「プール大作戦!(後編)」

 

初夏の強い日差しがギラギラと照りつける日々。
ここ、パシフィックハイスクールの中学生達の士気も、
最近すっかり低下気味。
特に寒い季節が大好きな凛(りむ)などは、もうとっくに戦力外状態だ。



凛:う〜〜〜〜暑いよぉ〜〜〜〜
     誰か〜〜〜〜誰かあたしを殺してぇ・・・・・」


セレナ:凛、凛!


凛:あ、せれなちゃあぁん?
    あたしはもうだめ。ここで体中の水分を蒸発させて、
    溶けてなくなってしまうんだわ・・・・。
    短いようで、長い付き合いだったわね・・・
    思い出が走馬灯のように流れていくわ・・・・。
    天国のお姉ちゃん・・これからはあたしの時代よ・・・


セレナ:何訳わからんこと言っとんのや!
      大体アンタの姉ちゃんはピンピンしとるやろが!
      次の時間は体育やで、プール開きや!


凛:はっ!
    そうだった!


セレナ:ここでダラダラとうだっとったら、プール欠席になってまうで!



凛:いやいやいやいや、
    それはいや、それはいや!
    よーし、やるぞー、
    パーン!(頬っぺた叩いて気合いを入れる)


セレナ:よーし、瞳にいつもの輝きが戻ったようやな?
      それならいくでぇ!プールに突撃や!


凛:おーっ!!


セレナ:(くくく・・・・凛?あんたの発育っぷり、
      うちがこの目とこの手で、しっかと確かめたるで・・・・)



 おいおいおいおい、セレナの目に怪しい光が輝いてるぞ。
 他にも女の子はいるだろうに、どうして凛なんだよ?
 凛って他の女の子と比べても、貧乳もいいとこなんだぞ?



セレナ:「やかましい!ええか?貧乳の子はな?乳でかい子よりも
       ず〜〜〜っとず〜〜〜〜っと敏感なんやそうや。
       うちと凛は長い付き合い。あの子が幼女から
       少女になるんも、じ〜〜〜〜っと見届けてきたんや。
       でも本当に「少女」なんか、うちにはわからへん。
       ひょっとして、うちの知らん間に「女」になっとったら
       一大事や!

       
せやから、親友のうちとしては、確認する義務があるんや!」


 なんかセレナさん、言ってることが
すごくマニアックな気がするんですけど・・・・。
 それに理屈が強引というか、筋が通ってないっていうか・・。



セレナ:「なんやナレーター!何か文句あるんか!」


 
いえいえいえいえ


セレナ:「なら黙ってそこで見とき。
       うちがえ〜〜〜もん、見せたるさかい。」


 
は、それではひそひそと実況させていただきます。


セレナ:「それでええ。世の中ギブアンドテイクや。
       うちの足、引っ張らんといてや!」


 え〜〜〜、それでは・・・・。
 あ、凛とセレナが女子更衣室に向かいました。
 いよいよ体育(水泳)の授業が始まるようです。



セレナ:(凛?ただ見るだけやったらつまらんわ。
       この、一見時計に見えるデジカメで(カシオ『リストカメラ WQV-1』。好評発売中。
       (22000円)、あんたの成長記録を保存したるわ!)


 おいおいセレナさん、それって犯罪なんじゃないのか?


セレナ:(安心せい、凛?決してネットで流したりはせえへん。
       流したら高値はつきそうやけど、そんな凛が悲しむことはせえへん。)



 
十分悲しむと思うんですけど。


凛:・・・・どうしたのセレナ?
    着替えないの?遅れちゃうよ?


セレナ:あ?え、ええええと。
      そ、そやね?えーっと、水泳帽は、どこやったかーなー?


セレナ:(む!凛がシャツを脱いだ・・・・・!)
       シャッターチャンスや〜〜〜!(チャンスやー)(チャンスや)←残響音
       ・・・・・・って、あらら?



 凛のシャツの下から出てきたのは、可愛いブラではなく、
濃紺のスクール水着であった。





セレナ:り、凛・・・・?
      なんや、あんた、家から水着、着てきたんかい!


凛:うん!
    だってさー、待ちきれなかったんだもん。
    いつでもプールに入れるように、
    着替えの方を鞄に詰めて、もって来ちゃった!


セレナ:ど、ど、どアホーーーーー!
      中学生にもなって、そんなことしてくる奴があるか!
      小学生かあんたは!ホンマに!


凛:?????せ、セレナ?何怒ってるの?


セレナ:な、何でもあれへん!
      あー、アホらしゅうて話にならんわ!
      期待して損こいた!早ようちも着替えてまお!


凛:?????


セレナ:(それやったら、水の中が勝負やな・・・。
       水の中で凛の成長振りを、この目と手で確かめたるわ・・・!



