Sweet Emotion

Sweet Emotion
著・DDT@RAINA

「じゃ、今日は本当に世話んなったね」
もう、帰らへんと。
帰らへんと、わたし、最後の嘘、付けへんようになる。
わたしは、藤田君が、好きや。
あの電話が、さっきの彼が、わたしにそのことを自覚させてくれた。
でも、このひとには、神岸さんが・・・居るやんか。
ただの幼なじみやなんて言うとったけど、あの子はそう思うてへんこともよう判ってる。
だから・・・帰らへんと・・・自分の気持ちに嘘が付けんようなるって、思ったんや。
でも。
「ま、待った、委員長」
「な、なあ、今日、泊まっていけよ」
藤田君は、そう言ってくれた。
「え?」
うそ。何で・・・?ええの?
「もう遅いし、雨も降ってるし、今日はこのまま泊まっていけよ」
わたしの、思い込み、だけじゃ、なかったん?
「で、でも・・・。なに言い出すのよ、突然・・・」
言い訳けをしてるのは、藤田君じゃない。わたしだ。
「オレんち広いしさ、部屋いくつもあるし・・・・」
何か言ってる。でも、良く聞こえてこない。彼の声が小さいんじゃない。わたしが混乱してるだけ。
・・・藤田君には、いまの、わたし、どう見えとるの?
でも。
わたしが、どうしたいかは、もう、決まってるやないの。
「や、やっぱ駄目か。そ、そうだよな、女の子がひとりで住んでる男ん家に・・・」
「わかった」
ええよね。
もっと、自分に素直になったって。
ひとが、泣きたいときには泣くように出来てるのなら、この今の気持ちを表わしたいときに・・・そうしてもええはず・・よね?
「え?」
「じゃあ、せっかくやし、今夜は藤田君のご厚意に甘えさしてもらうことにするわ」
「そ、そうか」
何か、ぎこちない動作で傘を受け取る彼。
なんや。藤田君も、戸惑ってたんやんか。
そう思うと、なにか、笑みが浮かんできたような気がする。
「それじゃ、また、おじゃましまーす」

§


藤田君と、ひとつのふとんのなか。
彼が、見た目にも緊張しとるのが、良く分かった。
「いいのか・・・?その、好きでもない男と、こんな・・・」
「好きでもないって、藤田君のこと?」
わたしは・・・ずっとドキドキしてる。藤田君も、そやろう。
玄関で声をかけられるまで、自分ひとりの思い込みやて思ってた。だから、かれがそう言うのも、実は良く分かるような気がする。
でも、今は、ちょっとだけ困らせてやりたい気分。
「失礼やなあ」
だから、そう答えた。
好きやって、言わせたかったから。

§


なんか、あったかい・・・。
朝・・・か。・・・そっか。わたしは、夕べ・・・
「藤田君?」
まだ、寝とるみたい。
なんやこう見ると、可愛い顔しとるやないの。
「ふふ・・・」
「・・・?・・・なんだ、委員長・・起きてたのかよ」
「あ、起きてしもた」
「?」
「せっかく、あんたの寝顔、見とったのに。結構、可愛かったんやけどなー」
戸惑っとる戸惑っとる。
「おいおい・・・勘弁してくれよ」
そう言いながらも、藤田君の目は優しい。
きっと、いまは、だれに向けるよりも、やさしい。
「そういう委員長だって、夕べは・・・」

と、そのとき。

ピンポーン。
「ひろゆきちゃーん」
・・・?
ピンポーン。
「ひろゆきちゃーん、おきてるぅ〜?」
あれって、神岸さんの声?
「げっ!しまった!そう言や今日、雅史の練習試合に付き合うってあかりと約束しちまったんだ。
こーゆーことなら、夕べのうちに難癖つけてキャンセルしとくんだったぜ・・・」
なんやの?もう。ほんまやわ。
でも、こういうトコロも藤田君のええトコロやと、わたしは、思う。
しゃーないなあ。
・・・そや!
「ええよ、急いで行ったって、藤田君。わたしは、ええから」
「でもなあ」
「今日だけは、あんたのこと、神岸さんに貸しといたるわ。そんでな、カギ・・・家のやつ、貸してくれへん?わたし、時間見計らって出てくから。カギ貸しといてくれたら、玄関閉めとくし」
わたしの台詞に、藤田君はちょっと悩んだそぶりを見せる。
「そうすっか。じゃあ、予備のキー渡しとくから・・・」
「うん」
「わりぃな、委員長。愛してるぜ」
もう。
「なに言うてんねん。さっさと返事して、準備しや」
「あ、ああ、そうだな」
そういうと、藤田君は慌てて着替えながら出ていってしまった。
わりぃ、あかり・・なんて言っているのが聞こえてくる。
もうちょっとしたら、わたしも帰るかな。
そんなことを思いながら、わたしはベッドから降りると、机の上に置かれたカギを手に取った。

・・・ふふ。あしたは、覚悟しときいや?

