著・LH
「くっ、このっ、なんでやっ!」
(SE:どんっ……ぱんっ……)
「ははは。意外とリズム感ないんだな委員長って」
「そないなことない! 初めてやさかい、勝手がわからんだけや!」
――などとニヤニヤ笑っていられたのは、ほんの五分ほど前までの事だった。
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委員長オーバードライブ! Hell
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「こうやっ!」
(SE:ダムッッ!)
(SE:びゅごゥッ!)
頭の上を鋭い『何か』が通り過ぎていき、半呼吸遅れてから追撃のように襲ってきた暴
風で、体が吹き飛ばされそうになった。
『何か』ってのは、委員長が放った破壊振動波のことだ。
近くを通るたびに、鼓膜がヴンッと響く。すげえ怖い。
この、ドラマー感覚が手軽に味わえる1プレー二〇〇円の音楽ゲームは、最悪にキケン
だった。
ていうか、もう手遅れだし。
委員長は、常に腕を動かさなきゃならんような忙しい曲を『演奏』しているらしく、ゲ
ーセン内には暴風雨さながらに振動波が吹き荒れている。
下手に動くとクリティカルな一撃を受けかねない。
逃げられない。
「……ひでぇ……」
縮こまったまま店内を見回すと、その惨状は筆舌に尽くしがたい物だった。
振動波の影響で、既に何名かは床にダウンしているらしい。
『痛いよ……』とか、『医者はどこだ?』とか、何気に地獄だった。
何とか説明できそうな所を言うと、ゲーセンのガラス窓が無惨に砕け散っていたり、店
員は体を大の字にして壁にめり込んでいたり。店員に意識はなく、頭から二筋、力無く垂
れた触覚っぽい髪の毛が、振動波の余波でゆらゆらとなびいていた。
「ムガ――ッ! 出来るかいこないな音符ばっかり振ってきよってからに客嘗めとったら
あかんぞこらいっぺん神戸港浮かんでみるか!? オォ!?」
ハッ!?
なんか、プレーしながら物騒なこと叫んでるぞ!?
「お、おい委員長っ?」
(SE:ガーン!)
『GAME OVER』
「……………………アァン?」
スティックを振り上げたまま硬直。
モニタに浮かぶ文字は、ゲーム終了を告げていた。
どうやら、スコアが低くなりすぎると、曲の途中でも強制的にゲーム終了らしい。
「…………」
嫌な間だった。すっげー嫌な間だった。
「ふっ、ふふふっ……」
嫌な笑いだった。すっげー嫌な笑いだった。無茶苦茶に嫌な笑いだった。
「こんな時は……決まってるよな。藤田くん」
嫌な台詞だった。すっげー嫌な笑いだった。無茶苦茶に、ていうか端的に言うならば、
とりあえず最悪だった。
オレの返事など待たず、胸元に手を突っ込んでごそごそやる委員長。
ぱっと引き抜くと、そこにはデフォルメされた来栖川先輩の顔シールが貼られた、茶色
い試験管。もう、なんか見慣れたアイテムだった。
コルク栓を親指一本でぽんっと開けると、内容物を一気に胃に流し込む!
「う・がぁぁぁぁ! ふざけとんかワレこらなんて読むんやこの会社ああんコナ○ぃぃぃ
おどれかおどれが悪いんかコラぁぁぁ!」
(SE:がんがんがんがんがんッ!)
踵キック!
まるっきりヤクザだ!
「お、お客様っ! 他の方の迷惑になりますので――」
「じゃっしゃ! 黙れダボッ!」
キケンを察知したのか、あたふたと止めに入る店員だったが、そんなものを気にする委
員長ではなかった。
「で、でも、スティックを振り回されますと――」
「ああン!? 静かにせぇ言うとろぉが! 人間、素直になるもんや。それか――これで
頭ァドツいてへこんだら物分かり良ぉなるかもしれんなぁ。成績もグンとよぉなっておか
んも大満足や」
ニタリ、と据わった目で凝視する委員長。背筋に氷がつっこまれたような感覚。
「ひ、ひゃぃぃぃぃぃっ!?」
スティックを両手に、委員長がじりじりと触覚店員のほうへ歩いていく。スティックは
金属紐で筐体に結びつけられていたが、ブツンブツンと小気味良い音をあげて紐は中ほど
で断裂。かくして、『アレに鈍器』という最悪の事態の完成。
恐怖に凍り付いた店員をムシし、再び筐体へ向き直る。背中からも、何か怒りのオー
ラのようなものが放射されているような気がする。
「さぁ、て」
呟き、スカートのポケットから妙に少女チックなピンク色の財布を取り出すと、中から
一〇〇円玉を二枚ばかり取り出してコイン投入。
「もっかい挑戦や……くっふふふ」
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「おらおらおらおらおらっ! ドラララララァァァッ!」
なんか、滝のように振ってくる音符に、超人的な反応で応戦する委員長。
すげえ連打だった。
そう、連打はすごかった。なんていうか、乱打だった。
「どうや! 本気出したら、これくらいの連打なんか朝飯前や!」
(SE:ガーン!)
『GAME OVER』
「…………」
スティックを振り上げたまま、再び硬直。
そりゃ……単に闇雲に連打してたって、リズムにあってなけりゃ、意味ねぇよな。
なんにせよ、治まったらしい。
オレはようやく、頭を抱えてしゃがみ込んでいた体勢から立ち上がった。
早く、この場を離れないと……
「さ……えっとさ、警察の人とか来ないうちに、早くここから――」
「なんじゃっ! ふざけんな! ヘルや! ファッキンや!」
「お、おおっ!?」
「もう一回じゃボケェェェェ!」
「オウシィィィィット!?」
本気かっ!
ていうか、やばいぞ。
時間的に、既に警察に通報されてるとしても――
(SE:ファンファンファンファンファン……)
『そこの二人! お前らは完全に包囲されているッ!』
『隊長、プロトアクチニウムガンの使用許可をっ!』
『無駄な抵抗を止め、おとなしく投降せよ!』
『殺っちまいやしょう、隊長ッ!』
『繰り返すッ!』
……ああ……まただ。いつも通りだ……
「アホかっ! おどれら、それ以上ガタガタ抜かしよったら、この女の命ィ無い思ぉとけやっ!」
「きゃ――っ! 止めてください〜!?」
ひ、人質っ!?
「いっつもいっつも、こっちが下手に出るおもてたら大間違いやッ! 今日は許さんで!」
「いつ下手に出たぁぁぁぁっ!?」
「藤田君っ、裏から出るんや!」
「ええっ? で、でもこの店、裏口なんか……」
「蹴り破る!」
うわあああああ、いつも以上に無茶苦茶だああああっ!?
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「オラ、キリキリ歩けっ!」
「ぐすっ……良太、ごめんね。お姉ちゃん、もう戻れないかも……」
「じゃっしゃ! 生きて帰りたかったらさっさと歩き!」
「ふぇぇぇ……」
……いいのか……本当にいいのか……?
富士の樹海を彷徨いながら、オレは食べられるキノコの記憶を思い出そうと必死だった。
ていうか助けてくれ……
おわり(汗)
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