ふたりだけの星空

ふたりだけの星空
著・とち

 「文化祭のクラス展示の責任者をしてくれる人はいますか?」
まぁ、誰だってやりたないのはわかっとるし…
 「それでは責任者は誰がいいですか? 推薦してください。」
そりゃ、誰だって人の恨みは買いたないのもわかるわ…
でも決まらんうち帰れへんのも、みんな知っとるハズ…なんやけど…
 (……シーン…………)(Zzz…)
なんか寝とるアホもいるようやな…藤田くんやないか、
まったく、かわいい彼女が困っとる時に、よく呑気に寝れるもんやな…
しかし、いつまで待っても誰もやろうとせぇへんし、
こうなったら私が責任者を…って思うたけど、
そんなんやったら、藤田くんと一緒に帰れへん…
誰かやってくれへんかなぁ…
…なんや、あの3人組、またなんか企んどるような目して、
残念やけど、今回、私は責任者なんてやらへんから…
 「はいっ」
っ手あげおった? 何企んどるんや?
 「お、岡田さん」
 「わたし、藤田くんがいいと思いま〜す。」
そう来たか、そうやな、そう来るやろな、
まったく最近おとなしい思とったのに、
さすがやないの、私に効果的なダメージをあたえてくる…
 (浩之:Zzz……むくっ)(岡田:…びくっ)
お、びびっとる、びびっとる、
まぁ、あの3人組と藤田くんはある意味、因縁の仲やしなぁ…
それより、藤田くんが責任者…結局一緒に帰れないやんか…
だからといって、私が藤田くんをひいきする訳にもいかへんし、
 「藤田くん、こういう意見がでてるんやけど…」
 「あれ? クラス展示の責任者ってまだ決まってなかったんだ、」
 「だから、その責任者を、藤田くんにやってもらいたいっていう意見が…」
 「やってもいいぜ。」
 (アホっ、そんなん引き受けてどうすんのよ)
   ・
   ・
   ・
 「なぁ、いいんちょ、なにそんなに怒ってるんだよ」
 「…なんでもない」
 「そんなにクラス展示の責任者になったのが悪いのか?」
 「…悪ない」
 「だってさ、いいんちょ、困ってたみたいだしさ」
 「なんや、藤田くん、起きとったん?」
 「最後の辺りだけな…」
藤田くんのことや、多分、後先考えんと、私を助けよう思って…
 「ところで、クラス展示、何やるんだ?」
…ホンマ後先考えてないなぁ……、
 「HRの最初に決めたやないか」
 「あぁ、無難に喫茶店でもやろうか? とか?」
 「ほんとの最初はそうやったんやけど、」
 「やけど…?」
 「私らのクラスはプラネタリウムやるいうことになった…」
 「ぷ、ぷらねたりうむ…」
ほら、みてみぃ、いまさら後悔してもどうしようもないんよ、
藤田くんはもう、クラス展示の責任者なんやから…
ホンマどうするつもりやろ?
 「プラネタリウムってあの、プラネタリウム…?」
あまりの事に何も言えなくなってる、
 「まぁ、どうにかなるか…」
え? なんか考えあるん?
 「予算はどれくらい出てるんだ?」
 「約3万や、多少足が出るくらいやったら、生徒会が負担してくれるらしい」
 「ちょっと厳しいかな…ん、ま、なんとか間にあいそうだな…」
 「浩之ちゃん、昔からそういうの結構得意だもんね♪」
私と藤田くんの会話を聞きつけた山岸さんが言うた…
藤田くんがそういうの得意?
どういう意味やろ?
 「よし、あかり、図書室行って星座関連の神話の本、借りて来てくれ」
 「あるかな〜? ちょっと探してみるね。」
 「あったら、朗読できるようにに文章化して、後で志保あたりの声でMDに取ろう」
もしかして、ナレーション? ナレーションまで流すんか? 
 「うん、図書室いってくる」(パタパタパタっ)
 「んで、雅史、駅前の模型店にいって、ありったけのムギ球買ってきてくれ。」
 「ムギ球?」
ムギ球ってなんやろ? 
