ)」
 半分妄想の世界に入った理性を強引に引き戻す紅蘭
 「(なんでこないな気持ちになったんやろ・・・男の人に魅かれるなんてあんまりなかったから・・・)」
 「(あ〜もう考えんのもやめや!寝よ寝よ)」
 毛布を一気に頭までかぶる紅蘭
 
 作戦会議室では・・・

 「よし、みんな集まったな」
 軍服姿の米田が確認した
 「紅蘭がいません」
 7つの席のうちの1つがあいてる
 「まあ、紅蘭は寝かしといてやれ、整備で疲れてるだろうしな」
 軍神と言われた米田でもこういう1面がある
 「それで司令、どうしたんですか?緊急招集なんかかけて」
 作戦司令室には花組にくわえ風組の3人もいた
 「今度の新しい敵のことだが」
 米田がその一言を言った瞬間一気に場の空気がはりつめる
 「隆起の機体や大神の神武をもってしても相手は倒せなかった」
 先日の戦いを思い返してみる大神
 「ええ・・・隆起くんの機体の性能は神武よりも性能は上です」
 大型モニターに隆起の機体の詳細な情報が映し出される
 正式名称 霊子甲冑 龍武(りゅうぶ)
 主機関 縮小型霊子核機関
 重量 1325キロ
 武装 大太刀、多連装噴進誘導弾発射器
 定員 1名

