おおきに、ウチのかわいい子

おおきに、ウチのかわいい子
著・GUZZI
〜第一章、霊力〜
序章
今日も今日とて帝都の平和を脅かす者共を撃退した帝國華撃団・花組。 凱旋の合図も声高らかに、 「「『勝利のポーズ、決めっ!!』」」 その中で大神は何やら浮かない顔をする一人の隊員に気が付いた。 「紅蘭、ちょっといいかな?」 「え?なんですやろ?」 彼女の名前は李紅蘭、霊子甲冑整備責任者であり、後方支援爆撃を得意とする光武の パイロットである。 「どうかしたか?紅蘭」 「あ、大神はん。い、いや‥なんでも‥‥」 「さっきの攻撃の事かい?」 先の戦闘で紅蘭は降魔に対する攻撃が一瞬遅れ、自機に損害を受けていたのである。 幸い、大神のフォローにより事なきを得たのであるが・・・ 「いやぁ、ウチとしたことが‥‥大神はん、ほんまに助かりましたわ。  どうも今回ウチの子の反応が悪いみたいなんや。  どこも悪いところは無いはずなんやけど‥‥帰ったらすぐに調べときますわ」 「そうか‥‥ならいいんだが・・・」 大神は以前、紅蘭が帝撃へ来た頃のことを思いだし一抹の不安を感じていた。 (・・・ウチはみんなみたいに霊力が強うないし・・・) 「俺の思い過ごしであればいいんだが・・・」
その1「霊力」
光武を格納庫に収容し、コクピットから出てきた大神はめいいっぱい背伸びをした。 今回も生きて帰ってきたという実感を感じる瞬間である。 肩をぐるぐると回しながら首をコキコキと鳴らし、作戦司令室へと入っていった。 その中では副司令のかえでが一人残って作業をしていた。 いつも彼女は戦闘終了後、戦闘データの整理をするので大神はその報告を毎回行なっ ていたのである。 「・・・・・以上が今回の戦闘結果です。それでは失礼いたします」 彼がかえでに敬礼をし、回れ右をして部屋を出て行こうとしたその時、 少しため息をもらし、彼女は大神を引き留めた。 「ふぅ‥‥大神くん、ちょっといいかしら?」 「はい。なんでしょうか?」 「これを見てほしいの」 大神はかえでがペンで指さす方向へ目をやった。 そこは各隊員の霊力値をいつも測定しているモニターが設置してある場所だった。 (・・・あいかわらずアイリスやさくらくんの霊力はすごいなぁ・・・) そう思いながら彼は目を他の隊員のところへと移していった。 そして大神はその中である一人のモニターの前で目が釘付けになった。 霊子甲冑を起動させることのできるギリギリのラインを霊力値が指していたのだった。 (なんだ!?これでは光武を起動させるだけでせいいっぱいじゃないのか?) 大神は先程の不安の正体が判明したことに驚きを隠せないでいた。 そのモニターのところに書いてある名前は「李紅蘭」。 「こ、これは・・・やはりそうでしたか。で、どうなんでしょうか?」 「そうね、はっきり言うけど彼女は近いうちに光武を動かせなく可能性が”大”よ」 「・・・・・」 「それでね、大神くん。花組隊長としての意見を聞きたいの。  もし、このまま戦闘中に光武が止まってしまうことになると命にかかわるわ。  私としては彼女には今のうちに光武を降りてもらったほうが安心なんだけど・・・」 「命に・・・」 残された者の悲しみ、それを一番強く感じているかえでならではの意見である。 『命を粗末にしない』‥‥これは大神と彼女が以前京極との決戦時、武蔵への突入前 にかわした 唯一絶対の約束でもある。 「こんなこと頼めるのはあなたしかいないの‥‥最前線では無理でも紅蘭は花組には 絶対に  かかせない人なの。だから作戦参謀として、光武の整備担当責任者としてあなたた ちの  サポートを兼任して‥‥いえ、むしろそれに専念してもらえればこんなに心強いこ とはないわ」 「・・・わかりました。どちらにしても紅蘭には自分から一度話をしてみます」 「お願いね、大神くん」 大神は作戦司令室をあとにした。 (・・・今晩の見回りのときにでも行ってみるか)
