コペンハーゲン大作戦

平成15年10月11日



↑コペンハーゲンの要塞(「The Fortifications of Copenhagen」より)



スウェーデンくんだりまで出張に出された。
往復3日間もの長距離移動に加え、北欧と言うグルメとは程遠い地域への滞在なので酒以外に楽しみも無いのだが、γGTPが150を越している身にとってはそれすらも楽しめそうも無い。それにそもそもこの出張に行く事自体は反対だったにもかかわらず上から無理やり推し進められて、実りの少ないこの出張の為に2ヶ月近い時間を費やして準備を行い、しかも現地に着いてからは体調を崩して倒れそうになる。

ここまで踏んだり蹴ったりの海外出張で手ぶらで帰られようかと、出張中の土日を利用して宿泊地であるマルメの対岸にあるデンマークの首都、コペンハーゲンへの日帰り旅行を企てた。

本当は、某ソフト会社の日本営業の方から、「土日のどちらかにコペンハーゲン観光でもしませんか?」と誘われ、一緒に行っている日本人数人で行く筈だったのだが、他人から借りて読んだ「地球の歩き方:北欧」のコペンハーゲンの市街地地図に、ハッキリとした五芳星が写っているのを見つけてしまい、単独行動を決意した。おまけに王宮内には王立軍事博物館という素晴らしいものもある。恐らくこの2つだけで一日は終わってしまうに違いない。とても一般人の観光に付き合っている暇など無いだろう。

見知らぬ土地での要塞巡り。しかもそれが言葉の碌に通じない海外においては、危険をも伴う物であると言う事に気がついたのは、実際に危険な目に遭ってからの事であった。





現在のコペンハーゲン市街地地図と19世紀中頃のコペンハーゲン(右は「The Fortifications of Copenhagen」より)


午前8時30分頃、マルメからの快速電車でコペンハーゲン中央駅に到着する。駅は地図の左下の黄色線で囲んだ場所にある。駅のすぐ北東には、本家本元のチボリ公園がある。地図上に描かれた黄色い線は、実際に歩き回った部分である。


ともかく何はともあれと、両替所で両替を済ませる。1万円が542DKR(デンマーククローネ)になった。それから、駅前のインフォメーションに行って蚤の市の場所を聞こうと思ったのだが、生憎に午前9時からの営業。と言って30分もぶらぶらするわけにも行かないので、第一目標である五芳星へと向かう。


街は渋谷ほどでは無いにしても、案外とゴミで汚れている。モラルのある北欧のイメージが脆くも崩れる。開店前の商店街を抜け、港や王宮を横目に見ながら北東へと歩く。




要塞(シタデル)


左:南部の稜堡、中:キングス門、右:ノルウェー門


左:水堀と稜堡、中:稜堡間の凹部、右:稜堡内部


左:南東の稜堡と大砲、中:北東の稜堡と大砲、右:西の稜堡と大砲

稜堡内部と要塞内部の建物、現在の要塞(パンフより)

この要塞は、元々クリスチャン4世によって1626年に「聖アンの堡塁」として造られたものである。しかし、その後の兵器・戦術の進化の為に時代遅れとなってしまったので、1661年にオランダの有名な築城家であるヘンリック・ルーズ(Henrik Ruse)を招き、築城をやり直した結果、現在のような縄張りとなった。
1670年のリストによると、要塞本体だけで54門、周りを廻る塁壁と稜堡に40門の大砲が配備されていたとある。


現在は軍隊の駐屯地になっているが、塁堡部等は開放されていて、多くの地元民がジョギングをしていた。ただ、門には銃を持った兵士が控えていたり、塁堡部を銃を提げた兵士が巡回していたりと、それなりの緊張感を湛えている。

5つある稜堡の内4つには、4種類の大砲が置かれている(正確には5種類)。レプリカだとは思うが、もしかしたら本物かもしれない。要塞の外周を廻る稜堡は、南側の一つを除いては民家になったり、市街地として消失している。しかし要塞を囲む2重の水堀は、殆どそのままの形で残っている。

