日曜日

日曜日
著・ぼちちゅー

〜日曜日〜

 こうやって待ち合わせをするのも何回目やろうな…。そんな事を考えながら、いつも
のようにゲームセンターの前に立つ智子。時間はお昼前、といったところだろうか。普
段ならば人はまばら、といったところなのだろうが、今日は日曜日。ゲームセンターの
入り口に駆け込んでいく小学生とか、だらだらと喋りながら歩いている同い年ぐらいの
女の子達とか、少し疲れた顔をしているサラリーマンとか、その他大勢の人が目の前を
通りすぎていった。
「…少し早よ来すぎたかな?」
 約束の時間はお昼ちょうどだから、そう早いわけではない。…が、あの藤田君のこと
だ。遅刻をしてくるのは目に見えている。それを考えると、やはり少し早い。
「…ま、えっか。」
 あの雨の日のように来る保証がないわけではない。もうすぐやってくるだろう…。
智子はまた人の流れに視線を移した。

「…遅い。」
 もう何度見たかわからない腕時計に、もう1度目をやる。その短針は、『2』にさし
かかろうとしていた。約束の時間は…とっくにすぎている。
「確か、『お昼ちょうど』ってゆうてたよなあ…。」

「なあ、委員長。明日暇?」
 土曜日の放課後、今さっきまで明らかに熟睡していた藤田君が、チャイムが鳴り終わ
るのと同時にこんなことを言ってきた。よくここまでねらって起きれるもんだ…。
「明日?暇やったと思うけど…。どしたん?」
「いや、この前ノート貸してくれただろ?そのお礼に飯でもおごろうかな〜と思って
さ。」
「ヤクドはいややで。」
 藤田君が言い終わるのとほぼ同時にきり返す。ついこの前もこんなことがあったのだ
が、「ありがと〜。」といった瞬間、「じゃ、ヤックまで来て。」とか言われて逃げら
れた覚えがある。仮は返しておかねば。ま,他にも拒否した理由はあるが。
「へ?なんで?」
「あのなぁ…あんたの辞書には飽きるって言う言葉はあらへんのか!?今週に入って何
回ヤクドに言ったと思てんねん!」
「4回。」
 3回やで!と言おうとした智子はおおかた椅子から滑り落ちそうになった。
「ん?どした?」
「…はぁ。ま、ええわ。でも、マクドはいややからな。」
「う〜ん、わかった。どこいくかはそんとき決めるか。じゃ、待ち合わせはいつものと
こってことで。」
「わかった。何時?」
「そうだなあ…。昼飯食いに行くんだから、『昼ちょうど』でいいだろう?」
「そやな。うん。わかった。」

「…やっぱり、『昼ちょうど』ってゆうてるよなあ。」
 つらくなるのは分かっていながら、時計に目をやってしまう智子。その針は今が午後
2時であることを示していた。
 智子の立っている場所から見える喫茶店には、もう先ほどのような活気はなく、店員
がボケ〜っと新聞を眺めている。中に入っている客もご飯を食べている、と言う感じで
はない。
「ふう…。」
 もう帰ってまおかな…。そう思ったとき、横から聞き覚えのある能天気な声が飛んで
きた。
「よ、委員長。待った?いやぁ、準備に手間取っちゃって…。」
 藤田浩之。そのひとだ。
「…『待った?』やて?」 
 ワナワナと肩をふるわせる智子の様子にようやく気付いたのか、喋るのを止めて、智
子の一歩手前で立ち止まる藤田。しかし、藤田は分かっていた。こうなったら、どうし
ようもないということを…。
「今、何時やと思てんねん!あんた確かに『昼ちょうど』って言うたよな!?昼ちょう
どゆーたらOモリがおどっとる時間とちゃうんかい!(注:日曜日は踊ってません。)
もう2時やで、2時!はOちゃんもおわっとる時間やないか!(注:はOちゃんもやっ
ぱりやってません)」
 ここまでまくし立てて、藤田君の表情をうかがう。少しは驚いているのかもしれない
が、相変わらず飄々としている。
「いやぁ、悪い悪い。ちゃんといっときゃ良かったな。俺一時ぐらいに食ってるから。
日曜日の昼飯。ずれてるんだよなぁ、時間…。」
「ああ、そーなんや。それやったらしゃーないなぁ…。って言うと思うか!?このドア
ホ!大体その言い訳使たってしっかり1時間遅刻してるや…。」
 クスクスと言う笑い声がどこからか聞こえてくる。どうやら、まわりかららしい…。
 智子はここまで来てやっとの事で周りの状況に気がついた。さっきまで流れていた人
の流れが止まっているのだ。理由は…言うまでもない。
「ん?どうした委員長。終わった?」
「お,終わったってあんた…もうええ。はよいくで!」
「っと。ちょっと待てよ、委員長!」
 
 夏のような日差し、相変わらずうるさい街中、楽しそうに笑いながら歩いている人たち。
確かに,少し遠回りだったかもしれない。でも、大丈夫。私達の日曜日はまだ始まったば
かりなのだから…。

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