その2「格納庫」
その夜、いつもの帝劇内の見回りを始めた大神は紅蘭の部屋の前へとやってきた。 コンコン‥‥ドアをノックするが反応は返ってこなかった。 (この時間にいないとなると、あそこだな・・・) 『あそこ』とは地下の格納庫である。紅蘭は一晩そこで過ごすこともよくあることだっ た。 一通りの見回りを済ませた彼は一度自分の部屋へ行って机の上の『紙袋』を持って階 段を下りていった。 格納庫の扉を開けると、そこは昼さながらの様子で明かりが灯っていた。 大神の推察通り、そこで彼女は作業をしていた。 「あ、紅蘭。やっぱりここにいたんだ・・・」 「大神はん?あ、ええとこに来てくれはったわ。ちょっとそこの部品取ってもらえま すか」 「ああ、これかい?」 「おおきに。すんません」 紅蘭はそう言うと自分の光武の下に潜り込んで作業を続けた。 ・・・・・・ しばらく沈黙が続き、大神が一呼吸置いて口を開いた。 「なあ、紅蘭。実は君に話があって来たんだ・・・」 「ウチの霊力のことやろか?」 「え?どうして・・・」 以外な紅蘭の反応に大神は驚いた。 「今日の戦闘の時のことですやろ。  あの時は光武の微調整の問題かと思たけどな、帰って点検しても特に問題はなかっ たんや。  本来ウチがこの子の整備をミスるわけないんやけどな。ま、確認っちゅうことで・・ ・  この子がどうもないということは、原因はウチにしかあらへんっちゅうことやな。  もともと霊力の低いウチが光武を扱えんくらいに力が落ちてきたんちゃうか?大神 はん。  その話ですやろ」 「う・・・」 核心に触れられ二の句が継げない大神。 「やっぱりやね・・・  で、花組隊長としてはどうされるつもりですかな?ウチをこの子から降ろしますか? 」 思ったより、ショックは受けていないようだし、そこまで自覚しているのなら・・・ 大神は少し安堵と不安の入り交じった表情で答えた。 「今日はそのことを話しに来たんだが、紅蘭が自分で自覚しているなら俺もそこまで は言わない。  副司令にもそう伝えよう。ただし、俺と約束してほしい。次にこんなことがあれば 自分から  降りると・・・」 「うん、わかったわ大神はん。  ウチかてまだまだやりたいことあるしな。ここで離れる気はないさかいに・・・」 「そうだな、夢いっぱいの紅蘭だもんな。じゃぁ、休憩だ、ひといき入れよう」 そう言うと大神は『鶴亀堂』と書かれた紙袋を取り出して紅蘭の前にちらつかせた。 「あ〜っ、大神はん。気がきいてますやないかぁ。ほな、ウチお茶いれてきますわ」 そう言うと彼女は奥の給湯室へ走っていった。 彼は紅蘭の後ろ姿がやけに小さく見えたのを不思議に感じていた。 (・・・気のせいかな?・・・)
その3「その時」
ビィーッ!ビィーッ!ビィーッ! 帝國劇場内に緊急ブザーが鳴り響く。 降魔出現の知らせを受け「帝劇」から「帝撃」へと変わる瞬間である。 花組が出動準備にかかる。 「帝國華撃団・花組、出撃せよ!」 「「『了解!!』」」 それぞれの隊員は霊子甲冑、光武・改に乗り込み出撃していく。 「行くでぇ!ウチのかわいい光武・改。そりゃ!出動や!」 紅蘭は愛機に乗り、スロットルに鞭を入れた。 ヒュウゥゥゥゥ・・・・ドッドッドッドッ・・・ 霊子エンジンはアイドリング状態から一向に吹け上がろうとしない。 「あれ、おっかしいなぁ・・・?」 何度もスロットルをあおるが霊子エンジンは静かなままであった。 「え?