 「ちっちゃい豆電球みたいなやつ」
 「うん、わかった」(タッタッタッタッ)
 「あ、佐藤くん、予算つかったら領収書もらってきてな〜」
 「さって、いいんちょは、演劇部から暗幕、用務員さんから黒ペンキ」
 「とってくればいいんやな?」
 「そ、オレはホームセンターから夜光塗料買ってくる…領収書もらえばいいんだろ?」
なんかすごいな、藤田くん、
でも、どういうのが出来上がるのか、まだ、想像つかへん…
ま、とりあえず、私は私の仕事をすればえぇんやな。
   ・
   ・
   ・
ふぅ、ペンキって案外、重いもんなんやな〜、
しっかし、なんで校庭の隅の小屋ん中にペンキ置いとくんかな〜、
教室までめっちゃ遠いやん…はぁ、はぁ、はぁ、いいかげん疲れてきたわ…
 「保科さ〜ん」(パタパタパタパタっ)
あ、山岸さんや、なんで外から…どこ行ってたんやろ?
 「図書室いってたのと違うの?」
 「うん、図書室になかったんで、小学校行って借りてきた。」
 「どれどれっ、これ、あんまり幼稚すぎへんかぁ?」
 「うん、裏表紙のクマがとってもかわいいの♪」
 「ホンマやね(笑)」
って、そういう問題か?
 「それ重そうだね…手伝おうか?」
 「あ、ありがと…」
これでちょっとは楽なったわ、
 「………。」
 「………。」
沈黙がつづく…なんか話したほうがえぇんやろか?
 「ね、保科さんっ」
 「(ビクっ)なに?」
 「浩之ちゃん、すごいでしょ?」
 「そうやな、はっきりいって今回、驚いた、」
 「中学のときもね、おんなじような事、あったんだよ」
   ・
   ・
   ・
 「うぁ、あかり〜、長岡〜、なんだよそれ、」
 「あ、浩之ちゃんっ」
 「なにって、みればわかるでしょ? ウチのクラスへの案内板っ!」
 「へったくそだな〜、どれ、ちょっと貸してみろよ」
 (さらさらさら〜)
 「あら、あんた、上手いわね〜」
   ・
   ・
   ・
 「…山岸さん、それ、別のゲームで聞いたことあるんやけど…」
 「え? そうなの? でも、それから志保と浩之ちゃん、仲よくなったんだよ」
それやったら、私、いつもハリセン持って歩かなあかんようになるやん
それにしても、仲がいいって、まぁ喧嘩するほど仲がいいっていうもんやし…
藤田くん、なかなか面倒見えぇんやな、
面倒見がえぇっちゅうか、おせっかいちゅうか、ま、そこが藤田くんのいいところやな
 「教室まであと少しだね」
ようやく教室までたどり着きペンキ缶を降ろす、
まだ、藤田くんも佐藤くんも戻ってきとらんようや、私は暗幕借りてこないと…
 「さてと、神話のところ、抜粋しちゃおっと」
そうか、山岸さんもまだやること残っとったな、
 「それじゃあ、私は演劇部行ってくるから…」
 「うん、いってらっしゃ〜い」

なんで暗幕ってこんなに重いんや?
こんなことやったら、山岸さんと一緒にくるんやった…はぁはぁ、
やっと教室に到着や…
(ガラガラガラ…)
 「…あ、おかえり〜」
席について借りてきた本をペラペラとめくっては思案顔の山岸さん…
しかし、小学生向けの本やしなぁ…どれ、どんなんなってんやろ?
 「あぁぁ、まだ見ちゃだめ〜っ」
 「…山岸さん、これじゃ、あんまり幼稚すぎんか?」
 「結構難しくって…」
 「そうやなぁ、どれ、私も手伝うよ、ここはこうした方が…」
 (さらさらさら〜)
 「わぁ、保科さん上手〜」
 (ガラガラガラ…)
 「お、いいんちょもあかりも戻ってきてたか」
 「あ、浩之ちゃん、雅史ちゃん、見てみて、保科さん、上手いんだよ」
あぁ、まだ下書き程度なのに、
 「おぉぉ、上手いもんだな〜、さすがいいんちょ」
なんかそう言われると照れるやないの
 「…そう? そうでもないよ」
 「あ、そうそう、領収書もらってきたよ、はい、いいんちょ、」
 「そやったな、んで、何買ってきたんやったっけ?」
ムギ球が2万円分…
夜光塗料が1万円分…
って、藤田くんも佐藤くんも、荷物それだけ? 
それだけで3万使ったん?
それだけの荷物のために男2人出かけたん?
はぁ、さっきまでなかなかやるな思とったのに
……金銭感覚まるっきり無いんやろか?
……それに、私にあんな重いもの運ばせておいて
男2人でそれぞれビニール袋1つ分の物、買いにいっただけ?
