「500円玉でゴザル」


      休み時間の三弦堂学園である。
     廊下をちまちまと歩いていたちゃむは、行く手に奇怪なものを発見した。


奇怪なもの:……むむむ!とどかないでゴザル……!


      その奇怪なものとは、紙パックジュースの自販機の周囲を四つん這いになって這いまわる
      一人の女生徒である

ちゃむ:なにしてんのじうべー?


奇怪なもの:む!?
      ああ、ちゃむ殿でゴザルか。


      三弦堂学園1年5組生徒、ダイアナ=幸安。ちゃむのクラスメートである。
      同校体育教師の幸安十兵衛の実の娘なので、「十兵衛ちゃん」「プチ十兵衛」と呼ばれている。
      父親の歪んだ教育方針のおかげで謎のサムライ口調とちょっとズレた感覚が個性的な16歳である。

プチ十兵衛:うむ、実は拙者、今しがた日課の自販機のお釣りチェックをしていたでゴザル。


ちゃむ:うむ。


      これまた父親の悪影響で彼女の行動はいちいちビンボ臭い。

プチ十兵衛:するとなんと!今日は幸運にも500円玉の忘れ物を発見したのでゴザル!


ちゃむ:おお!


プチ十兵衛:ところが拙者不覚にも手を滑らせて、その500円玉を自販機の下に落っことしてしまったのでゴザルよ〜〜〜!


ちゃむ:どれどれ?(しゃがんで自販機の下を除きこむちゃむ)
      ……ややっ!ホントだっ!


プチ十兵衛:見ての通り自販機の下は狭く、手を差し込むことは不可能でゴザル。
        我が人生最大の苦境でゴザルっ!


ちゃむ:む〜〜〜!!(ぐいぐい)
      ほんとだ。ダメだねこりゃ。


プチ十兵衛:しかし、武士たるものこれしきの事で敵に背を向ける事はできんでゴザル。
        何とかしてこの自販機めから500円玉を奪取せねば、拙者の武士の誇りに傷がつくでゴザル!


ちゃむ:なるほどー。ダッシュかー。
      よーし!


      やおら自販機からタタタと離れると、
ダッシュで自販機に体当たりをするちゃむ!



    ぼごーーーーーん!!

プチ十兵衛:だっ!大丈夫でゴザルかちゃむ殿っ!?


ちゃむ:…………きゅう。


      しかしウェイトの軽いちゃむのこと。
      特攻もむなしく、彼女のボディアタックでは自販機はちょっと揺れただけであった。

プチ十兵衛:くうっ!しかしあっぱれでゴザルちゃむ殿!
        強大な敵にも恐れずに立ち向かうその勇気!拙者感服したでゴザル!
        なれば今度はこの拙者がっ……!


ちゃむ:…………む〜〜〜〜待つんだじうべー……。
      力でかなわない時はアタマを使うんだってちゃむのおにいちゃんが言ってた〜〜〜。(ふらふら)


プチ十兵衛:む、勇将は武のみならずでゴザルな?!

      と、いうワケで自販機の前で額を突き合わせて考え込むバカ二人。


プチ十兵衛:む〜〜〜〜〜〜!


ちゃむ:む〜〜〜〜!
      ………おお!


プチ十兵衛:何か思い付いたでゴザルか?


ちゃむ:おう!!


      と、どこかに走り去ると、今度はどこかで木箱と長い棒を見付けて引きずってきたちゃむ。
      これで天井からぶら下がったバナナがあればサルの知能テストである。

プチ十兵衛:はて?


ちゃむ:これでこうするのだー!


      と、言うやいなや、棒の端を自販機の下につっこみ、木箱を支点にしててこの原理で
      グイと棒を引き下げるちゃむ!

    ずだだーーーーーん!!

      轟音と共に横倒しになる自販機!


プチ十兵衛:おおおおおっ!お、お見事!


ちゃむ:500円ゲットだー!
      いえー!ちゃむ頭いー!


プチ十兵衛:知将でゴザルなちゃむ殿っ!!


        
バカ二人。

プチ十兵衛:それではこの500円で何かごちそうするでゴザル!
        ちゃむ殿の協力で手に入れた500円であるゆえ、山分けでゴザル!


ちゃむ:いえー!ラッキー!


      と、意気揚揚と去って行く二人の後には、倒れた衝撃で大破し、500円どころか数千円分の小銭を
      撒き散らす自販機の哀れな骸がころがっていた……。


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プチ十兵衛:……ううう。
        まさか500円玉ではなく、削ったウォン貨幣だったとは……。

ちゃむ:なんか食いてー!


プチ十兵衛:されど無いソデは振れんでゴザル。


ちゃむ:む〜〜〜〜。


      またしても廊下の真中で額を突き合わせて考え込むバカ二人。

ちゃむ:………おお!


プチ十兵衛:やや!またもや閃いたでゴザルか!?
        冴えてるでゴザルなちゃむ殿!


ちゃむ:おぅ!!
      そーいえばただ見てるだけでメシくれるねーちゃんがいるぞ!


プチ十兵衛:なんと!ホトケの様に慈悲ぶかいお方でゴザルな!


ちゃむ:ちょうどメシの時間だし、行くべし!


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中庭のベンチで弁当を食べようとしていたなこは困っていた。

なこ:…………。

ちゃむ:………(じぃ〜〜〜〜〜〜)。

プチ十兵衛:………(じぃ〜〜〜〜〜〜)。

なこ:…………あ、あの…。

ちゃむ:………(じぃ〜〜〜〜〜〜)。

プチ十兵衛:………(じぃ〜〜〜〜〜〜)。

なこ:え、えっと。

ちゃむ:………(じぃぃ〜〜〜〜〜〜)!

プチ十兵衛:………(じぃぃ〜〜〜〜〜〜)!

なこ:あ、あうう〜〜〜〜!!(泣)



END