兵士のいる建物で地図が無いか聞いてみたら、要塞を紹介したパンフレットをくれた。壁に掛けてあった小銃が生々しくはあったが、こちらを怪しむ事も無く、気さくな兄ちゃんであった。



いきなりメインディッシュが終わってしまったので、その後の行動を考える。博物館は殆どが12時開館なので、まだ2時間以上もある。
地図を見ると、市街地の北西部にある公園一帯も、要塞の稜堡と塁壁の残骸であるようなので、ここら辺一帯を歩いた後、市街地の南東部にある海軍博物館へと向かう事にする。
もちろん、要塞の北東部にある有名なアンデルセンの人魚像なんぞは無視である。




公園内の稜堡と水堀

北から公園、植物園、図書館が並んでいるが、水堀や土塁によって、微かにその面影を捉えることが出来る。が、しかし、歩いて疲労する割には得られるものが余り無いので、この北西部は植物園等に行くついでに見るのが良いかもしれない。
それから、余りにも堀に沿って歩いていたために、昔の小さな堡塁跡(現在はどこぞの王様の別荘跡)を見逃してしまっていた。何とも阿呆である。


それから南東方向に向きを変え、人で賑わう旧市街地を横断する。

左:怪しい寿司バー、右:有料の自動公衆トイレ

途中、怪しげな寿司バーなるものがあった。どう見ても日本の寿司ネタとは似つかない魚がショーウィンドウに並べられている。
更に、王宮の近くで、有料の公衆トイレを使用する。5DKRを入れると扉が開いて中で用をたすことが出来るものである。中に入ると扉は閉まり、後ろから襲われる心配も無い。終わるとボタンを押せば外に出られる。ペイするかどうかは疑問だが、日本でも置いてみると面白いかもしれない。


午前10時半頃、海軍博物館に到着。しかし、開館時間を調べてみると午前12時。後1時間半もの時間を持て余すのも何だったので、市街の東側を囲むようにしている稜堡と塁壁の跡を歩いてみる事にする。


地図の黄色い矢印の様に北に向かう。昔、この付近一帯が軍事施設だったようで、古い煉瓦造りの大きな建物が連なっている。現在は学校や何かになっているが、デンマーク語なんて読めないのでそれ以上の事はわからない。
やっとの事で稜堡部に出たので、後は塁壁伝いに南下する。




左:稜堡の段差、中:水堀と稜堡、右:塁壁頂部の凹み(砲眼か)


左:稜堡内の建屋、中:塁壁、右:クリスティアニアの地図


左:公園化された稜堡部、中:同堀、右:稜堡と堀


物を知らないというのは恐ろしい事で、市街地の東から南にかけて廻らされている稜堡・塁壁部のうち、公園化されている南部以外の場所は、クリスティアニアと呼ばれる独立解放区となっている。要は、ヒッピーやジャンキーの占拠する特殊地帯で、コカインやヘロインというキツイ麻薬は無いものの、大麻等の軽めの麻薬は通用しているらしい。実際、露天商の賑わう広場に出たときに様子を写真に撮ろうとしたら、数人のスキンヘッドの兄ちゃんに「No camera!!」と囲まれ、挙句の果てにはカメラを取り上げられそうになり、「カメラは駄目だ。しかしこれを買ったらお前の写真は撮ってやる」と言われて指された先には、チョコレート色したレンガの破片のような繊維質豊富な物が90DKRくらいで売られていた。
その時には半分パニック状態で、面倒に巻き込まれたくない一心で、「ソーリー」を繰り返して逃げ出したが、後々冷静になって考えてみるとそれが大麻樹脂だったようだ。間違って買ってでもいたら、関空の麻薬犬に臭いを嗅がれて別室送りになっていただろう。無論、そういう場所の写真は撮れなかったので文章のみである。
(クリスティアニアの地図の下の、「強い麻薬は止めよう」の文字と、両脇の大麻の葉っぱが面白い…いや、面白くない。いや、本当に怖かった。)