 「あ、あとでさぁ、校庭にみんなで行かないと…」
 「そうだね、浩之と二人でも大変だったからね」
ん? ほかにもなんかあるんか? 領収書にはなにも書いとらんようやけど…
 「いらないダンボール箱、これが結構大事な材料だからさぁ」
 「うん、商店街まわってもらってきたんだよね」
教室の窓から外を見てみる、たしかに山積みのダンボール箱…
あの数じゃ、たしかに大変やな…
でも、ここまで二人で運んだんなら、最後まで運びきっても…
 「それじゃ、部活あるから…」
そういうことか、佐藤くん、部活あるから…
 「そういえば、いいんちょも塾の時間じゃねーの?」
 「まぁ、別に神戸の大学行く必要もなくなったし…得に行くこともないやろ」
 「えぇっ? 保科さんって神戸に帰るつもりだったのぉ?」
 「ほんの4ヶ月前まではな…」
そうや、ほんの4ヶ月前まで、
こんな風に藤田くんや山岸さんと話すなんて考えてもなかった…
これも藤田くんのおかげやな。
 「それじゃ、ダンボール箱、とりにいこか?」
   ・
   ・
   ・
クラス展示の準備を始めてから、もう1週間がたった、
文化祭本番までもう1週間しか時間は残ってへんけど、私は安心していた、
知らんうちに、クラスの帰宅部連中が自主的に手伝うようになったからや、
こうやって見てみると藤田くんは人を使うのが上手い、
もしかしたら、私より委員長に向いているのかもしれへん、
ダンボールだらけだった私らの教室もだんだん…
 「だから、それは最後だって…ったく、」
 「どうしたん?」
 「ムギ球に電気いれてみせろってさ、うるさくて…」
はぁ、やっぱり、簡単にはいうこと聞かないもんやな…
 「みせたらいいやん、私もみたいし…」
 「だめだめ、ホントの最後にダンボールに穴あけて、配線してからでないと、」
 「…なぁ、藤田くん、どんな風になるんや?」
 「あれっ? いいんちょにも言ってなかったっけ…?」
そういえば全然形が浮かんでこないまま1週間がたってる…
 「いま、ダンボール全部に黒ペンキ塗ってるだろ、それが乾いたら…」
 「乾いたら?」
 「ダンボールの上に夜光塗料を適当に、ばら撒く…」
ところで、夜光塗料ってなんやろ? 蛍光ペンみたいなもんやろか?
 「いいんちょ、なに考え込んでるんだ?」
 「なぁ藤田くん、夜光塗料ってなに?」
 「…。修学旅行のお土産に函館の夜景の写真、いいんちょ買ったよな?」
 「あぁ、あれな、部屋の電気消すとちょっとの間だけ勝手に光るんや」
 「それ、それと同じだよ。」
 「それで?」
 「…。わかった、ちゃんと詳しく説明するよ。」
   ・
   ・
   ・
 「わかったような、わからんような…」
 「よし、あとは他の連中にも説明してやってくれ、オレは疲れたからちょっと寝る。」
 「あ、藤田くん、ちょっと…もう、しゃーないなー」
 「(…Zzzz…)」
最近、藤田くんがんばっとったからな〜、疲れとるんやろな、
 「みんな、ちょっと集まってくれへんかな?」
 「(…どやどやどや…)」
藤田くんの計画は以下のとおりや、
暗幕で光が教室内に入らないようにする、
黒く塗ったダンボールに夜光塗料をばら撒く、
ダンボールで教室内を覆う、
ダンボールに穴をあけてムギ球を出す(主要な星座をムギ球で表現する)、
10分くらいで夜光塗料の効果が切れるので、その都度教室内の蛍光灯で光を補給…
 「っという訳なんやけど…」
 「…すごいな、藤田…、」
 「ホント、結構やるじゃない?」
 「出来上がりが楽しみだな!!」
 「(…がやがやがや…)」
なんとかクラスの連中もいうこと聞くようになるかな?