どうしたっちゅうんや。前に行くんや!前に!」 気が空回りする紅蘭。 「し、しまった!こんなに早く『その時』が来ようとは・・・」 一人出遅れる紅蘭を確認した大神は昨日の自分の決断の甘さを悔いていた。 しかし、今はそんな状態ではない。先に降魔を撃退させることを優先させ、出撃合図 を出した。 「しかたがない。紅蘭機を残して発進するぞ」 「え?いいんですか?大神さん。紅蘭がいないと後方支援が・・・」 「今回はマリアにやってもらう。頼んだぞ!マリア」 「はい。了解しました」 「轟雷号、発進!!」 そうして紅蘭機を残して全機出撃。 彼女を欠いた花組であったが残り全員の協力により無事に作戦を終了し、格納庫へと 戻ってきた。 光武から降りた大神は紅蘭機を見つめた。 「大神さん、紅蘭どうしちゃったんでしょう・・・?」 光武から降り開口一番、心配そうにさくらは大神に尋ねた。 「ああ、さくらくんたちにはまだ言ってなかったが、実は紅蘭は・・・」 ことの経緯を話そうとした大神たちのもとにカンナがあわててやってきた。 「隊長!紅蘭のやつが降りてこねぇんだ。アイツ、どうしちまったんだ?」 「・・・わかった。すぐ行こう」 大神たちは紅蘭機の格納デッキへと急いだ。 「紅蘭!ねぇ、どうしたの?」 さくらは紅蘭の光武のボディを叩いて彼女の名前を呼び続ける。 しかし応答は・・・ない。 カンナも後に続くが紅蘭は黙ったままだ。 「紅蘭!おいっ!どうしったってんだ!?」 「ハッチを開けるぞ!紅蘭」 大神はたまらず光武によじ登って外部用のハッチ開閉用のノブを回した。 そしてその隣に設置してあるエンジン停止用キルスイッチを回す。 ドッドッドッドッ・・・プシュー、霊子エンジンは完全に沈黙した。 キィィィィ・・・・ ハッチは力なさげにゆっくりと開いていく。 「こ、紅蘭・・・」 「・・・ほら‥‥ちゃんとせんかい‥‥みんなが‥待ってるンや・・・」 中で懸命にレバーを操作している彼女の顔は血の気が失せ、呆けた表情で なにやらぼそぼそとつぶやいている。 大神はたまらず彼女の名前を呼んだ。 「紅蘭!!」 その声にハッとなって我に返り大神の顔を見つめた。 「あ。お、大神はん・・・」 「紅蘭、もういい。今日は終わったんだ・・・」 「え?なんでやの?ウチ、まだ…出撃して…ない…」 紅蘭はまだ自分に起こったことを自覚できないでいた。 少しの沈黙をおいて彼女の顔に赤みが指してきたのを確認した大神は 自分の決断の過ちを詫びた。 「すまない・・・俺がうかつだった。昨日のうちに君を止めておけばこんな・・・」 「・・・そんな。大神はんのせいやあらへん。ウチの、ウチの霊力ではこの子を  動かせんようになっただけ・・・え?ウチがこの子を動かせんやて・・・?  イ、イヤや。そんな、そんなことって・・・うっ、うっ・・・」 ボタッ!ボタボタボタッ! うつむいた紅蘭のメガネに大粒の滴がしたたり落ちていく。 大神も彼女の名前を呼んだ後の言葉が出てこなかった。 「紅蘭・・・」 「うわあぁぁぁぁぁ・・・・・!!」 彼女はただ叫ぶしかなかった。
〜第二章、決意・そして〜

その4「決意」
その後、大神は紅蘭以外の花組全員を集めて事の経緯を説明した。 「・・・というわけだったんだ。すまない、俺の判断ミスだ」 「それじゃぁ、もう紅蘭は・・・」 「いえ、私達もうかつでした。まさか、そこまでの状態だったとは・・・」 「紅蘭は光武の操縦ウマイからなぁ、あたいも気が付かなかったぜ」 「これからは広範囲の爆撃に支障が出るのでみんなでフォローしないと。」 「それなら、わたしが紅蘭の変わりをするといいでーす。  