自分らしさ

自分らしさ
著・肇國

「あれ・・・?今日も聞こえないな。」
見回り途中の大神は、その部屋の前で立ち止まっていた。
 帝劇一の人気女優(マニアック(笑)な人気との間違った見解アリ)・紅蘭の部屋だ。三度の飯よりも機械いじりが大好きな彼女だが、ここ2・3日彼女の部屋からは、いつものガチャガチャという心地よい機械いじりの音が聞こえてこない。
かわりに「はぁ〜。」というためいきが流れるばかりである。
さすがに心配した大神は、ドアを軽く2・3回ノックして
「大神だけど・・・紅蘭、どうかしたのかい?」と聞いた。
数秒の沈黙ののちに
「あ、大神はんか・・・。ウチもう寝るさかい・・・。おやすみなさい。」
と紅蘭。やはり元気がない。どうしたんだろうか。
 大神は小首を傾げたが、あまりしつこいのも悪いと思い
「ああ、おやすみ。」と見回りに戻る。
「明日、米田支配人に相談してみるか・・・」
そうつぶやきながら、大神は自室に消えていった。
 翌日の昼過ぎ、大神は支配人室に米田を訪ねた。
「おぉ、大神!どうだ一杯やるか?」
相変わらず酔っ払っている米田に、大神はここ2・3日の紅蘭の様子を話した。
「・・・というわけなんです。」
「そうか。そういやぁ舞台でも何回か失敗したなぁ。あいつぁ普段じゃ失敗なんか屁とも思わねぇで立ち直るんだがなぁ。気にしてやがった。そこでだ・・・。」
「今日は、気分転換もかねて、紅蘭にお使いを頼んだ。花やしき支部へ行ってこいってな。・・・大神、おめぇも行ってこい。頼んだぜ!」
「はい、了解しました!!」
大神は、あいさつもそこそこに支配人室を出て、玄関へ駆け出した。

市電へ乗り込んだ紅蘭に追いついた大神は、紅蘭と並んですわる。休日という事もあり、老若男女を問わず大勢の人が乗り合って満員寸前の車両の中で、紅蘭は一人憂鬱そうに広がる青空を眺めていた。そして、夜中まで発明もせずに、布団の中で時々泣いていた自分の姿を思い出して(落ち込むなんてウチらしくないわ)と自嘲気味に笑った。
 一方大神は、花やしきに着くまでに何度か紅蘭に話かけようとしたのだが、紅蘭の寂しそうな顔を見る度にためらってしまい、市電はとうとう花やしきに到着してしまった。
 夏の終わりの晴天とあって、花やしきも大変な人の数である。二人は、人の波をかきわけて支部の建物に入る。地下には、休日にも関わらず技術者がちらほら。彼らは、紅蘭の姿を見つけると我先に駆け寄り、色々な専門用語をそれぞれ口走り、そして持ち場へと戻って行く。技術者達と会話している時の紅蘭は、帝劇の中で普段見る紅蘭と変わりなく、明るく生き生きとしている。それを見た大神は、多少ではあるが安心し、彼女のあとについて黙って歩いていった。
 一時間程して、米田支配人の使いを終えた紅蘭に、大神は
「おつかれ様、紅蘭。支配人に許しを貰っているから、少し遅くなっても平気だ。どうだい、外で少し話をしないかい?」と聞く。
幾分元気を取り戻した紅蘭は、大神と話がしたいらしく「はいな!!」と了解した。そして二人は、支部の建物を出た。
 陽が長いとはいえ、すっかり夕陽に染まった花やしきのなかを大神と紅蘭は、人影のほとんど見当たらないベンチの方へ歩いていく。
 並んで座った二人であったが、紅蘭はこのシチュエーションに、心の内ではドキドキしていた。だから、大神の顔を正視出来ずに、うつむきかげんのままである。
 はじめに切り出したのは大神だった。
「・・・紅蘭。最近、発明してないだろ。」
「お見通しやな。やる気がないんや。なんでやろ・・・。」
しばしの沈黙。
「何か・・・悩んでるのなら、俺に話してくれないかな?力になれる事があれば言ってくれ。」と大神。
「・・・ウチな、最近自信ないんや。舞台やっとっても・・・何でもないようなトコで失敗するし・・・機械いじりする気も起きへんのや。何やってもみんなに迷惑かけてる気がして、ウチ申し訳ないんや。・・・ウチ何か寂しい。大神はん、ウチどないしたらエエんや?ウチを助けてぇな!!」
 今にも泣き出しそうな紅蘭の顔を見つめた大神は、自分の手を紅蘭の手に重ねた。ビックリして手を引っこめようとする紅蘭を制して、逆に力強く握り締めた大神は、軽く息をつくと
「紅蘭。俺の昔話を聞いてくれるかい?」とやさしく微笑んだ。
紅蘭は黙ってこくんとうなずいた。

「・・・俺は、15の歳に海軍の士官学校に入った。栃木の田舎から出てきたばかりの俺は、御國の為に戦いたくて、軍人になりたくて頑張ったんだ。・・・そのうちに、教練でミスばっかりやらかして、教官にしぼられた。正直言ってヘコんだよ。・・・でもね、そんな時に同期の奴に言われたんだ。『おまえは、何の為にココ入ったんだ?』って。平和を護る為だ!って言ったら、そいつ『俺もだ!だから俺達みんな兄弟だろ。頑張ろうぜ!!』って。同じ夢持った奴になぐさめられたと思ったら、ヘコんでた自分がアホらしくなって。それで、無我夢中になれたんだ。」
 黙って話を聞く紅蘭。
「・・・紅蘭は、花組のみんな好きだろ?」
「あたりまえや!ウチは家族だと思おとります!!」
「・・・俺も士官学校では同期の奴等を家族と思って頑張ったんだ。そして、今は花組を、帝劇のみんなを家族だと思っている。俺は、帝劇のみんなが大好きだ。そして、この帝都を護る花組の隊長をしている今の自分が大好きだ!!だから、紅蘭。君も娘の様に・・・」
「・・・ああっ、ちょっと待った!ウチが?大神はんの娘?ずいぶん歳の近い親子やなぁ、お父はん!!」

 すっかり元気を取り戻した紅蘭は、大神にツッコミを入れ、
「ウチはもう大丈夫や。ウチはやりまっせ!・・・おおきに大神はん。すっかり遅うなってしもうたな。さて、早よ帰ろ。お ・ 父 ・ は ・ ん ♪」




 帝劇に戻った二人は、支配人室で米田に報告した。
元気になった紅蘭を見て米田は「やったな大神!」と大神に目配せして「紅蘭!これからもどんどんバクハツしろよ!」と冗談交じりで大笑いした。



・・・翌日から、連日連夜帝劇内の一角から「どっかーん!!」という爆発音がたてつづけに起こり、その度に「またやってもうた〜!」と嬉しげな声が聞こえてきたとかこなかったとか・・・。
−−おわり−−

あとがき

はじめて書いたのであまり自信がありませんが、これを機にもっと書きたいと思っております。これからもどうぞ宜しくお願いします。 >


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