『ウチ』が『うち』に変わるとき

『ウチ』が『うち』に変わるとき
著・GUZZI
〜第一章〜
*その1、支配人室
所は帝都、銀座にある大帝國劇場、1階の奥にある支配人室。 いつも酒瓶を片手にほろ酔い加減の支配人、米田一基がこう言った。 「おう、おめえら、ちょっとばっか巴里へ行ってくんねぇか?」 「どうされたんですか?支配人?」 「まさか、観光じゃねぇよな」 「何かありましたんやろか?」 支配人室に呼ばれた3人、マリア、カンナ、紅蘭が口々に米田に聞き返した。 「ああ、実はよぉ・・・」 話はこうだ。 今、大神が隊長として着任している巴里華撃団の戦力アップのための 特別コーチの依頼があり、戦術と戦闘技術の指導、霊子甲冑の操縦に3人が 選ばれた、ということらしい。 「隊長が指揮されていても状況は厳しいのですか・・・?」 マリアが米田に尋ねた。 「ああ・・・先月巴里に行ったさくら達からも報告があってな、チームとしては  ほぼまとまってきたので心配いらねぇんだそうだがな、いかんせん経験不足は  いなめねぇってことらしいんだと。  それでよ、ここは各隊員の戦力の底上げと光武の改造が急務になってきたって  いうわけだ・・・」 米田はここで一呼吸おいてう〜んと黙ってしまった。 「米田はん、巴里の光武Fを改造しますんやろか!?」 紅蘭が声高らかに言うと米田はため息をつきながら答えた。 「ふぅ、なにしろなあちらさんはまだ活動を開始してまだ日が浅いってことでな、  まだまだ人手も金も足りねぇんだ。さらに敵さんも待っちゃくれねぇ、新型を  造る時間もありゃしねぇ、となるとだ、改造しかねぇことになるわな」 紅蘭は少し腕組みをして考えると眼鏡がきらん、と輝いた。そしてこう言った。 「そういうことでしたら、まかしなはれ!この李紅蘭が行くからには  見事、光武Fを生まれ変わらしたりますでぇ!」 その言葉を聞き、紅蘭の顔を見た米田は少しほっとした表情でマリアとカンナに 話しを向けた。 「と、いうわけでマリア、おめぇには戦術を、カンナには戦闘技術を頼みてぇんだ」 マリアは納得した表情で返事を返した。 「はいっ!わかりました。私は早速、指導書の作成にかかります」 カンナはカンナで拳をぼきぼきと鳴らしながらうれしそうな表情でこう言った。 「うっしゃぁ!みっちりと鍛えてやろうじゃねぇか!」 にっ、と微笑んだ米田は3人に命令を下した。 「と、いうわけだ。頼んだぜ、出発は1週間後だ」 「では、マリア・タチバナ、桐島カンナ、李紅蘭、以上3名、巴里への出発の準備  に入ります」 3人は敬礼をして支配人室を後にした。 「さ、いそがしくなるわね」 「巴里ってメシがうめぇらしいんだってさ。」 「光武Fってどんな機体なんやろ。ウチ、楽しみやわ〜」 と皆、巴里に想いをよせて、階段を上がっていった。 2階に着いてすぐ、紅蘭が 「ウチ、ちょっと図書室に寄って行きますわ。ほいじゃぁ」 と言って、すぐ左にある図書室へ入っていった。 「それじゃぁね、カンナ」 マリアは廊下の一番手前、右の自室へ入り、 「おう、じゃぁな」 カンナはマリアの部屋の二つ奥の紅蘭の部屋の向かいにある自室へと消えていった。
*その2、図書室と花やしき
紅蘭は図書室で何をするでもなく奥の椅子に座っていた。 「・・・大神はん・・・」 紅蘭は、そうつぶやくと2年8ヶ月程前のここでの出来事を思い出していた。 大神の前で見せた大粒の涙、普段の彼女からは想像できない言葉・・・ そして思いもよらない彼からの言葉。 (俺は、紅蘭のことが大好きだ。絶対にウソは言わないよ・・・本当の事しか言わな い・・・) 「ほんま、今でも信じられへんわ・・・」 それから深川の料亭での事件、クリスマス公演の事、二人で神戸のホワードの所へ行っ た事を 次々と思い出す。 そして武蔵に突入する前のミカサの格納庫で大神に言った言葉を頭に浮かべながらひ とりつぶやく。 「あのとき・・・ウチの大好きな機械には手のぬくもりは無い、みたいなこと言うた けど  今はそのぬくもりがつたわるような機械作りを目指してるんや。待っててや、大神 はん。  ウチが最高の相棒を造ったるさかいな・・・ムッ!・・・あかん、ウチ、何、光武 にやきもち  妬いてるんやろ・・・」 さらにわずか半年前、花やしきで自分がしでかした事を思い出した紅蘭は、 「うひゃぁ・・・」 ボッ!! 