大神はんっ、見てみぃ、あれが北京の灯やっ♪

大神はんっ、見てみぃ、あれが北京の灯やっ♪
著・とち
 「っというワケなんだ…。」
 「(ぎゅぃぃぃぃ〜ん)えっ? なんか言うた? 大神はん」
騒がしい地下格納庫…(だたし花やしき支部ですけど…)
白い布がかかった(?)大きい物体の前を忙しそうに駆け回る少女…。
サタンとの戦いが終わり、数週間の休暇を貰った帝国華撃団でしたが、
紅蘭は地下格納庫にこもりっきりです。
 「だからっ…」
大神はさっき話したことをもう一度話そうとしました。
 「(がらがらがらがら)えっ? 何っ?」
しかし、真っ赤に塗装された金属板を運ぶ紅蘭にはよく聞こえませんでした。
 「……。忙しそうだから後にするよ…。」
いえ、聞こえなかったワケではないのです。
本当は、聞きたくなかったのです。
大神は地下格納庫から出ようと階段に向かいました…。
 「……大神は…ん……」
紅蘭が大神を呼び止めました。大神は振り向かず立ち止まりました。
 「ホンマに、ホンマにあと2週間しか……。」
 「あぁ、だからさ…。」
大神が振り返ります。赤い金属板を抱えた紅蘭が遠くでこちらを見つめています。
海軍の南洋航海演習によって、一年間、大神は帝都をはなれるのでした。
 「ふたりで、どこかに行こうっ。楽しい思い出つくろうって思って…」
紅蘭が涙目になってることに気づいた大神は言葉に詰まりました。
 「……。ほな、ウチの行きたいところは……。」
こぼれそうな涙を堪えつつ、紅蘭は言いました。
 「北京やっ!!」
 「ぺっ、ぺきん〜っ?」
さすがに大神は驚きました。
その顔を見た紅蘭はにんまりと笑うと…。
 「こんなこともあろうかとっ!」
白い布をガバッとめくりました。中から出てきたのは……。
 「ひ、飛行機……。」
 「そうや、ウチ専用飛行機やっ(こんこんっ)」
紅蘭は得意そうに飛行機の機体を軽く叩きました。
 「からんからんっ…」
 「あ、どっかの部品取れてもうた。ま、あとで直しとくわ」
 「こ、紅蘭……。これで北京へ行くつもりかい?」
 「なんや大神はん、ウチを書庫で抱きしめたのはウソなんかっ?」
 「そ、そんなワケないさっ……」
 「そうやろ? だ〜いじょうぶや〜、あと一週間もしたら出来るって」
 「はぁ……。」
 「そしたら、ふたりで一緒に飛ぶんやっ、ウチと大神はんふたりでっ」
大神は、いや〜な予感があたり、変な汗が噴き出してきました。
 「で、でもテスト飛行とかするんだろ?」
 「ん〜、今回は時間がないから、ぶっつけ本番やっ♪
 「(おいおいおいおい…)」
 「ま、大神はんっ、ウチにま〜かしときっ♪」
 「(あまり、まかせたくないなぁ)」
 「だいたい、テスト飛行で爆発したら、北京に行けなくなるやろ?」
 「(そういう問題じゃあ……)」
と、いろいろ不満があった大神でしたが、紅蘭の嬉しそうな顔を見ると嫌だとは言えません。
 「模型でテストしたら、十中八九…」
 「…う、うまくいったんだ…」
 「落ちた。」
 「(た、たすけてくれ〜)」
 「まぁ、所詮、模型やから、ウチが操縦すれば大丈夫ですぅ♪」
大神は、やっぱり嫌と言う決心をしました。
 「あのさ、紅蘭……。」
と言った瞬間でした。
紅蘭は何かを、さっと大神の顔の前に差し出しました。
そして、『よ〜く見てみぃ』と目で合図しました。
 「な、なんだっ、これっ!!」
それは書庫で紅蘭を後ろから抱きしめている大神の姿が写っている写真でした。
たしか、大神の記憶では恥ずかしそうにしていた紅蘭が…、
……カメラ目線でにやりと笑っています。
 「こんなこともあろうかとっ!」
紅蘭はどこからともなく小さいペンを取り出しました。
 「超小型蒸気写真機、『ぬすみどり』くんやっ」
大神はそのペンに見覚えがありました。
そうです、あの日、確かに書庫の机の上にあったペンです。
 「これはウソやったんやな…ウチ、もう…お嫁に行けない…」
涙目で大神を見つめる紅蘭…。
写真の中の紅蘭の邪気に満ちた笑顔と目の前の少女の涙…。
やられた〜っと思い、大神はうなだれました。
 「お願いだから、爆発しないように頼むっ!」
 「最初からそう言えばえぇのに、ま、大神はんっ、ウチにま〜かしときっ♪」
そう言うと紅蘭は作業に戻りました。
 「がらがらがら〜」
台車を走らせる紅蘭、その台車の上には灰色の見覚えがある物体が乗ってました。
 「そ、それは……。」
 「マリアはんの光武の腕やっ、弾薬、まだ残っとったらか使おうかと思うて…。」
何にっ? 大神は不思議そうな顔をしました。
 「敵が来たらこれで戦うんやっ♪」
 「敵っ?」
 「ドイツ軍っ」
 「違うだろ、それはっ、」
 「天才科学者にしてフランス空軍一のエース、ウチは撃墜王っ♪
 「だから、それは役だろ……」
 「マリーは黙ってればえぇんやっ!」
 「ちがうっ」
 「だいじょうぶや、パリまで安全迅速をモットー連れていくっ」
 「だから、ちがうっ」
紅蘭は遠い目をしています。
必死で違うと言ってる大神を相手にもしてないようです。
 「はっ、いまウチに舞台の神様が降りてきてたみたいやっ」
ぶぅぅっ、違います。おそらく、それは格納庫の悪霊でしょう。
 「ま、万一の為に武器を積んでおくだけやっ♪」
 「そのわりには、すごく楽しそうだね……」
 「ふふふふふっ、ふふふふふっ、ふふふふふっ、ウチの飛行機っ」
それから6日間、真夜中の浅草に不気味な笑い声がこだましました。