 神武にくらべれば重量も軽く、機関の能力も上である隆起の機体それでも敵の攻撃によって再起不能におちいった
 「隆起の機体の最大のダメージは内部の破損だ、主機関がパーになってるらしいからな」
 手元の書類をみて米田がいった
 「隆起中尉の実力は不透明ですが大群の脇侍と降魔を撃破したとなるとそれなりの実力でしょうね」
 マリアが冷静に言った、たしかに隆起はあのときは後方支援だったが敵の大半は隆起がやったといってもよかった
 「機関、武装、そして乗り手の実力、ほとんど非の打ち所がないが・・・」
 「敵はそれの上を行ってますからね」
 大神と米田がその一言づついってからすこし静寂が流れた
 「それで、結局なんなんですの!?神武じゃ勝てないといことですの?」
 さっきから黙っていたすみれが口を開いた
 ・・・・・
 場に一瞬の静寂が流れた
 「結論から言えばそれに近いな」
 後ろの方から声が聞こえた
 「隆起くん!!(さん!!)(中尉!!)」
 すずしい顔で壁に寄りかかってる隆起
 「おめぇ・・・ケガは!?」
 米田も驚きを隠せない
 「ああ、大丈夫ですよ、俺回復力はいいんで」
 いつもの笑顔の隆起だが花組と風組の面々は信じられない様子だ
 「それで・・・対策は?」
 隆起の顔つきが険しくなる
 「ああ・・・神武じゃどうにもならねえし、帝都も混乱状態だ・・・」
 今回の騒ぎで脇侍だけではなく降魔まで出現したために混乱がまた起きてしまった帝都はボロボロの状態である
 「個人の能力を上げる必要もありますし神武の性能も上げる必要がありますしね」
 幾多の危機を乗り越えた大神でも今回は厳しい状況に立たされている
 「また戦いがはじまっちゃうんだね・・・」
 アイリスが口を開く
 その言葉にまた静かになってしまう作戦会議室
 「とにかく・・・今の課題は2つ!個人の能力の底上げと神武の能力の上昇、この2つだ!」
 大神が開き直ったかのように声を上げた
 「フフフ・・・・」
 また後ろから声が聞こえる
 「ちゃ〜んと考えてるで、神武の改良計画」
 いつの間に来たの紅蘭がそこにいた
 「紅蘭!」
 花組1同が声を上げる
 「とはいえ・・・やっぱり資金面なんや・・・設計図はあがってるんやけど」
 毎度毎度これには悩まされる帝撃であった
 「大神はんと隆起はんの機体の修理とほかの6人の機体の改造、骨が折れるで全く」
 「予算のことは俺に任せてくれねえか?」
 米田が口を開いた
 「司令」
 「な〜に、光武の時と同じだ、悪くはしねぇ」
 「わかりました、それじゃあ各員、自分のやるべきことをやるように!」
 大神のその一言をきっかけに一斉に席を立つ花組隊員
 廊下・・・
 「・・・っつ・・・」
 隆起はまだ傷が痛むのだろう、息がまだ荒い
 「休んでなんかられねぇってのに・・・」
 ガクっと膝をつくも直ぐ立ち上がる隆起
 「隆起はん、ちょっとええかな」
 「え?」
 後ろから紅蘭に声をかけられた
 ロッカールームに入っていく2人
 「紅・・・蘭?」
 涙目の紅蘭を見て何事かと思う隆起
 「俺・・・なんかした?」
 急に罪悪感が心の中に出てきてとりあえず聞いてみる隆起
 「・・・いや・・・ちがう」
 「じゃあ・・・なんで?」
 「隆起はんは・・・」
 聞きたい、自分の事をどう思ってるのか、でももう少しがでない・・・最後の最後の一言がでない自分がいやになる紅蘭だった
 「俺が?」
 「う・・・うちの・・・こと」
 言葉が上手く出てこない、でももう一息
 「うちのこと、どうおもってるんや?」
 ついに言えた、と思った紅蘭だったがその後の事をすっかり忘れていたためまた混乱してきている
 「紅蘭のこと?」
 少し隆起は考えた
 「無理ならいわんでええんやけど・・・」
 「・・・いっていいの?」
 顔が完全に壁の方を向いてる隆起
 「・・・うん」
 少し悩んだがもうどうでもいいと心中で開き直った
 「っても・・・口のあらわすの苦手だから・・・」
 「ぁ・・・」
 隆起が紅蘭を引き寄せてそのまま抱きしめた
 「こういうことかな・・・」
 かなり照れくさそうな隆起
 「わかんないよな、ごめん」
 「ううん・・・うちは・・・」
 ミシ!
 「え!?」
 ガラガラガラ!!
 ドアが外れて花組&風組の面々がなだれ込んできた
 「あ・・・」
 「なにしとるんや!みんな!?」
 抱き合ってた2人だけに焦っている
 「おほほほ、こうなっては仕方ありませんわね、貴方多たちがここに入っていくのを見かけたものでして」
 開き直ったすみれ
 「2人だけいいムードなんてずるいですよ〜」
 さくらも今回は容赦がない
 「隆起さんもやるわね〜」
 ある意味1番やばい榊原由里までいる始末
 「で・・・なんでなだれ込んできたんですか?」
 比較的穏やかな口調だがわずかに怒りが感じられる隆起
 「だってぇ〜カンナが来てそれでどわ〜っと」
 アイリスの説明ではよくわからないので大まかにまとめるとカンナが来てそれで聞き耳立てたら体重オーバーで扉が
 崩壊したということである
 「とにかく、みんなもう寝なさい」
 後ろの方でマリアが言った
 「は〜い」
 花組&風組の面々がそれぞれの場所に戻っていく
 「はぁ・・・」
 「よくある話やから気にせんでや」
 いつもの明るい紅蘭には戻ったがまだ顔の赤面は抜けてない
 「はは・・・っ!」
 「隆起はん!?」
 傷の付近を押さえ膝をつく隆起
 「大丈夫・・・」
 「傷・・・まだよくないんやな」
 「まだふさがってない・・・かも」
 「男なんやからしっかりせなあかんで、ほら、肩つかまって」
 紅蘭の助けでなんとか立ち上がった隆起
 「それじゃぁ・・・部屋にいるから・・・」
 その後姿はなにか暗かった・・・ような気がした紅蘭だった
次回予告
 ども〜紅蘭です〜
 隆起はんも積極的やと初めてわかったわ〜
 そんなことはさておきや、花組隊員はそれぞれ特訓に行って帝劇にいるのはうちと隆起はんとアイリス
 アイリスは寝てばっかやけどまあええわ、隆起はん神武の改造を手伝ってくれてるからええけど自分の
 特訓せなあかんはずやのに

 次回!出撃!帝国華撃団!
 太正桜に浪漫の嵐

 ついに神武改良型の出撃や!!