紅蘭は全身チャイナドレスと化していた。 「あの後、大神はんが巴里へ行く事になって、その時ウチ、どうしようかと  思ったけどこんなに早く会えるやなんて。ああ、大神はんにおうたらなんて言おう・ ・  いや、あかんあかん。ウチはその大神はんを助けに行くんや、こんな浮ついた気持 ちで  どうするんや! いや、しかしうれしいもんはうれしいし・・・」 こんな調子で紅蘭は、結局朝まで図書室で過ごすこととなった。 次の日から紅蘭は、光武Fの改造にともなう部品の研究と開発を連日、花やしき支部 の 地下兵器工房に泊まりこんで行なった。 「あ〜、時間がないぃ〜」 そうつぶやきながら図面と向きあっている紅蘭を横目で見ながら研究員達はひそひそ 話を していた。 「・・・あのさ、前に花組の大神隊長と紅蘭さん、いっしょにここに来ただろ」 「ああ、豪快号に乗せるんや。とか言ってだろ?」 「そうそう、あの後二人で観覧車に乗ったらしいんだけど、故障で止まって降りてき た  二人を見た奴がいてさ、なんか妙によそよそしいんだとよ。 ありゃぁ中で絶対何 か  あったんだぜ・・・」 「ほんとかよ。うひ〜」 聞こえたか聞こえないかそれを見ていた紅蘭、 「ほら!そこっ!手ぇが止まっとるやないか!出発までに間に合うんか!」 「は、はいっ!」 「すみませんでした!」 この後この研究員達は出発直前まで工房に泊まりこむことになる。
*その3 出発
1週間後、翔鯨丸に資材を積み込んだ紅蘭達は早朝に帝都を後にした。 デッキから小さくなっていく浅草の町並み。 「で、いつ巴里に着くんだい?」 と、早速カンナが聞いてきた。 「そやね、ここから巴里まで約1万キロ、翔鯨丸の巡行速度が今の状態で76ノット  やから72時間ってとこやね」 と即答する紅蘭。 「3日かぁ・・・ずいぶんかかるんだなぁ・・・」 と残念がるカンナ。 「何言ってるの、カンナ。船だと1ヶ月かかるのよ」 「でもさ、船だとうめぇメシがあるんだろ。中も広いだろうし・・・」 「ははは、そういうことかいな。カンナはんらしいわ。ま、休養やとおもてゆっくり  しといて。あ、そうそうカンナはん、3日と違て72時間やで」 「はぁ?だから一日24時間だから72時間って3日だろ?」 「そやね。そしたら説明しましょか?カンナはん、よぉ聞いとくなはれや。   まず、このウチらがおる地球っちゅう星はやね・・・・・」 紅蘭の説明は数時間におよび、カンナはこの後、知恵熱を出して一日寝込んだ。
〜第二章、巴里で〜 その1
*その4 到着
それから巴里に着いたのは2日後の夜のことだった。 郊外の空き地に翔鯨丸を着陸させ、資材を迎えの大型蒸気トラックに載せた。 弾丸列車エクレールの貨物車に積み替える地点まで行くためだ。3人もこれに同乗し た。 車内にて、 「なあなあ、聞いてやマリアはん、巴里のエクレールっちゅう列車は轟雷号よりも  スピードが出るらしいんやて。ウチ、楽しみやわ〜」 紅蘭は今から乗ることのできるエクレールのことを想像して悦に入っていた。 「ふふふ、そうね」 マリアは仕上げた戦術のテキストを読み直しながら微笑んだ。 「隊長、どうしてっかなぁ・・・」 カンナがまだ遠くにある街のあかりをみながらつぶやく。 途端に丸い眼鏡が磨りガラスのように曇り、硬直する紅蘭。 「そ、そう でおますな。お、おげ んきにしたは りますやろか?」 「なあに、緊張してんだよっ!」 笑いながら突っ込むカンナ。 「な、何を言うた はりますのん?カ カンナさん。  ウ、ウチはべ、別に緊張 なんかしてません で・・・」 「カンナさん?誰だそりゃ?」 さらに突っ込むカンナ。 「い、いや やわぁ。自分の 名前を お忘れどすか?」 「どすか?どこの言葉だ、そりゃ」 「いいかげんにからかうのやめなさい、カンナ。  半年ぶりなんですもの、緊張もするわよね、紅蘭」 紅蘭の気持ちを知ってかマリアがカンナに注意をうながした。 「は、ははは」 紅蘭の乾いた笑い声が車内に響いた。 このぎこちない紅蘭だが、到着したエクレールを見た瞬間きらりん、と 眼鏡を輝かせ、いつもの調子へと戻っていった。 そこから資材の積み込みが終了したのは太陽が完全に空の天辺に上がる頃だった。 そして最高速度時速265キロを誇るエクレールは程なくシャノワール地下の格納庫 へと 到着することとなる。 