わたしなら地形に関係なく攻撃できまーす」 「そうですわね、それじゃわたくしが織姫さんに近づく輩を排除してさしあげますわ」 「じゃぁ、アイリスは二人を守ってあげる・」 こんな時だからこそみんなで助け合って・・・ と言おうとした大神は先にすべて言われてしまったのでみんなの気持ちに感謝するし かなかった。 「すまない、みんな。しばらくは苦しいだろうがよろしく頼むよ」 解散後、大神は紅蘭の部屋を訪ねた。 中に入ると彼女は何やら片づけをしているようだった。 「え〜と、あれとこれと。あ、そうそう、これも忘れたらあかんな・・・」 「あの、紅蘭。いったい何を・・・?」 「すんまへん。今日はみっともないとこ見せてしまいましたな・・・  そやから、しばらくは大神はんともお別れや」 「えっ?」 「さっき、米田はんと話したんやけどウチ、明日から花やしき支部に行くさかいに・・ ・」 「そうなのか・・・?」 大神は初めて知らされる出来事に驚き、思わず固まってしまった。 それを見た紅蘭はズンズンと彼に近づいて鼻先に人差し指を向けた。 「なに、辛気くさい顔してますのん。  ウチが花組をクビになったとでも思いましたか?ま、どっちにしてもウチはそんな 気ないけどな。  花やしきへはな、この小そうなった霊力でも光武を動かせるだけの装置を開発しに 行くんや。  ウチは絶対にあきらめたりはせぇへんで」 いつになく元気な彼女の顔を見た大神はほっとして声をかけた。 「そうだな。紅蘭ならきっとやれるさ」 「おおきに、大神はん。そう言うてもらえると心強いわ」 「じゃぁ、何か手伝うことがあれば呼んでくれよ。花やしきまで飛んでいくからさ。  なに、たった7キロ、毎日だって・・・」 そう言うと大神は静かに彼女に顔を近づけた。 紅蘭もそっと目を閉じる。 「それじゃ・・・」 「はいな」 唇に残る感触を人差し指でなぞり、部屋を出ていく大神を見送ったあと ぽつっと彼女はつぶやいた。 「・・・すんまへん、大神はん。  ウチは今、一番大好きな大神はんに一番キライなウソをついたんや・・・  今、ウチがやろうとしてるのは・・・」
その5「出撃」
今にも空が泣きだしそうなある日、紅蘭のいない帝劇に緊急ブザーが鳴り響いた。 渋谷に降魔出現の知らせである。 大神たちは冷たいままの緑色の光武・改を残して全機出撃する。 「作戦は前にみんなと話し合ったとおりだ。頼んだぞ!!」 「『了解!』」 (よりによって渋谷とは・・・) 過去、対木喰戦で苦戦を強いられたことを思い出していた。 渋谷は高台になっている場所が多く、狭いので敵に近づきにくいという所でもあった。 こういう時にこそ紅蘭機の爆撃が助かるのだが彼女を欠いた今、全員で助け合わなく ては、 と大神は再確認した。 渋谷に着いた頃には空が真っ黒になってどしゃぶりの雨が降り出し、視界も狭くなっ ていた。 大神達は暴れている降魔を撃退にかかった。その時である。 バチバチバチッ!ドドォォン!! 「ぐうぅっ!!」 大神の機体に雷を落としたような衝撃が伝わった。 どこからか別の攻撃が仕掛けられたのだ。 他の隊員達にも次々と正体不明の攻撃が加わった。 「くっ、どこだ?この視界の悪さでは・・・みんな!気を付けるんだ」 しかし、攻撃は容赦なく襲ってくる。 各機、一定の間隔を取りながら防御に入った。 少しの間をおいてレニから通信が入る。 「隊長、敵は二時の方向、高台の頂上からの攻撃。」 「わかった」 (よりによって紅蘭がいないときに・・・) 思わず口をすべらしそうになったのをあわてて止めた大神だった。 (紅蘭がいれば高台の上への砲撃はたやすいのだが・・・) (マリアに変わりの砲撃を・・・いや、この視界の悪さだ。  