そういうわけで、このクリスティアニア一帯の稜堡・塁壁では、あちらこちらに不法占拠っぽいバラックやテントが建てられており、北部の一部と南部の公園化された地帯以外での要塞見物は止めておいた方が良い。(行っても良いが、写真を撮ろうとしない事)



デンマーク海軍博物館



左:博物館正面と大砲、中:スウェーデン海軍との海戦のジオラマ、右:大砲艀



左:潜水艦の士官室、中:大航海時代の糧食、右:魚雷と潜水艦の艦載砲


左:ミサイル艇の艦橋、中:初期の魚雷、右:後装の艦載砲


左:各種艦載砲、中:ノンデンフェルト機関銃、右:機雷と機雷操作用の蓄電池

軍事的に苦労を重ねてきた国だけあって、こういう展示物は内容が充実しており、特に17世紀前後のスウェーデンとの度重なる戦争に重点が置かれている。海戦を模したジオラマは出来が良かった。
他に近代から現代にかけての海軍の展示では、退役した潜水艦やミサイル艇の一部が置かれてあり、実際に中に入って見学する事も出来るようになっている。
また、この博物館のスタッフは海軍軍人がやっているみたいで、若い人が多く、女性も多い。一室ではスタッフがロープの編み上げ作業をやっていたりした。またミュージアムショップでは乾パン(所謂ネイビービスケット)が1枚3DKRほどで売られていて、昼飯代わりに買って食ってみたが、なるほど、かなり硬かった。


本場のネイビービスケット…やたらに硬い。指輪物語の「たらふく」もこの手か?

開館は12時から、入場料は40DKRである。




時間が限られているので、大急ぎで王立軍事博物館へ向かう。



デンマーク王立軍事博物館

入場料40DKR。開館時間は12時から16時で年始年末が休館日が確実情報。何しろパンフレットは貰って来たが、デンマーク語は読めない。夏(サマータイム時)は10時から16時かもしれない。後は不明。


入館時に館員のおっちゃんから、「70DKRでイベントにも参加するか、それとも館内見学だけで40DKR払うか?」と聞かれ、良くわからなかったから館内見学だけで40DKRを払って入ったのだが、どうも「中世祭り」というような感じのイベントだったらしく、中世衣装のコスプレ有り、裏庭では槍試合有り、中世の市場の再現有りという、中世ヨーロッパマニアには垂涎の催しが行われていた。もちろん大後悔したが後の祭り。よっぽど翌日もコペンハーゲンに来ようかと思ったが、流石に諦める。




↑こんな感じ(博物館のパンフより)
(パンフによると、2003年は10月11日から19日までの、11時から14時30分までこのイベントが行われているそうであるが、いかんせんデンマーク語は読めないので不確実情報。詳しくは博物館のHPを参照)


諦めて、素直に館内見学。




大型迫撃砲、ゴリアテ、3インチ砲(詳細忘れた)


初期に近い大砲、?、カロネード砲と臼砲


軽砲と臼砲、施線後装砲、同左


施線後装要塞砲、各種砲弾と弾薬、連発砲(ガトリングじゃない)


野戦炊事車、クルップ式野砲の一種?、フランスのM1897野砲


クルップの野砲(38式野砲の原型)、1階の遠景、88mm Flak36


ミサイル群、初期の艦載後装砲、2階の遠景


パックル砲、ノルデンフェルト砲、ガトリング砲


ガトリングの一種?、マキシム機関銃、モンティニー機関銃


一斉射撃砲の一種?、コルト・ブローニングM1914、マキシム'08


…ごめんなさい、ごめんなさい、兵器通ぶって悪かったです…というくらいに、次から次へと古今東西の各種兵器を喰らわされて、食傷気味になってしまった。出来る事なら丸2日くらいかけてゆっくりと見ないと見切れないくらいの量があった。
展示品の中でも小銃類…特にマスケット…その中でもホイールロック式の小銃がやたらと多かったが、ここら辺は見ても良くわからない所なので、いいかげんに嫌になってきた。そういうのに興味のある方には、楽園と言ってもいいくらいである。