到着した彼女達をグラン・マ、メル、シー、ジャンが迎えた。 すかさずマリアが着任の挨拶をする。 「マリア・タチバナ、桐島カンナ、李紅蘭。巴里華撃団からの要請により臨時コーチ として  ただいま着任いたしました」 ほっとした表情でグラン・マが 「よく来てくれたねぇ、あんた達。ま、よろしく頼むよ。  ああ、紹介しとくよ、この娘達がアタシの秘書のメルとシーだ。そしてこっちが・・ ・」 グラン・マが言い終わるまでにジャンが前に出てきた。 「よう、メカニックってのは誰だい?」 「ウチですが・・・」 ジャンは自分と変わらぬ身長の女性を見て別段驚くでもなく右手を出してきた。 紅蘭と握手を交わすジャン。 (この手・・・こいつぁ、ただものじゃねぇな・・・) (このおっちゃんの手のドライバーダコ・・・半端やないで!) お互い目を合わせて、ニッ!と微笑む二人、お互いの手の感触で分かり合えたようだっ た。 「よろしく頼むぜ、え、え〜と・・・」 「李紅蘭です。よろしゅう、えっと・・・」 「シャノワール整備班、班長ジャン・レオだ。ジャンでいいぜ」 「ウチも紅蘭と呼んでもらってけっこうです。ジャン班長」 「了解だ。紅蘭嬢ちゃん」 「嬢ちゃん!?もう嬢ちゃんっちゅう歳でもないんやけどな。ま、悪い気はしません わな、アハッ」 こんな調子の二人を横目にマリアがグラン・マに尋ねた。 「ところで大神隊長は今、どちらに?」 その名前を耳にして一瞬固くなる紅蘭。 その瞬間を、最近ちょっと大神にお熱の恋に恋する乙女、シー・カプリスは逃さなかっ た。 (まさかこの人が・・・・) そして以外にもジャンもピクッと眉を動かす。 「ああ、ムッシュかい?今はあたしの代わりにちょっと出かけてるんだ。  呼び出してあげるから行っといで」 「はい、ではお言葉に甘えて行ってまいります。それでは失礼いたします」 「帰ってきたら、うまいメシ頼むぜ」 「そ、それでは失礼します・・・」 3人はメルに案内されてエレベーターを上がっていった。 「ふ〜ん、あの娘がねぇ・・・」 ぼそっとつぶやくグラン・マ。当然のことながら彼女も気づいていた。  
*その5 格納庫
「そうか、やはりな。これでわかったぜ」 シャノワール整備班の班長、ジャン・レオは声を上げた 「どないしたんですか?班長はん?」 隣で作業をしていた紅蘭がジャンに尋ねた。 帝撃の霊子甲冑整備責任者である紅蘭はいたくジャンに気に入られ、 常に光武Fの改造について論議を交わしながら作業を続けていた。 「いや、なにね、この光武の基本設計のことさ。こいつ、場所によってはやたらと弱 く  作ってあるんだが、これで確信したぜ。こりゃあ、わざと壊れるようになってるん だな」 ジャンは話し続けた。 「この間の戦闘の時、この光武Fは敵にこてんぱんにのされたんだ。  引き上げに行った時こいつを見て俺はてっきり全員死んだとおもったさ。  ところが誰ひとり怪我もしてねえ、ボディはどこから手をつけていいか分からない くらい  めちゃめちゃだっていうのによ。で、よく見ると、コクピットだけは無傷だったん だ。  (サクラ大戦3 第6話 最後のシーンより)  不思議なこともあるもんだなって思ってたんだが、これで納得したぜ。  紅蘭嬢ちゃんやっぱりあんたすげえぜ」 「いややわ、班長はん。ほめたってなんもでませんで」 紅蘭は照れながら答えた。 「そやけどさすがは班長はん、そのとおり、今の光武の設計理念はそこです。  パイロットが無事ならいくらでもやり直しはできますさかいにな。  ・・・ウチとしてはこのかわいい光武が壊れるのは辛いんやけどな・・・」 この言葉を境に紅蘭の顔に厳しさが増してきた。 「この考えは前に築地っていう場所で戦闘があったとき、大神はんが子供を助けよう として  えらい大怪我しはったんや・・・3日も目が覚めへんかったんや。  そのときうちは決めたんや、こいつの中にいる限り絶対怪我なんてさせへんって・・ ・」 「なるほどな、そういうことがあったのか・・・」 「・・・さ、おしゃべりもここまでや、いっきに仕上げてまうでえ。  今日も泊まり込みでガンバロウ!」 改造中の光武F2、大神機の下に紅蘭は潜った。 「いや、今日のところは嬢ちゃん帰んな」 ジャンは独身だが、父親の気分ってこんなもんかなと思いつつ彼女に言った。 「へ?なんでですのん。ウチ、まだまだ平気やで。