マリアのピンポイント射撃では場所を特定するのは難しい) (織姫くんなら・・・近くまで行くのが難しい・・・が) 「織姫くん。俺が囮になる。その間に砲台に近づいて攻撃してくれ」 「了解でーす。でも中尉さんだいじょーぶですかー?」 「ああ、なんとかやってみる」 「大神さん、わたしたちは?」 「さくらくんとすみれくんは織姫くんの援護を!  活路はマリアとカンナ、レニに頼む。みんな行くぞ!!」 「『了解!!』」 そうして大神たちは敵の範ちゅうへ突撃していった。 ・・・・その戦闘の様子をモニターで見ていた大きな丸いメガネ。 「あかん、大神はん!!そりゃ無茶やで!!」 花やしき支部、浅草格納庫に備えてあるモニターから 花組の様子をうかがっていた紅蘭が声をあげた。 そしてメガネがキラリンと輝く。 「まだ、アレは完成させてないけどそうも言っとられへんわ。  整備班に連絡!あの子の起動準備にかかれ!!」 彼女は格納庫の整備班に合図を出した。 「え?でもアレはまだ完全にはほど遠い状態で・・・」 「そんなん言うてる場合やないで!今出さんでいつ出すっちゅうんや!」 「わ、わかりました!!全員準備にかかれ」 格納庫内がひときわ慌ただしくなる。 紅蘭は戦闘服に急いで着替え、格納庫内の自機のところへ走った。 「紅蘭さん!行けます。ただし無理はしないでくださいよ!」 「分かってるって、おおきにな!」 ハッチを開けて待っていた整備員の肩をポンとたたいて紅蘭はコクピットへと乗り込 んだ。 シートへ乗り込んだ彼女は起動スイッチを次々と押していき、タービンのレバーを 【最大】にする。 ヒュウゥゥゥゥ・・・キイィィィン・・・ 霊子エンジンに新気を送り込む為のタービンが勢いよく回転を始めた。 エンジンに圧縮空気がいっぱいになるのを確認してスタータースイッチを親指で押し 込む。 キイィィィン・・・・・・・ドッドッドッドッ・・・ アイドリングが始まった。各部が暖まってきたのを確認した彼女は、スロットルをひ ねった。 ドッドッドッドッ・・・ドルンドルン・・・バッバッバッバ・・・ 蒸気併用霊子エンジンは完全に目が覚め、地響きのような咆吼をあげる。 「よぉし、これならいけるで。待っててや、大神はん。  すぐにそっちへ行くさかいに・・・李紅蘭、出る!」 合図とともに 紅蘭機は脚部に装備してあるローラーが金切り音を立て、猛然と加速を開始した。 それを見て花やしき支部整備班の面々は歓声をあげた。 「「ぃやったぁぁぁ!!」」
その6「登場」
・・・・一方渋谷では 「中尉さーん!なかなか近づけないでーす!」 「こうぞろぞろと出てこられてはたまったもんじゃありませんわ!」 「どこかに魔来器があるんじゃねぇか?隊長」 「本部!分からないか!?」 大神は本部のかえでへ連絡を取った。 「大神くん!どうやら砲台の後に隠れているようだけど  この天候では正確な位置までは・・・・」 「そうですか‥‥どっちにしろ、あそこまで行かないとダメだな。  みんな!あと一踏ん張りだ。がんばってくれ」 みんなに声をかけるとともに自分にもハッパをかけて突撃する大神だったが その時、突如空から降りてきた降魔に後をとられるかっこうになってしまった。 「くっ、しまった!!」 自機への損害を覚悟した大神だったが寸前のところで降魔はどこからか攻撃を受け、 退散していった。 「・・・!?」 大神機に通信が入る。 「大神はん、あんまり無茶したらあきまへんで!!」 「その声は紅蘭か!?」 「遅れてすんまへんでしたな!李紅蘭ただいま参上や!」 降りしきる大雨の中、紅蘭機登場である。 離れた場所から紅蘭機が近づいてきた。 しかし、その頼もしいはずの紅蘭機を見た大神は何か違和感を感じていた。 (・・・?機体が大きい?