品揃えとしては、
多数:大砲各種、小銃各種、機関銃各種、刀剣類
少数:ヘルメット、鎧、軍装品、車両、ミサイル
という感じである。他の人のHPにはドイツの3号N型もあるとの事だったが、今回は見る事が出来なかった。イベントを行っていた中庭に置かれていたのかもしれない。

閉館時間も迫ってきたので、蚤の市を探しに行く。



…結局、骨董品を扱うデパートに行きそびれたり、蚤の市は見つからなかったりで、もう一つの目標であった「骨董品」は一つも購入する事が出来なかった。
おかげで両替したデンマーククローネが220DKRも余ってしまい、日本円に両替し直そうにも「5000円以下の札が無いから両替できない」と断られてしまい、仕方が無いので夕飯でも食って使い切ってしまう事にしたのだが…。
結局それらしい飯屋が見つからず、駅横の高級そうな食堂に入って、食い放題バイキング(146DKR)にした。
ところが……確かにローストビーフとかスモークサーモン等の美味しい品も有ったけど、殆どの食い物が不味くて不味くて……しかも肝心のデザートも不味くて……バイキングなのに何を食べても不味くて……何かこう、罰ゲームでも受けているような悲惨な夕食になってしまった。こんな事なら北欧名物のエロ雑誌でも2,3冊買って置けば良かったと後悔するが、後の祭。


食後にトイレに行ったのだが、小便器が見つからない。まさか大便器で全部やっているのか、と疑問に思いながらも良く良く探してみたら…下の写真のようなのが小便器だと言う事に気がついた。幅は3人分くらいあるけど、こんなんで本当に並んでやるのか?

言語道断な小便器



結局今日一日で15kmくらいを歩きまわり、おかげで足がかなり痛くなってしまう。これにクリスティニアニアでの危険な経験、一つも買えなかった骨董品、そして最後に北欧料理の駄目押しが加わり、ほうほうの体でコペンハーゲンから撤退したのであった。





○おまけ、マルメ観光
2日連続でコペンハーゲンというのも肉体的にも金銭的に辛かったので(マルメ‐コペンハーゲン往復で160SEK、約2500円)、翌日は宿泊地であるマルメの観光を楽しむ事にする。
しかし、数ある博物館美術館は、殆ど全て12時開館というやる気の無さ。仕方が無いので、それまではマルメ城の周りをまわったり本を読んだりして時間を潰す。




マルメ城正面、城門、裏手


マルメ城内の博物館の展示…冷凍魚フライ、コッカムス技術博物館の展示…サーブドラケン、潜水艦の蓄電器とトイレ


潜水艦の機関室、潜水艦U-3、バイクの展示


リベット打ちの機器類、何故かトラバントが…


旧市街地の西側にあるマルメ城一帯が、博物館・美術館群になっており、共通券を40SKRで購入すると4つの建物に入場する事が出来る。(初めは気がつかなくて、それぞれで40SKRを払うところだった)
詳しくはこちら

面白かったのはコッカムスの技術博物館で、戦時中の潜水艦(U-3)やSAABのドラケン、各種車やバイク、航空機エンジン等が展示してある。もちろん造船所であるコッカムスという事もあって、造船に関する展示も充実しており、鋲打ちの機器類から現場の等身大ジオラマ等が作られていた。また3階は東京は北の丸の科学技術館のようになっており、子供も楽しめる各種展示物が置かれていた。




ともかく、店や博物館等の開店時間がかなり制限されていたので動きにくかったが、それなりに楽しめた。旅行で行っていれば、他にも色々と行きたい場所は有ったのだが、何しろ北欧は距離感が日本とは隔絶しているので、かなり時間的余裕を持って行かなければ全てを回る事は出来ないだろう。
次回にもしも行く事があれば、ノルウェーの沿岸砲台、フィンランドの要塞跡、デンマークのその他の要塞跡、それに他の各種軍事博物館は回りたいものである。


戦果
	攻撃対象	2城

	うち 棄権	0城

			2城	攻略



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