それに、いつ何時敵が来るかも  しれまへん。早う仕上げてしまわんと・・・」 「ここまで出来てるんだ、あとは俺達にまかせときな、こいつらは少々のことじゃ  つぶれやしねえよ」 彼は作業中の整備班の若者達を指さす。 「「「かんべんしてくださいよ〜」」」 どこからともなく声がハモって聞こえてくる どうやら全員が言っているようだ。ジャンっはその声を無視して話を続ける。 「久しぶりなんだろ、早く隊長さんのところへ行ってやんな」 ニヤニヤしながらジャンの鼻がテカッと輝く。 「な、な、な、何をゆうてますん班長さん。ウチと大神はんは別にそんな・・・・」 顔を真っ赤にしながら反論する紅蘭。 「はっはっは、嬢ちゃん顔から火ぃふいてるぜ。  隠したってだめだぜ、嬢ちゃんなんだろ?隊長さんのいい人ってのは」 さらに続けるジャン。 「嬢ちゃん達がここに着いたとき、隊長さんの名前が出たときの嬢ちゃんの顔・・・  それと最近ちょっと隊長さんにお熱だったシーちゃんの顔。それでだいたいな・・・ 」 「なんで班長はんがそないなこと・・・」 「嬢ちゃん。機械の点検のコツって知ってるよな?」 「はぁ、『いつもと違う状態を判別せよ』ですやろ?」 「・・・ということさ。カッカッカ。  それに最近、ずうっと厳しい顔だった隊長さんが今日はゆるみっぱなしだったから な。  俺でもピーンとくるさ」 「と、いうわけだ。だから今日は行ってやんな」 優しい声で紅蘭に促すジャン。 「ははは・・・班長はんにはかなわんなぁ。  ほんなら、お言葉に甘えてちょっとだけ行って来ますわ、すんません・・・」 「いいってことよ。それにちょっとと言わずに、泊まってきていんだぜ。カッカッカ」 またしても鼻が輝きだすジャン。 「もうっ!!班長はんのいけずっ!!」 手に持っていたボルトをジャンに投げつけて紅蘭は小走りにエレベーターに向かって いった。 「さあ、もう一仕事だ!お前ら、嬢ちゃんの分も頑張れよ」 ジャンは工具箱より一本のドライバーを手にとる。 「俺のFACOM。頼んだぜ!」
〜第二章、巴里で〜 その2
*その6 『ウチ』から『うち』へ
「どうしたんだい?こんな夜遅くに・・・」 大神のアパートへやってきた紅蘭を見た彼の第一声だった。 (まったく、この人は・・・会いに来たに決まってるやろ。  あいもかわらず乙女心のわからんやっちゃ。よーし、そんなこと言うんやったら・・ ・) 「ほ〜ぅ。お邪魔でしたか、ほんならウチ帰りますわ」 紅蘭はくるっと振り向いて変えるそぶりをした。 「あ、あ、あ、ごめん。そんなつもりじゃ・・・」 慌てて、機嫌を損ねたフリをする紅蘭を引き留める大神。 「さ、入って入って。片づいてないけど・・・」 と部屋の中へと招き入れた。いそいそと奥へ行く大神の背中を見ながら 紅蘭は首をすくめてペロッと舌を出した。 部屋に通された紅蘭はまわりを見渡しながら自分の部屋とのギャップを感じていた。 (はあ〜、相変わらず殺風景な部屋やな〜。  ウチの部屋なんかはいよいよベッドの上以外では生活でけんようになってきたっちゅ うのに・・・) 「作業疲れただろ、何か食べるかい?」 大神がいつもの優しい顔で聞いてきた。 「いや、向こうでよばれてきたさかい、けっこうですわ。  それよりシャワー貸してくれまへんか?もう油まみれなんや。」 「ああ、遠慮せず使ってくれ。その台所の奥だよ。」 「おおきに、すんません。じゃあ、」 おさげをほどき、シャワー室に入る前に顔をちょこっと出す彼女は 「ああ、そや、大神はん。」 「なんだい?」 「のぞいたらあかんで」 冗談とも本気ともとれる注意をした。 「し、しないよ」 大神は、すっとんきょうな声で返事をしてしまった。 (声が裏返ってるで大神はん。前科もんはつらいなあ。巴里でもやってるんやろなぁ・ ・・) 事実、そのせいで彼は朝5時よりリンツに並ばされたり、減棒をくらったりしている。 キュッキュ・・・シャー・・・ザー・・・・ ・・・紅蘭は今日のこと、これからのことを考えた・・・ 光武F2はほぼ出来上がった。・・・ジャン班長はできるお人や、 これからも安心して任せられる。・・・・問題は操縦する人間・・・ ・・・やっぱり鍵はエリカはんか・・・うーん・・・ ・・・マリアはんの言うことも気にかかる・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・ら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・蘭・・・紅蘭・・・えっウチ? 