・・・ま、まさか!?) 「紅蘭!?そ、それは・・・やめろぉっ!すぐに降りるんだ!」 「どうしたんですか?大神さん」 「中尉!まさか、あれは・・・」 「天武!!天武じゃねぇか!!」 「隊長。何故、天武が・・・?」 「お兄ちゃん・・・アイリス、あれ怖いよぅ・・・」 「天武は前の大戦で放棄されたのでは・・・?」 「天武!?あれはもう乗れないんじゃなかったですかー?」 みんなの問いかけに紅蘭は答えた。 「これならウチの小さい霊力でもなんとか動かすことができるんや  なんせこの子の霊的エネルギーは知っての通りこの都市からもらってるさかいにな」 「じゃぁ、花やしきへ行くというのは・・・」 「すんまへんでしたなぁ。実はこういう訳やったんや」 「それより大丈夫なのか?」 「まだ完全とはいえんけどな。しばらくは持たして見せますわ。  それより、はよあの面倒なもんをかたずけてしまわんと」 「分かった。無理はするなよ」 「はいな」 そういうと紅蘭機は猛然と加速を始めた。 本来、光武・改に較べて攻撃力、防御力ともにはるかに上回る性能の天武である。 多少の攻撃にはびくともせず大神達の援護を受けながら高台へと近づいていく。 また、紅蘭機に装備されている多連装噴進誘導レーザー発射器ならば多少の位置のズ レも 発射器が確認して自動に攻撃するので視界の悪いところへの攻撃には適していた。 「よっしゃぁ!行くでぇ!」 紅蘭の攻撃が高台に向かっていく。 レーザーは砲台を次々と沈黙させていった。 しかし、魔来器は頑丈にできているため、なかなか破壊できないでいた。 その後も次々と出てくる降魔に花組は苦戦を強いられた。 「もうちょい、もうちょいなんや・・・」 紅蘭は攻撃を加えるが立ちふさがる降魔に邪魔をされ、 あと少しのところで魔来器にダメージを与えられないでいた。 苛立ちがつのる紅蘭。その時である。 ブウゥゥゥゥン・・・ 紅蘭の天武が唸り音とともに鈍く光り始めた。 コクピット内の計器類がガタガタと震えだした。 「しまった!もう来てもうたか・・・」 天武は都市エネルギーを吸収して高出力を得られるため霊力が少なくなった紅蘭でも 起動可能だったが、そのエネルギーを際限なく吸い上げるため暴走の危険性があり、 先の大戦の決戦前に放棄されたのであった。 それを見た大神は紅蘭に向かって叫んだ。 「紅蘭、もういい!天武が暴走を始めたら君までが危ない!!下がるんだ!」 「今下がるわけにはいかんて!よし、こうなったら・・・  大神はん。今から必殺技撃つさかいに援護してんか!」 「無理だ!そんなことをすれば機体がもたないぞ!紅蘭・・・?紅蘭!!」 通信が届かない・・・どうやら全エネルギーを集中させるために通信回路も切ったよ うだ。 コクピット内の計器類と向き合って紅蘭は天武に話かけた。 「まだ行けるか?天武。・・・そうやな、お前ならきっとやってくれるな。  お前はウチと花やしき整備班で作ったかわいい子やもんなぁ・・・   ほんなら行くでぇ!!」 そう言うと紅蘭は霊力温存のためのリミッタースイッチをオフにした。 霊力値がどんどん上がっていき、都市エネルギーをどんどん吸い上げ始め、 蒸気併用霊子機関三型は咆吼を上げ始める。 ゴオォォォォォ・・・ 「球電ロボ!行けぇぇぇぇ!!」 紅蘭の合図と共に天武の背中から丸い球体が飛び出し、敵の魔来器へ向かっていく。 球電ロボと呼ばれるそのメカは広範囲の攻撃に長けているため砲台とともに魔来器に 損害を与えることができるのである。 雨の中の落雷のような攻撃には魔来器もひとたまりもなく木っ端微塵に砕け散った。 「よし、やったぞ紅蘭!!全機残りの降魔を撃退する!」 「『了解!!』」 間もなく残りの降魔を撃退した花組を祝福するかのように空には晴れ間がのぞき始め ていた。 大神は紅蘭とみんなに礼を言おうと振り返った。 「紅蘭!?」 紅蘭機の様子がおかしい。鈍い光はおさまっていたのだが動きがギコチない。 ・・・その時である。天武の霊子エンジンが火を噴き始めた。 次の瞬間、エンジンが爆発を起こし、天武はその場に膝をついたまま動かなくなって しまった。