§


「よ、委員長」
「あ、藤田君、おはよう」
翌日、学校の廊下。藤田君がいつものように神岸さんと登校してきた。
「あかり、わりい。ちょっと委員長と話が有るんだ」
「・・・?・・うん、わかった。じゃあ、先行ってるね」
「おう」
ちょっとちょっと。神岸さん、なんかいぶかしげにしとるやないの。 もちょっと上手い話しかけ方もあるやろに。
「ええの?神岸さん」
まだ、誰も知らへんのやから。疑われるような行動は良くないと思うんやけどな。
「ああ、あいつはいいんだよ。ところで・・・」
「カギのことか?」
はっきり言ってやる。ちょっとは困ってくれるやろか。
「え?あ、ああ、まあ・・・」
ちょっと声が大きい・・・、って顔で藤田君が周りを見回す。
藤田君の困った顔って、なんか可愛い。
「わたし、嬉しかったわあ。藤田君、わたしに家のカギ、くれるんやもん。神岸さんかて、持ってへんのやろ?」
「・・・って、おい、ちょっと・・・」
予想通りの反応。思った通りやわ。次ぎは、なんて言うてくるやろ。
「ちょっと、そりゃ、まずいぜ。さすがにカギまでは、ちょっと・・・」
これも予想通り。
ふふ。
もっと、いじめたろ。
「・・・泊まってけなんて言うて、やっぱ、遊びやったんやな」
泣いた振りまでするんは、ちょっとオーバーやろか。でも、やったろかな?
「・・・・な」
顔面蒼白にして驚く藤田君。
何か言おうとして、言葉が喉に突っかかって出てこうへんのが、よう判る。
「わたし、まだ、何か挟まっとるような感じ、すんねん。せやのに、藤田君は日ィ変わったら、もう・・・」
「な・・・」
ますます青白くなる彼。さっきまでの、周りを気にするような余裕も、もう、無い。
あれ?やり過ぎやろか?
しゃあないなあ。
これで終いにしたるわ。
「わたしのこと、愛してるて言うて」
ちょっと拗ねたような表情を作ってみる。上目遣いがポイント。なんて。
「お、おい、こんなとこで・・・って、ああ、もう」
「言うてくれへんの?・・・昨日は、言うてくれたのに」
「わかったよ・・・・愛してるぜ、智子
なんや、声、小さいなあ。でも、今回はもう、許したろかな?
学校ん中やしな。
「ほんま?」
「あ、ああ、当たり前だぜ」
ふふ。ほんま、可愛いわあ。ちょっと位は笑ったらんと、可哀相かな?
「うそはいややで」
「う、嘘なもんかよ。なんなら、もう一回・・・」
藤田君の表情が、すこし柔らかくなる。ふふ。今日は、いや、今回は許したるけど、しばらくはこの手で困らしたろ。
「もうええよ。疑ってなんかおらへん。でも・・・」
「でも?」
「カギは、返さへんでな」
「ええ〜っ?」

§


「カギ、もういいけどさ。持ってたからって、そんな・・・」
帰り道。藤田君が、そんなことを言い出した。
「欲しいもんかねえ、って、さては委員長・・・」
なんやのその目は。
いらんこと期待したって、あかんのやで。・・・って、わたしが思うようなこととちゃうか。
でも、言われへんくても返さへんよ。
「あいこやで、ええねん」
「なにが?」
「カギ。藤田君も、ひとつ、持ってったやんか」
わたしの言葉に、藤田君は、
「?」
って顔をした。

ええよ、気、付かんくても。
でも、たしかに、あんたは、持ってってしもたんよ。
わたしの心のカギ、開けたままで・・・

・・・終わり
あとがき
おあとがよろしいようで。

って、自分で読んでも恥ずかしいネタになってしまいました。
他の人が書いた数々の力作を読むうち、自分も書きたくなってしもたんが運の尽き。
ネタのありきたりさと、自分の文才の無さ、そして何より内容の恥ずかしさに自爆状態っす。
しかも、いいんちょの感情の動きとか、変やし。
書いとる途中で変わってっとるなあ、とは思たんやけど、とりあえす、直さずに公開します。

でも、そのうち、修正しよう。
自分で冷静に読み返せるようになったら。

感想下さい。

同じ物を自分のサイトにも載せました。こっちは、そのうち挿し絵付けます。
もともとは絵描きなので。
こっちもよろしく。

会員No.85 DDT@RAINA(raina@lilac.ocn.ne.jp)

鉄馬コミュニケイション:
http://www.ztv.ne.jp/murase-h/

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