「紅蘭!どうかしたか!」 大神がドアの外で叫んでいる。 「いや、どうもありまへん。ちょっと考えごとをしてましたんや。」 「そうか、ならいい、あんまり出てくるのが遅いからどうかしたのかと  おもったんだが・・・」  そんな間、考え事をしてたとは、と思いつつ紅蘭はそこでシャワーを終えた。 それから数分後、いつもの服に着替え、シャワー室を出た。 「はあ〜、さっぱりしたわ〜、おおきに大神はん。」 「紅蘭受け取れ!それっ」 (おっなんですか?こ、これは・・・) 「風呂、はないけど風呂あがりにはこれだろ。」 一本の牛乳を受け取った。ふたを開けいっきに飲み干す。 「くう〜〜っ、これこれ。仕事のあとにこの一杯、たまりませんなぁ」 「だろ。」 にっこりと微笑む大神。 一息ついた彼女はう〜〜んと背伸びしながら部屋を見渡してみた。 「しかしなんやね、けっこうええ部屋住んでますやないの。  帝劇の宿舎とはえらい違いですなぁ。外の景色もなかなかやし」 ・・・いつかはいっしょに・・・ 「えっ?今なんて?」 「い、いや、なんでも・・・・」 (はあ〜〜、いっつもこんな調子・・・せっかく花やしきでウチから  おもいきってアプローチしたのに・・・この朴念仁。  ・・・ま、この人らしいといえばらしいですわな) はあ、と紅蘭はためいきをつきながら窓の外を見ていた。 「なあ、大神はん、どうですかぁ?こっちは?」 と、彼女が言ったとたん、大神の顔が厳しいものに変わった。 まわりの空気が一瞬にして変わる。とりとめのない話が様変わりした。 「ああ・・・」 巴里華撃団隊長の目に変わった大神は紅蘭ををじっと 見据えながら話し始めた。 「このあいだのさくらくん達との一件で巴里華撃団はまとまりつつある。  新しい光武も紅蘭達によってほぼ完成した。  ・・・怪人もボスを含めてまだ4人いるがもう俺達は負けない!・・・しかし・・・ 」 「しかし?もしかして・・・」 彼女はある種の不安を抱きながら聞き返した。 「まだ、これだけで終わりじゃないような気がする・・・」 (ああ、やっぱり・・・)紅蘭は今日のコーチミーティングで、マリアが言った言葉 を思い出した。 ・・・これからさらに辛い戦いになるかもしれないわ・・・ 「ええ、そのためにウチらは巴里に来たんです。」 彼女は帝国華撃団花組よりの特別コーチとして大神に返事を返した。 張りつめた空気があたりに漂う。 ・・・・・・・・・・・・・・ 「・・・久しぶりに会ったんだ、こんな話はやめよう。」 と、大神はいつもの優しい顔にもどった。 ・・・・・・・・ それから大神はこの巴里に来てからのこと、シャノワールのみんなの ことを話しだした・・・・ 「・・・それで大変だったんだ・・・・それから・・・」 巴里でのここ半年ほどに起こった事を言う大神。 「ふ〜ん。そうですか・・・大神はんもすっかり巴里華撃団の隊長さんやね・・・」 ふう、とためいきをつきながら紅蘭は椅子から立ち上がり窓のところへ行った。 「こりゃ、当分先やね。帝撃へ帰ってくるのは・・・」 窓の外に広がる景色を見ながら、なかばあきらめたような口振りでそう言った次の瞬 間・・・ 「すまない、紅蘭」 「えっ、お、大神はん・・・」 うしろから紅蘭を抱きしめてきた。 彼はそのままで話を続けた、あやめが殺女となったその夜のときのように。 「いつになるかは約束できないが俺はかならず君を迎えに帰る。  それまで待っていてくれないか?」 「えっ?大神はん、そ、それって、うちと・・・」 紅蘭の声は震え、いつもはよく見える眼鏡がなぜか外の景色を判別できない。 「ああ、俺と・・・」 そう大神が言い終わる前に彼女は振り向いて彼の首に腕をまわし、思いっきり抱きつ いていた。 「大神はん。うち、うち・・・」 ・・・・・・ それからどのくらいの時間がたったのだろう。 紅蘭はただならぬ気配を感じて目を覚ました。 「すまない、起こしてしまったようだな・・」 右側で大神が天井を見つめながら言った。先ほどの隊長の目をしている。 「やっぱり、これからのことですか?」 「ああ」 「今日、マリアはんが言うてたんや、辛い戦いになるって・・・  それってどうゆう意味やと思う?」 