〜第三章、大団円〜

その7「おおきに」
大神はあわてて自分の光武から降り、備え付けの消火器を持って紅蘭の天武のところ へ走った。 消化器のレバーを引き、ノズルから勢いよく消化剤は噴射された。 おかげで全焼はまぬがれたが緑色の天武はススで真っ黒になっていた。 外部開閉用のレバーを引きハッチを開け、上半身を突っ込んだ。 「紅蘭!紅蘭!」 「ケホケホ‥‥お、大神はん。またやってもうた‥‥真っ黒や。ハハハ・・・」 紅蘭はいつもの調子でススだらけの顔をして大神に答えた。 こと、霊子甲冑についてはテスト中以外でこんなことを起こす彼女ではないので バツの悪そうな表情で頬をかいて照れていた。 その顔を見た大神は紅蘭に何事もなかった、と確信し安堵の表情で声をかけた。 「よかった。だいじょうぶなんだな・・・」 「ウチにもようわからへんのや‥‥天武が暴走し始めたと思ったら・・・  急にパワーが抜けたようになって・・・ん?ちょっと待ってや・・・」 何かを探し始めた紅蘭は一つの部品を取り出し、大神の前に出した。 「これや!これのせいなんや!」 「え?どうしたんだい?」 「大神はん、これ見てえな・・・  これはウチが前に光武のために開発したのを天武用にって調整し直した、  霊力を効率よう取り出すための装置なんやけど‥‥  これが強大なエネルギーを吸収しきれんとオーバーロードして天武も回路が焼き切 れとったんや。  それでウチにまでそのエネルギーが届ききらんかったんやな。  そやけど、なんでやろ?あれくらいはたぶん耐えられる思うんやけど・・・」 「それは、きっと・・・」 「きっと?きっとなんですのん?」 「光武と天武が紅蘭を守ってくれたんだよ・・・  今までずっと面倒を見てくれていた紅蘭を助けるために・・・」 「そ、そやな・・・たぶん。いや絶対にそうやな・・・  おおきに、ウチのかわいい子。  これで、もう二度とあんたらを動かしてやることはできんと思うけど、  これからもずっと面倒は見てやるさかいにな・・・」 そっとその装置を手にとって、頬ずりする紅蘭。 その彼女を見つめながら優しく微笑み、あらためて声をかけた。 「頼んだよ紅蘭。俺達を‥‥いや俺を助けてほしい・・・これからもずっと」 「大神はん・・・!?ウチ、ウチな‥‥大好き!」 「こ、紅蘭!ちょっ、ちょっと・・・」 不思議そうな表情で、この様子を外から見ていたさくらたち。 「どうしたんでしょう?大神さん。  足ばたばたさせちゃって・・・?」 「あ、二人とも出てきましたわよ」 「キャハハ、紅蘭まっくろぉ〜」 「「ハハハ・・・」」 妙に照れながら出てきた二人を見て不思議に思ったさくらはジッっと大神を見つめた。 「大神さん、口の周りススで真っ黒ですよ」 紅蘭のそばにいたカンナは彼女を見て、 「紅蘭、口のところだけススが取れてるぞ」 それを聞いたさくらは二人を交互に見つめた。 そのさくらの様子を見てすみれと織姫も二人を交互に見る。 そして3人は同時に叫んだ。 「「「あっ!あ〜〜〜〜っ!!」」」 「こ、紅蘭。あなた‥‥」 「ちゅ、中尉‥‥」 「ズルイでーす!」 「い、いやぁ。ハ、ハハハ・・・」 3人に詰め寄られ大神と紅蘭はただ照れながら笑うしかなかった。
その8「ウソと納豆」
