2006/01/21番外編『ドグラ・マグラ』(第一回読後司淳覚書) ■大分前(15年以上前?)から読んでみたいと思っていて、何故だか(第六勘が働いたのか?)後回しにし続けていた、夢野久作の 『ドグラ・マグラ』をやっと読みました(苦笑)。 多くの人がそうであるように、一回読んだだけではその構造を把握する事は 難しいと思います。 なんとなく分ったようには思うんだけど・・・やはり分らない・・・。 なので、一回目を読み終わった僕の覚書きといいますか、自分で感じた事を書いておいて、いずれ読み返した時に感じる事との 相違点を見ようという僕の為だけの日記です(笑)。(本来日記とはそうした物ですが・・・;w) (実際には僕は眠い目をこすりながら2日半ほどで読んでしまったので、読み落としや誤解が多数あると思います。 まったく的外れな事を書くかもしれませんが、そこはお許しアレ・・・・(苦笑)。) そもそもこの『ドグラ・マグラ』の構造自体がその話中に出てくる、精神病患者の「若い大学生」が書いた原稿用紙綴り5冊分の 「ドグラ・マグラ」という手記を更に我々読者が読んでいるという、なんともややこしい構造になっています。(この冊子では 「……ブウウーーンンンーーンンンン……」ではじまり「……ブウウーーンンンーーンンンン……」という音で終わる。しかし 実際の本文は「……ブウウウーーンンーーンンン……」と若干違って終わっているのは、作者が仕掛けた何かの暗示だろうか??) そう考えると一人の狂人の見た妄想を記した手記とも考える事が出来るので、はたしてこの物語である呉家の惨劇が本当にあった 事なのか?正木博士の非人道的な実験は実際に行われた事なのか?そもそもこれを書いた事になっている呉一郎はじめ、絶世の 美少女の呉モヨ子、正木博士、若林博士などが存在したのかも怪しくなってくる訳です・・・何もかもが曖昧となって表題である 幻魔術と言う意味の『ドグラ・マグラ』に帰結する訳なのです・・・。上記を前提とした場合、正木博士が書いた「外道祭文」や 「胎児の夢」「脳髄論」などの論文や「遺言書」などを正木博士本人以外の人間にかくも詳細に記す事が可能であるか? それは言い換えれば、正木博士=「若い大学生」と言う事になり、正木博士を含め全ては妄想・・・結局は「夢野久作」著・・・。 と、この大前提の部分を考えただけでもこれほどに訳が分らなくなってきます。(この作品は10年の歳月をかけ執筆されたそうで、 その間に何度も練り直され、念入りに作りこまれた(夢野久作氏の思惑通りの)迷路にまんまと嵌っている気がします。 しかもこの作品が発表された翌年には夢野久作氏は亡くなっている。らしい。正にライフワークだったんですね。) しかし読者としては、この話中の物語をただの妄想ではなく(小説世界の中で)実際にあった事と思っていろいろと想いをはせたい ので、そう考える事として、やはりいろんな疑問が出てきます。 読んだ後に最初に疑問だったのは、呉千世子を絞殺した犯人です。話の最後に呉一郎は呉青秀の心理遺伝により殺害したり危害を 加えた人達が死に逝く様や状況(自分が見た映像)の幻を見ます。ソレではつい鼻先に母親である千世子の顔が出現し、首を絞めら れ、絶命するまでを自分の視界で見ているので、殺害したのは呉一郎=呉青秀かとも思ったのですが、それ以前の正木博士の最後 の告白によって事件当夜の呉一郎は夢中遊行では断じてなく、麻酔薬を使って眠らされていた事や入口の心張棒が外部より外され、 犯人が侵入した事を告白している。(そのよそよそしい口調や態度に「W」か?とか迷ったりするのですが;w) 何よりも呉一郎を犯人とするなら、巻物を見せて呉青秀の心理遺伝を覚醒させなければならないが、事件後2年間、呉モヨ子絞殺 事件の前日に至るまで正気であったという事実がこれを否定している。 となれば、やはり千世子を絞殺し、階段まで引きずって行き、自殺のような格好にしたのは正木博士という事になる。 では前記の幻光景は、寝ていた呉一郎のすぐ横で行われた母親殺害の状況を寝ボケながらに見た一郎の記憶だったのだろうか? 次の疑問は「狂人開放治療場」の実験の大成功と大失敗です。大成功というのは(正木博士が)砂に埋めたラムネの玉やガラス管の 折れたの等、呉青秀の妻の遺品を模した物を掘り返させ、その暗示によって呉一郎を完全に呉青秀にして、その次に起こる惨劇を もって大成功としたのだろうか?(心理遺伝の実証??それは多大な危険と犠牲を払った呉モヨ子絞殺事件における実験ですでに 実証されているのでは?では開放治療場そのものの存在意義は??ひょっとすると呉一郎と呉青秀の完全分離を目的としたのか? 