「そうか、あのマリアが・・・今はまだ分からない。しかし、今以上に巴里華撃団の  結束が必要になるのは間違いないし、隊員達の能力も・・・」 「・・・やはり鍵はエリカはんやね。  あのな、大神はん、あの子どうやらまだ完全に力を解放してないようなんや。  これはマリアはんもカンナはんも同じ考えなんですわ」 「そうか、やっぱりエリカくんは・・・・」 「そのときに合わせてエリカはんの光武F2は作ってあります  今はまだうまく扱えんやろ・・・・だからそのときが来るまでは大神はんが  しっかりとサポートしてやってほしいんや」 「ああ、わかった。まかせてくれ」 自信に満ちた表情で答える大神。 「でもな、大神はん」 「え?」 「あんまりエリカはんに入れ込まんとってや」 紅蘭は悪戯っ子のような目で大神を見つめた。 「ばっかやろう」 そう言うと彼は紅蘭の髪をくしゃっとつかんで胸に抱き寄せた。 (このぬくもりは絶対に消えさせへんで!大神はん!) そう決意しながら彼女はまた眠りについた。 次の日の朝、紅蘭は早く目を覚ました。大神はまだ寝ている。 そおっと起きた彼女は椅子にかけてあった大神のシャツをはおりキッチンへ行った。 「班長はんらにお弁当作っていったらんとな。恩返しはせんと、てへっ」 紅蘭は整備班みんなのお弁当(といってもたいしたもんは作れんけど・・・by紅蘭) と大神の朝食を作り、お茶を一杯飲み干した。 それからいつもの作業つなぎに袖を通しておさげを結んだ彼女は気合いをいれた。 「おっしゃあ。やったるでえ!!」 紅蘭はシャノワールの地下格納庫へ急いだ。
*その7 エリカ機
それから間もなく格納庫に着いた紅蘭は整備班のみんなにお弁当を渡し始めた。 「おはようさん。みんなお腹空きましたやろ。たいしたもんありませんけど食べとく んなはれ」 整備班全員が歓声をあげる。 「たいしたことないだなんてとんでもない!おお!これが噂のライスボールですか。  ああ、こんなものまで。ひさしぶりのちゃんとした朝食・・・いただきます!紅蘭 さん」 皆、一斉にお弁当に飛びついた。 「ところで班長はんは?」 「あい、あんひょうななエイアイのオウイッオえふ。」 食べながら答える整備班の作業員。 (・・・班長ならエリカ機のコクピットと、言いたいんやな・・・) 「そうですか、おおきに」 彼女はエリカ機へよじ登った。 そうするとコクピットでジャンがエリカ機の羽根を見ながらなにやらつぶやいている。 彼はグリシーヌ、ロベリア、花火の機体をメインで担当していたのでエリカ機を 間近に見るのは久しぶりである。 「しかし、このエリカ機ってのは何かすげえな。滑空できるようにもなっているよう だが、  こりゃあ冷却器(ラジエター)だぜ、こんなでっかい物必要か?」 ひとりつぶやくジャン。 「いいや、エリカはんにはいずれ必要になります。」 ひょこっと紅蘭がジャンの前にが顔を出した 「おお、どうしたんだい嬢ちゃん。こんな朝早くから。  いいのかい、隊長さんをほっといて・・・」 「あの人、まだ高いびきですさかい朝ご飯置いて出てきたんですわ」 「ほう、そうかい。・・・で、どうだったい昨日はよ?」 「アハハ。ヒ・ミ・ツ。秘密やでそないなこと」 ニッっと紅蘭は微笑んだ。 「なんでぃ。チェッ」 残念がるジャン。 「で、さっきの話なんやけど、このエリカ機の羽根はエリカはんの霊力を受け止める  ためのもんなんですわ」 「えっ、でもよエリカ嬢ちゃんにそこまでの力は・・・」 「いいや、これはマリアはんが言うてたんやけどまだあの子には隠された力が  あるはずや言うんです。それでこれを付けたんですわ。  ウチもあの子は大化けするとおもってますねん。  まぁ見とって。この羽が黄金に輝くとき、本当の力が発動するんや!」 「そうかい、そりゃすげえな」 ジャンは驚いた。(あのエリカ嬢ちゃんが・・・) 「それより、お弁当作ってきたんや、班長はんも食べてぇな」 「は〜んちょ〜お、早く来ないと全部僕らで食べちゃいますよ〜〜」 もうすでに若いハイエナ達がお弁当に群がって中身も風前の灯火となっていた。 「ばっかやろう!俺の分残しておかないと承知しねえぞ」 ジャンはコクピットから飛び降りた。 数時間後、 「ジャン班長、F2の仕上がりどうですか?」 格納庫に降りてきた大神がジャンに様子を尋ねてきた。 