帰還してきた大神たちに知らされたのはかえでからの以外な報告だった。 「えっ!本当ですか?それは・・・?」 霊力値測定モニターの紅蘭の数値を示すバーがかなり上がっているのだった。 「ええ、そうなの。紅蘭の霊力は少ないながらも今まで通り光武を動かせるほどに回 復しているのよ。  これはたぶん、天武が暴走を始めた時にエネルギーが逆流して紅蘭の中に入っていっ たとしか  考えられないんだけど・・・・」 そう言ったまま、かえでは腕を組んで考え込んでしまった。 「それって、簡単に言うと充電したっちゅうことかいな?」 「紅蘭、お前実は機械仕掛けじゃねぇのか?」 「そりゃひどいで、カンナはん」 「ま、なんにしてもよかったじゃねぇか。結果オーライってことでよ」 「なにが結果オーライなことですか!よりによってわたくしたちの目の前で中尉と・・ ・」 あれとこれとは別の話なのだがすみれにとってはむし返さないと気が済まないようだ。 「アハハ・・・ま、それはあの時の勢いっちゅうことで・・・」 「いいえ!絶対に許しません!紅蘭にはそれ相応の罰を受けてもらいますっ!」 こういう時だけはすみれとコンビネーション抜群のさくらが怖い顔でにらんだ。 「え・・・?罰って・・・」 「紅蘭は光武に乗るための装置を開発しに行くって言ったのに天武を動かしに行って たんだから  あたしたちにウソを付いたっていうことになるんですよね、大神さん」 「え?・・・あ‥‥ま、まぁそういうことになるのかな?」 「と、いうことは・・?」 「そう言うことですわね」 「そうだな・・・」 その話にピンときたカンナも相づちを打った。 マリアも分かったらしく、ため息をついて3人に訪ねた。 「あなたたち、ほんとにやるの?」 「え?なになに?」 「?」 「いったい、何のことですかー?」 それからしばらくして食堂に連れてこられた紅蘭はテーブルの上を見て青ざめていた。 テーブルの上には数々の納豆料理が・・・ 納豆巻きに、はさみ焼き、納豆ハンバーグ、納豆オムレツ、納豆スパゲッティ、 納豆餃子に、納豆春巻き・・・和、洋、中の納豆料理がところ狭しと置かれていた。 「ウ、ウソやろ・・・こんなにいっぱい・・・」 「いいえ。これはホントよ、紅蘭。  ウソと納豆は嫌いといつも言っていた紅蘭がウソを付いたわけだから  逆に言うと『ウソと納豆は平気』ということよね、だから食べてもらいます」 「お〜ほほほほほ。  紅蘭、『納豆食う人色白美人』って言いましてね。納豆はとっても美容にいいのよ。  た〜くさん召しあがれ」 「そうだぜ、『納豆どきの医者知らず』って言ってな。身体にとぉ〜ってもいいんだ ぜ」 「わたしはパスタがおすすめでーす」 「なぁ、頼むわ。勘弁してや〜、あの時はああでもせんとあかんかったんや。  説明する時間もなかったし、反省してるからぁ・・・」 『ダメ』「です」「ですわ」「だぜ」「でーす」 懇願する紅蘭にダメダメする4人であった。 「あ〜ん!大神はん、助けてぇなぁ!!」 その同時刻。 「何で俺がこんなことを・・・」 一人、格納庫で全員の光武を磨く大神の姿があった。 『トホホ』「‥‥や」「‥‥だ」
〜終わり〜

読んでくださったみなさん、長い間ありがとうございました。
いかかだったでしょうか?

紅蘭も「霊力が他の隊員に比べて弱い」というおもしろい設定があるのに本編では
なかなかそこまでは行かなかったのでこんな展開はどうだろう、と今回書いてみまし
た。
しかし、本当に天武はどうしたんでしょうね?
アイゼンクライトはちゃんとあったのに…


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