まぁ、これで作業効率もあがるというもんや
   ・
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   ・
文化祭本番まであと、14時間程、今日は前夜祭があるんやけど…
肝心のプラネタリウムがまだ出来てない…
 「あとムギ球の配線だけだから、おまえら前夜祭に行っていいよ」
 「そうか?」
 「藤田くんごめんね、あたしたち行ってるから…」
 「わりぃ藤田、終わったらまた手伝うから…」
前夜祭、案外人気があるんやな、
結構自由な雰囲気もあって恋人同士で隣の席に座って…
まぁ、みんな行きたがる気持ちもわからんわけやないけど…
私にとって藤田くんがここにいるんなら、前夜祭、行くことないな…
 「いいんちょもあかりも雅史も、行ってきていいぞ」
 「えっ、でも〜」
 「あっかり〜、前夜祭いこ〜っ、あれ、ヒロ〜、あんた達まだクラス展示出来てないの?」
 「あ、志保」
 「うるさい奴が来たな〜、志保、邪魔すんならあかりと雅史つれて前夜祭行けっ!!」
 「ちょっと、あたしがナレーター、無料奉仕してあげたのに、その態度はな〜に?」
 「おまえなぁ、おもしろがってアドリブも入れただろ? あれ、カットだからなっ!!」
 「なによ〜、まだ出来てないからって八つ当たりしないでよね〜、いこっ、あかり、雅史」(がしっ)
 「えっ、えっ、浩之ごめん、それじゃ、あと頼むよ」(ずるずるずる〜)
 「ちょっと〜、志保〜、ひきずらないでよ〜」(ずるずるずる〜)

なんか急に静かになった教室…
 「いいんちょも行ってきていいよ」
アホっ、藤田くんがここにいるから、私もここにいたいの、わからんかなぁ?
藤田くんがダンボールの壁の裏でガサゴソと動き回る音だけが教室に響いている。
机も椅子も廊下に出して、だだっ広い教室、
黒いダンボールで囲まれてなかったら、
この部屋がクラス展示で使われるということに誰も気づかないやろな。
 「藤田くん、もうちょっとなら手伝おか?」
 「あれ、いいんちょ、まだいたのか?」
 「しっつれいやな〜、ずっといたよ」
 「わりぃわりぃ、もう終わりだよ…そうだ、だったらさ、教室の真ん中で待っててよ」
 「ん? うん」
言われたとおり教室の真ん中に移動する、
 「(パチン)」
急に教室の蛍光灯が消えた…ぼんやりと夜光塗料が光を放ち始める…
 「(パチン)」
今度はムギ球が光る、主要な星座をかたどった光…
はっきり言って、息をのむ美しさとはこのことをいうんやろな…
誰かが床にこぼした夜光塗料が足元で光っている…
結構こぼしてるもんやな…あちらこちらで光ってる…
まるで宇宙を、宇宙の中を歩いているみたいや…
不意に後ろから抱きしめられる…
 「いいんちょ、やっと出来たな」
私も抱きしめる腕を優しく抱え込んだ…
 「そうやね…やっとできたね…」
少しすると藤田くんは私から離れた…
 「藤田くん?」
振り返ると藤田くんは床に寝そべっていた…
 「こうして見るとさぁ、本物の星空みたいだぜ」
 「ホンマに?」
 「あぁ、いいんちょも寝っころがってみたら?」
 「う、うん」
 「突っ立ってるとさ、スカートの中が気になっちゃって…」
アホっ、軽く蹴っ飛ばす…
 「ってーなー、冗談だよ、こんだけ暗かったら見えないって…」
あ、そうやな、でもムードぶち壊しやないか、
すこし怒ると藤田くん、寝そべったまま腕を差し出してくる、
何を意味するのか、すぐにわかった、
…腕まくら…
自分の顔が赤くなるのがわかった…でも、悪い気はせぇへん、
藤田くんの腕にそっと頭を乗せて藤田くんの横に並ぶように寝そべった…
 「な、ホンモノ以上の星空だろ?」
 「ホンマやな…」
ホンマ綺麗や…いままでの苦労を忘れるくらい綺麗な星空…
 「明日がきたら、いろんな人に見せる星空だけどさ…」
 「うん、」
 「いまの10分間だけは、オレといいんちょだけの星空だ。」
そうやな、二人だけの、二人の為だけの星空やね…
 「いいんちょ、オレさ、」
 「なに?」
 「これから先、何年も、何十年の、いいんちょと二人で星空みていたいな」
え? なんかキザなセリフやな、
でも、私もそう思とったところや、
二人でずっと、ずっと、いつまでも星空を見れたら…
夜光塗料で描かれた星空がだんだん暗くなっていく、
そろそろ二人だけの星空も終わりが近づいてきたようや、
私にとっての最高の前夜祭…
それを惜しむように、私は藤田くんにしがみついた……。

−おわり−

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