「ああ、あと少しで完成だ。今度のF2は前のモデルとは違って各個人の霊力  に合わせたスペシャルモデルだ。期待してていいぜ」 「そいつは頼もしいですね、こんどこそやつらを・・・」 厳しい顔で光武F2を見つめる大神。 「いいかい、隊長さん、無理はするなよ、時には撤退も必要だぜ」 「はい!わかってます。必ずみんなでここへ戻ってきます!」 「いい答えだ、いつかきっと紅蘭嬢ちゃんのところへ返してやるからな。  あ、でもそれじゃあエリカ嬢ちゃん達やシーちゃんに恨まれちまうなあ。はっはっ は」 「な、な、な、何を言ってるんですか。べ、べ、別に紅蘭とは・・・」 否定してるようだが、大神はすでに目が泳いでいてバレバレ状態である。 「バレバレじゃねえか、隊長さん。それに昨日嬢ちゃんを行かせたのは俺なんだぜ。 カッカッカ」 ひときわ輝くジャンの鼻。 「いいっ!・・・ははは・・・」 観念して力の無い笑い方をする大神。   「それじゃな隊長さん。あ、そうだ、最終調整するからあとで全員呼んどいてくれや。 頼んだぜ」 彼はFACOMのメガネレンチを手にとって作業を始めた。
〜第三章、巴里より〜
*その8 そして・・・
今日はコーチの最終日。 光武F2の調整も滞り無く終了し、(真の力の発動前 のエリカ機だけはまだ完全と は言い難いが・・・) ささやかながら送迎会も行われた。 グラン・マが用意してくれたホテルにて荷物をまとめていると紅蘭が二人に遅れて帰っ てきた。 「よう、遅かったじゃねぇか、どこ行ってたんだよ?」 「あ、あはははは。ちょ、ちょっとな。ほ、ほな」 奥の部屋へ行く紅蘭。 「お、おい、ドア締まってるぞ・・・」 と言ったとたん、ゴン!鈍い音が部屋に響いた。 「大丈夫か?」 「あいた〜〜。あは、あははは」 部屋へ消えていった。 「今の音どうしたの?」 隣部屋のマリアが聞いてきた。 「さあ?」 カンナは?ポーズをとった。 次の日の朝、駅までみんなが見送りにきていた。 戦闘技術担当だったカンナは巴里花組のみんなと言葉を交わしていた。 「カンナぁ、また来てね。絶対だよぉ」 「ああ、今度はサーカスに案内してくれよ、コクリコ」 「貴公のおかげで何か見えて来たような気がする。礼を言う」 「あんたにそう言われるとは光栄だな、ま、精進してくれや、グリシーヌ」 「光武同士で戦ってみたかったぜ」 「ああ、あたいもさ、ロベリア」 「ご指導ほんとうにありがとうございました」 「ああ、みんなを助けてやるんだぜ、花火」 「あ、あのお〜、どうもご迷惑をおかけしました」 最後におどおどしながらカンナに礼を言うエリカ。 「おう、エリカ、気にするなって。いいか、おめぇさんは今のままでいい、  今のままでいいんだぞ。わかったな」 カンナはエリカの髪をくしゃくしゃにしながにっこり微笑んだ。 「はいっ!ありがとうございましたっ」 そう言うとエリカは晴れやかな顔をカンナに見せた。 「カンナ・・・」 「隊長・・・」 「またな」 「おうっ!」 カンナと大神は拳を合わせた。彼は続いて、 「マリア、帝都を頼む」 「はい、わかりました」 敬礼をするマリア。 「紅蘭、・・・・元気で・・・」 「は、はい。・・・大神はんもお元気で・・・」 はにかんだ表情で彼を見る紅蘭。 その二人を見ていたシーがグリシーヌになにやら耳打ちをし始めた。 すると、紅蘭の方をキッ!と睨んだグリシーヌが彼女に近づき、 「すまんな。そなたと少し話がしたいのだが・・・」 紅蘭をホームの端へ連れていった。後にシーとなぜか花火が続く。 ロベリアは横目で彼女達を見てフッと笑った。 コクリコはカンナと、エリカはマリアとの話に夢中だ。 彼女達を?顔で見ながらも大神はグラン・マと話しをしていた。 グリシーヌとシーが奥で紅蘭と話をしている。 紅蘭は何か困った様子でグリシーヌに答えている。 グリシーヌはだんだん息づかいが荒くなっているようだった。 そしてまさに愛用の戦斧をどこからともなく出そうとしたその時、 紅蘭がそれまでポケットに閉まっていた左手で拳を作り、グリシーヌの前に出した。 すると彼女は魂を吸い取られたように戦斧を地面に落とし、拳をにぎりしめて天を仰 いだ。 あきらかに敗北を悔しがる表情をしている。 シーは頬をおもいっきりふくらまし、花火はヨヨヨと崩れ落ちた。 (この後、巴里ではさらなる戦い?