分離したならば、その後に呉一郎を覚醒させれば・・・。) そうと仮定するならば、大失敗とはその後、殺害した浅田シノの遺体を自分の病室に持ち帰った呉一郎が、正木博士に向かって 「お父さん」と呼びかけた事によって、間違いなく呉一郎本人(X呉青秀)という事が分ったからだろうか? (正木博士の自殺の本当の原因は、自分の息子を正真正銘の殺人鬼に変えてしまった自責の念???) そして最大の疑問が絶世の美少女、呉モヨ子を若林博士が死人とした理由です。実際にはモヨ子は呉一郎=呉青秀の恐ろしい要求 を聞いたショックで仮死状態となっただけであるが、ソレを知った若林博士は何故かモヨ子を(社会的に)蘇生させず、死んだもの とした。更に偽装死体まで作り、モヨ子を社会から抹殺してしまう。そこに何の意味があったのか?素直に蘇生させ、精神を病ん だ患者として6号室に収容すればそれでよかったのではないか?そうすればモヨ子の母、呉八代子も正気に戻り、放火、焼死に至 る事もなかっただろうから、その後二人が完治した暁にはめでたしと再出発する土台が確保されているはずである・・・。しかし、 もはやモヨ子は完治してもそのままでは社会生活は出来ない。死人なのである。当然、間違いである事を世間に訴えねばならない。 故に、もしもモヨ子を開放したならば、たちどころに若林博士の所業が世間にバレて追求される事になる。破滅である。 と、いうことは若林博士は呉モヨ子も呉一郎も完治させ、結婚させ、再出発をさせる気は最初から無かったという結論に至る。 冒頭で呉モヨ子は自分の事を「モヨコ」と言っている。これはモヨ子が自我を取り戻し、完治しかけている証拠で、「お兄様」と 呼んでいるので少し心理遺伝の影響を受けていると思われるが、最後には「一郎兄さん」「モヨ子ですよ」と呼びかけているので 完全に自我を取り戻し完治しているのが分る。完治したのであれば、自分の首を絞めた呉一郎を恋焦がれ求めるはずは無いと思う かもしれないが、モヨ子は呉一郎=呉青秀の要求を聞いた時点で卒倒し(ショックか?首を絞められたせいか?)仮死状態になって いるので、一郎に殺されかけた事は知らないし、母八代子を滅多打ちにした事も知らない。正に「こ、この人、変態よぉ〜〜!?」 と気を失って、気が付くと檻の中という訳(笑)。そりゃあ、精神錯乱もするでしょうよ!!(冒頭はともかく、最後の呼びかけは 恋焦がれているというよりは狂女と間違われ、幽閉されている地獄より開放されたいという必死の叫びのように思う。) そして最後の望みの一郎の病状は若林博士がジッと見張っているのである・・・二人が二度と病院を出て、再出発をする事は無い ・・・ハズなんだけど、若林博士は結核で余命も少ないはずだから死んだ後に二人が自由幸せになれるように算段をしているのか? ・・・としても、ならば、なおさらモヨ子の死亡偽装は納得がいかないモノになる・・・・・。 何故なら、この事さえ無ければ(正木博士が一人で全犯行をしていたなら)若林博士にはなんらの負い目は無く、胸を張って親友 (世間的には)の正木博士と自分の研究を掛け合わせ学会に発表し、二人を完治させた偉人として歴史に名を残せるのだから。 上記の事を考えると、やはり若林博士も何らかの犯行に手を染めたのだろうか?その保身の為にモヨ子が必要だったのだろうか? ・・・・・・・・・・それとも・・・・・・・・・やっぱり「変態性欲」??・・・・・・・(冷笑)。 この他にも細かい疑問はそれこそ限りなくあるのだけれど、それは2回目3回目を読んで分ってくるところもあるだろうから 楽しみに取っておこうと思う。(「モヨ子」という名前にも、どうも引っかかる・・・) 実はこの前に同じ夢野久作の『少女地獄』を読んでいるのだけれど、僕自身としては『ドグラ・マグラ』の方が未来をどのように も想像できる分、救いがあるように感じました。何よりも美青年・呉一郎には美少女・呉モヨ子という許婚がいて、一つ転べば 大団円ともなれるのだから・・・。それに比べ、『少女地獄』では少女とされる女性が実はとてもそうは呼べない年齢であったり、 夫を殺し、自らもお腹の子共々自殺を決意するなど、なんらの救いも無く、三編ともに無残にも自殺という形で死んでいく・・・。 しかもその文体がどこかよそよそしく同情し悲しむ事も出来ない。正に『少女地獄』の題にふさわしいものでした。 しかし今回は僕の日記では最長でしたね・・・(苦笑)。最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。お疲れさま〜。 |
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