 「(どんどんどんどんっ)大神はん、大神はんっ」
まだ薄暗い銀座は帝劇にドアを叩く音が響き渡りました。
 「ついに出来たんや、ついにウチの『紅豚号』がっっ!!」
あまりのうるささに他の花組のみんなも起き出しました。
 「敵っ?」
 「うるさいなぁ、」
 「なにか起こったんですか?」
 「アイリスまだ眠いよぉ〜」
 「なんなんですの、紅蘭っ」
 「(一同)……。………………………………………………。」
みんなの視線の先には大神の部屋に向かって蒸気バズーカを構えた紅蘭がいました。
 「……じゃない…(汗) 全員退避っ!!」
 「(一同)了解っ」
 「なんか急に眠くなってきたなぁ あははははっ」
 「剣のお稽古、剣のお稽古っ」
 「いまの、寝言だよぉ〜、ZZzzzzzっ」
 「スタアは朝は低血圧ですの、まだ動けませんわ。オホホホホホっ」
紅蘭は大神の部屋から少し離れ、立ち膝の姿勢をとります…。
 「もう、大神はん、寝ぼすけやな〜、いま、ウチが起こしたるっ♪」
 「あ、ありがと、もう起きたから…はぁ、はぁ、はぁ、」
発砲寸前で大神がいそいで出てきました……。なぜか涙目で……。
 「ほな、行こか〜」
 「ど、どこへ?」
 「北京っちゅうたやろ〜」(ずるずるずるずる…)
紅蘭は嫌がる大神の首根っこをつかむと外へと向かいました。
 「お、大神……」
 「米田支配人〜、た、たすけてくださいっ〜」
途中、騒ぎを聞きつけた米田と会った二人、
 「米田はん、ちょっと北京まで行ってきますぅ」
 「お、おぉ、そ、そうか……。」
 「長官……(汗)」
 「大丈夫だ、大神、ちゃんと二階級特進にはしておくからな……」
 「どういう意味ですかっ!!」
 「はよう行こうな、大神はんっ」
 「どういう意味ですか〜、長官〜っ」