が待ち受けてるとは大神は知らなかった) ジリリリリ・・・出発のベルが鳴る。 「それでは、みなさんお元気で」 「お前ら、がんばれよ!」 みんなの所へ帰ってきた紅蘭もジャンにこう言った。 「あとは頼んます。ジャン班長!」 「おうっ!まかしときな。色々とな」 ニッ!と微笑むジャン。 それから巴里へ来た特別コーチ3人は列車に乗り込んだ。 帰りは荷物が少ないので翔鯨丸の着陸場所付近までは列車で行く事となっていた。 エクレールは緊急時のために待機中である。 そして列車は巴里の街を後にした。 席に着くと早速カンナが弁当をひろげ始めた。 ふと、何気なく紅蘭に尋ねた。 「ところでよ、紅蘭、どうしたんだい?左手ポケットに入れたまんまで 怪我でもしたのか?」 紅蘭は冷や汗をたらしながら答えた。 「あ、あははは・・そ、そんなとこですわ」 「ふ〜ん。ま、気をつけなよ」 特に気にするでもなくカンナはシャノワールで作ってもらった特製弁当を食べ始めた。 それから数時間後、3人は迎えに来ていた翔鯨丸に乗り込む。 発進後しばらくしてマリアがカンナに 「さて、今から少し今後のことについて話をしましょうか?」 と誘ってきた。カンナは 「紅蘭は今デッキの方に言ってるようだからそっちでしようや。景色も見たいしよ」 とマリアを連れてデッキへ足を運んだ。 マリアとカンナは外の景色をぼんやりと眺めている紅蘭に近づく。 ところが彼女は二人に気づく様子もなく、なにやら左手を眺めている。 「よっ、なに見てんだい?」 「はっ?カッ、カンナはん。いや、は、はははは・・・」 「どうしたぁ?何隠してんだよぉ、みずくせぇぞ」 「やめなさい、カンナ」 マリアがそう言うと、紅蘭が何か意を決した趣で二人に話しかけた。 「いや、よろしいんや、マリアはん。うちから二人に言おうとおもってましたんやし」 「えっ?何なの」「何だい?」 二人は思わずハモってしまった。 「実は、これ・・・」 紅蘭は恥ずかしそうに左手を二人の前に出した。 薬指には銀色に輝くリングが・・・・。 「で、何なんだい、これ・・・」 カンナがそう言おうとした瞬間、 「紅蘭!これ、もしかして!」 いきなりマリアが叫んだ。 紅蘭は顔を真っ赤にしてコクリとうなずく。 ?顔のカンナにマリアが言う。 「これって婚約指輪よ。それも隊長からのね」 「こ、婚約ぅ〜〜!?し、しかも隊長からだってぇ〜〜!  ・・・・っていうことは結婚するっていうことだよな。  で、いつなんだい?」 「いや、いつっていうわけやないんやけど、約束がわりにって・・・」 「そう、よかったわね。紅蘭」 「すんまへん、昨日のうちに言おうとおもってたんやけど、こんな時期やし」 「ばかね、そんなこと気にしなくていいのに」 「そうだぜ、めでたいことはいつでもオーケーだぜ」 「すんまへん、おおきに、おおきにな・・・」 思わずポロポロと涙をこぼす紅蘭。 それから3人は今後のことを(内容は完全に変わってしまったが)話をした。 特にさくら、すみれ、アイリスにどう話をするかが焦点となった。 それから・・・ 今後起こるであろう大きな戦いのこと、その時巴里華撃団と一緒に戦うこと、 その時のさらに大きな戦い?のことを予感してかしないか、カンナがぽつんとつぶや いた。 「嵐の予感がするぜ・・・」
〜終幕 あとがき〜
読んでくださったみなさん、長い間ありがとうございました。
いかかだったでしょうか?

さて、題名の『ウチ』と『うち』ですが本編では私が確認している限り一度しかあり
ません。
と、いうわけでこのSSでも一場面のみの『うち』の登場です。
え?本編ではどこかって?それは秘密です(笑)(このSSと同じような場面ですね)
最初はゲームの入力間違えかとも思いましたが、場面を見るかぎり、あかほり氏の熱
意と受け取って
題名として使わせていただきました。

また、文中でジャンが使っている工具の名前を『FACOM』としていますが、
フランスで1918年創立した実在する工具メーカーです。
計算するとジャンが36歳の時に立ち上がったことになります。
いつも持っているスパナは軸受けの玉あたり調整以外には使えるようなサイズでは無
いので
使用頻度の高いドライバーやメガネレンチに登場してもらっています。



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