以前、『光武・改』の、
起動実験が行われた山中の平野。
そこでは、再び『光武・改』の起動実験が行われていた。
岩肌に立ち並ぶ七体の新造光武。
平野に並べられた大きな測定機器。
運搬トラック。
風は少し強いが、
光武の起動には何の支障も無い。
打ち合わせを続ける作業員達。
それを満面の笑みで見つめる藤枝かえでと、
来賓席に腰をつける米田。
その後ろの加山雄一。
とっくに運搬を終えた高村椿は、
まぶしい太陽の光を手の平で遮りながら、
動く白の光武を見上げていた。
その一歩一歩に、歓喜する作業員達。
今日は可動実験ではない。
完成披露会である。
事情により、花組の面々はいないが、
それでも披露会は大盛り上がりを見せていた。
動く白の光武・改。
紅蘭の新技術とも呼べる、新しい霊子理論がそこにあった。
その勇ましい姿を見上げ、
笑みをこぼす大久保。
彼は改めて過去を紅蘭と米田に上申したが、
彼らの返事は"一切不問"だった。
その上、息子の身元はしっかりと米田の指示によって明かされ、
息子が生きていた二十年間近くを知り得た。
その際、帝国陸軍側は大久保に戻ってくるよう要請したが、
彼はこれを手厚く断った。
再度の追っ手が始まるかとも思われていたが、
米田のいる帝国華撃団に、
これ以上生半可に手を出す事は彼らにはできなかった。
一方、別の場所。
測定機用トラックの裏側。
包帯を右手に巻きつけた男が、
測定機のプラグを丁寧に指し込んでいる。
足元には、そのプラグの図面があった。
そこに書いてあるとおり、丁寧にプラグを指し込んでいく男。
黒髪の彼は、けだるそうな表情で作業にあたっていて、
咥えタバコだった。
使い古した作業服の城田貫吉。
第二研究班の部課長は、
右手の不能から完全に指示する立場にいた。
だが、やはり彼は作業員でいたいらしい。
白煙を立ち上らせながらの手作業。
本来なら、誰かに見つかろうものなら、
すぐに怒られそうなものである。
だが、背後で彼に気付かれずに立っているその女性は、
城田の不届きなタバコの喫煙に何も言わなかった。
通信局員の制服の管野日真和。
怒るどころか、
どこか、安堵しているようにも見える。
手先の負傷は、
技術者にとって命を絶たれる事に近い。
絶望する者も少なくない。
管野は少しだけその事を心配していたが、
それは取り越し苦労だと安堵する。
彼は慣れない左手だけの作業に苦戦し、
邪魔な右腕を何度も動かしていた。
リハビリにも近い、城田の手作業。
しかし、その時、遠くから黒川が声を挙げてやってきた。
途端、嫌な顔をする城田。
振り返り立ち去ろうとする管野。
案の定、黒川は城田部課長からプラグを奪うと、
自分が代わりに作業し始めた。
彼は優しい男だが、
少し気を遣えない男である。
城田がせっかく期待を寄せているのに。
頭をかきあげる城田はその場から立ち去ると、
管野の存在に気付いた。
立ち止まる管野と、
歩き寄る城田。
あまりに周囲が五月蝿くて、
会話が聞きづらいが、
今日ほど嬉しい日は無いと二人は話した。
あまりに嬉しいので、
管野は"もう一度告白してもいいですか?"と冗談混じりに聞いたが、
城田は"やめとけ"と一蹴した。
その直後だった。
緑の光武・改が立ち上がった。
本日のメインイベントだ。
二人は揃って、測定機からそびえ立つ緑の光武を見上げる。
『いくでぇ!!
ほんま、みんなには頭が上がらんわぁ!!』
高揚した紅蘭は、
光武・改の手ならしに、大きく飛翔して見せた。
きしむ大地に、
可動する霊子エンジンと蒸気エンジン。
震え出す光武・改は、
弾かれたように跳躍していた。
これ程大きな機械の塊が、
今、蒸気を吹き上げて空を飛ぶ。
全ての作業員が胸躍らせる光景だ。
まるで子供のような表情だ。
ある種、これはもう飛行機の類だと言ってもいい。
実に景気良く、嬉しそうに飛び跳ねる緑の光武を見上げ、
城田と管野は立ち並ぶ。
「この一瞬の光景の為に、俺達は頑張ってるんだなぁって思うよ」
燃え尽きそうなタバコを口から取り、
大きく白煙を吐く城田は言う。
すると、隣の管野は笑顔でうつむいた。
「そうですね。
やっぱり私は技術者がいいですよ」
「違いねェ」
そう言いながら、立ち並ぶ二人の前を、
調子の良い緑の光武が飛ぶ。
この後、この七体の光武・改は
実践投入のその日まで、花やしき支部にて補完。
光武・改が完成した以上、花やしき支部はまた別の新しい光武の構想に、
本格的着手を始めていた。
以前、城田貫吉所属の第二研究部が打ち出した、"次世代光武"。
汎用性と低コストを重視した光武・改と違い、
強力な戦闘と大幅な霊子エネルギーを有するその計画は、
紅蘭の指示によって開発が始まった。
"守るため"の強さを求めて、
造り出される新たな光武の名前は『天武』。
城田はこの構想発起人の一人として、
再び作業員として現場に迎えられるのだが、
その作業員は企画内容に対してあまりに少なかった。
『天武』製造には予想以上の人員が必要だったのだ。
そこで、大幅な人事異動が行われ、
管野日真和が現場に戻るのだが、
それはまだ先の物語。
今は、光武・改の完成に、
周囲は活気付いていた。
太正十三年。
まるで血液が循環しているように、
霊子が流れている緑の光武の操縦席。
その座席に座る紅蘭は、
病み上がりだという事も忘れて大はしゃぎだった。
切なそうに笑って、
嬉しがって、レバーを思いきり押す彼女。
「ほんまに……ほんまに感謝しとるで。
うちは幸せモンやわぁ…」
今生きている喜びと、
皆で造り上げた光武・改の完成に対して、
かみ締めるように感謝を口にする紅蘭。
子供の頃に描いた飛行機のように、
自由に空を飛び跳ねながら、
紅蘭は今の幸福を満面の笑みで表現する。
辛い事もあるけれど、
それ以上の幸せもあるのだと、
紅蘭は笑っていた。
:エンディング
staff credit
キャスト
李 紅蘭 渕崎ゆり子
城田貫吉 堀内賢雄
管野日真和 池澤春奈
米田一基 池田 勝
藤枝かえで 折笠 愛
加山雄一 子安武人
高村椿 氷川恭子
大久保拓道 小杉十郎太
黒川宏一 松本保典
梔子 戸田恵子
斎垣 草尾 毅
水嵩 松田洋治
髭の男 大塚明夫
太目の男 高木 渉
看護婦 林原めぐみ
テントの男A 飛田展男
設定協力 SEGA『サクラ大戦2』
製作 多喜総感
『サクラ大戦・李紅蘭物語2』製作委員会
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