さて、なんとかうまく飛び立った紅豚号…
なんとか無事、海を乗り越えたどり着いた……いや、まだ着いていないか…
 「紅蘭、いつまで北京上空を旋回しているつもりかな…?」
 「……。」
 「…紅蘭……、紅蘭っ……」
 「……。」
紅蘭は何を思ったか、ずっと北京上空を旋回しています。
ガマンしているつもりでしたが、実は、大神、トイレに行きたくてしょうがないのです。 
 「う、は、腹が痛いっ!!」
 「もう少し暗くなるまで待って欲しいんやけど……」
 「な、なんで? ぐぅぅ、腹が…」
 「なんや、大神はん、お腹痛いんか、ちょうどえぇなぁ〜、それっ…」
 「ま、まさか……。」
基本的なボケとしては、降りる手段が、無いとか…
と、その時……
 「きたっ、きたでぇ〜」
 「な、なにが?」
 「ふふふふふふふふふふふふふっ」
 「なにが来たんだ〜」
 「大神はんっ、見てみぃ、あれが北京の灯やっ♪」(びしぃぃぃっ)
 「……。」
 「……。」
 「……。」
 「……。」
紅蘭の指が指した先を見ると、小さな明かりが……
 「もしかして、これがやりたかっただけとか…………」
 「さって、降りよか〜」
 「な、なぁ、もしかして、これがやりたかっただけとか…………」
 「どこに降りたらえぇかな〜」
 「……紅蘭、聞いてる……?」
 「広いところを探して……」
 「そんな余裕ないっ〜〜、腹が、もうぅ……」
 「………しゃあない、こうなったら……」(ごそごそっ)
っと取り出したる赤いボタン……。
 「ま、まさか……」
 「こんなこともあろうかとっ、緊急脱出用自爆ボタンやっ」
 「待ってくれ〜〜、まだ大丈夫、大丈夫だから……」
 「任務完了っ♪」(ぽちっ)
 「ちゅっど〜んっ」
 「紅蘭っ、何をしてるんだ〜っ!!」
 「怒らんでもえぇやんっ」
 「だって、ひ、ひこうき、ひこうきっ!!」
パラシュートで降りていく大神の視線の先には…
………北京の街に突っ込んでいく紅豚号が……
 「ちゅっど〜〜〜〜んっ!!!!!」
 「うわ〜、どうすんだこれ〜」
 「大神はん、見てみぃ、あれが北京の炎や〜〜っ」(ひゅるるるる〜っ)
何故かパラシュートが開いていない紅蘭は大神より早く(当然だが…)落ちていきます。
 「な、何してるんだ〜、紅蘭っ」
 「大神はんに抱っこされる予定やったのに〜」
 「……いや、おまえは落ちろっ!!」
 「なんで〜〜〜っ!! って、こんなこともあろうかとっ」
 「ほ〜ら、紅蘭なら、なんか持ってると思ったんだ…って……えぇぇ!?」
紅蘭が取り出したのは吹き矢でした。
 「ふっ!!」
 「やめろ〜〜〜」(ぷすっ……ひゅるるるるる〜っ)
 「ほら、大神はん、大神はん、抱っこ、抱っこっ(邪笑)」
紅蘭は自分の背中にしょっているパラシュートを指差しながらニヤリと笑っています。
 「オレは悪魔に魂を売るのか〜〜(叫)」(抱きっ)

 「さて、どうするんだ、紅蘭っ…」
 「そんなに、怒らんでも…えぇやんかぁ〜……」
 「あれを見ても、そう言えるのか?」
大神の指差した先には紅蓮の炎を上げる北京の街……。
 「(にやりっ)隙ありっ!!(ごい〜んっ)」
どっから取り出したか分からないスパナで、紅蘭は大神の後頭部を殴りました、
 「こんなこともあろうかとぉっ!!」
またも、どっから取り出したか分からない……ま、まことくん?
 「ふふふっ、『まことくん』を改造した『いつわりくん』やっ!」
その『いつわりくん』って、いったい……
 「いつわりの記憶を大神はんに植え付けるんやっ!!」
なんか、『まことくん』と全然違うんですけど……。
 「やっぱり爆発の記憶は消せへんなぁ〜、印象が強すぎるんやなぁ〜」
紅蘭は『いつわりくん』を気絶している大神の頭にかぶせると、いろいろとダイヤルを回し始めました。
 「ま、こんな感じで、かわいいウチを印象付けておくわけやなっ♪」
って、おいおいっ(汗)


− 次回予告 −

なんなんや、今回の話はっ!
え? 次回予告っ?
………。
長い南洋航海演習を終えた大神はんが帝都に帰ってくるんやっ
帝撃花組隊長に復帰やてっ♪
でもウチの配属は花やしき支部や……。
ウチだって…ホンマは………。
次回っ さくら大戦2 紅蘭SS!(1の方がタイムリーなのに……)
「「「あなたのそばへ…。」」」
太正桜に浪漫の嵐っ!! 今度はまともな話みたいやなぁ♪



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