 
はー、彼女もめげないねえ。そこまでするとは見上げた根性だ。
 あんまり誉められたものじゃないけどねぇ。
 あ、カシオのリストカメラでは、水中撮影はできませんよ。念のため。

 

 
初夏のプール。
 夏の暑さに我慢できなくなった青い果実たちは、
 われ先にとプールに飛び込んでいく。
 中学生だから当然、水泳は男女別々。
 従って目の前は当然女の園だ。
 男なら思春期の煩悩真っ盛りの青少年から
 中年の煩悩真っ盛りのオヤジまで、その光景を
 見た瞬間「はにゃーん」となったり、
 色んなとこを肥大させたりするものだが、
 この女の園の中でただ一人、
 やっぱり「はにゃ〜〜ん」となっている生徒がいた。


セレナ:は〜〜〜、ええわあ。右見ても左見ても、スクール水着の
      女子中学生で一杯やわ。
      お、あの子は去年より5センチでかくなったな。
      あ、この子はイマイチ増えとらんなあ。栄養とらなあかんで、ホンマに。
      若いうちはいくら食べても体が追い越していくんや。食べないと
      成長せえへんで、ホンマに。


凛:セ・レ・ナ・・・・・?
    何あんた、オヤジ臭いこと、言ってんのよ?


セレナ:な、何でもあれへん!
     「みんな元気やなー、プール楽しみにしとったんやなー」なんて、
     思っていただけや。


凛:本当に・・・?
    セレナは女の子好きだから、どうも信じられないのよね・・・。


セレナ:(違うわ。うちが好きなんは凛だけや。うちは一途な女なんや!)


凛:ま、いいわ。
    あ、授業始まっちゃうよ!


セレナ:あーい。


 
こうして水泳の授業は始まった。
 泳力別にクラスを分け、各々指導を行う。
 凛もセレナも水泳は得意だったから、勿論上級者向けクラスに編入。
 極めて真っ当な授業を行っていた。


凛:すごいね、セレナ。
    今年もスピードアップしてるね。
    インターハイとか、出られるんじゃない?


セレナ:いやー、そんなことないわ。
      水泳部とかに入っとるわけやないし。それは無理や。


凛:だったら水泳部に入りなよー!
    セレナだったら、絶対スターになれるって!


 などとひとしきり、健康的な会話が繰り広げられていた。
 だが・・・・


セレナ:(くくく・・・凛の奴、すっかり安心しきっとるな。
       次の自由時間がチャンスや!)


 真っ当を装った、セレナの作戦だったのだ!



 ピピー



先生:「これから15分、自由時間にしまーす」


 
クラスを隔てたガイドは取り払われ、自由時間が始まった。


凛:よーし、それじゃ遊ぶぞ〜〜


 
と、その瞬間


凛:!!!


 
凛は自分の背後から、誰かに抱きすくめられていることに気づいた。
 しかも体は水の中に入っているし、プールも混雑してきたので、周りも
 そんな行為に対してお構い無しである。

 当然のことながら、凛は抱きついてきた相手が誰だか、わかりきっていた。


凛:せ、セレナ〜〜〜〜!


セレナ:あ、ばれた?


凛:ばれたじゃないわよ!こんなことするのあなたしかいないわよ!
    は、離してよ・・・!


セレナ:う〜〜ん、今年は3センチ成長、といった感じかなあ。


凛:(図星)そ、そんなことどうでもいいでしょ!
    離してったら!


セレナ:ほら、暴れたらいかんで!暴れたら!
      正確な値がわからんやないか!


凛:や、やだ・・・・!
    そんなとこ、触んないでよ・・・。
    や、やだ・・・・・・


セレナ:お?どうした凛?
      うなじが赤ぁあくなってきたで・・・?


凛:やだ、やめてよ・・・
    嫌だったら・・・・!


セレナ:クスクスクス・・・。


凛:や、あ・・・・あ・・・・!


セレナ:お〜〜〜っと、ストップや!
      プールの中でイかせたら、可哀想やもんな。
      ん〜〜〜、ええ表情、ばっちり撮れとる。
      サンキュー、りむ〜〜〜!


凛:え、何?ばっちり撮れてるって、どういうことよ!
    ひょっとして、セレナが腕にしてるのって、デジカメ?!

    く〜〜〜〜、やられた〜〜〜〜!

    もう、許さない!
    やられたらやり返すっていうのが、瑠璃川家の家訓だもんね。
    三倍返しにして、写真も消去してやるわ!
   (ちょっと気持ちよかったなんて、口が裂けても言えないし!)

    その頃セレナは、プールサイドで鼻歌を歌いながら、
    先ほど撮った写真に見入っていた。


セレナ:ん〜〜〜、どれもこれもええ感じや。
      お、これなんかお宝画像もええとこや。
      家帰ったら、CD-Rに焼いとかなあかんな。永久保存版や。


凛:セレナ〜〜〜!


セレナ:あん?


 と、次の瞬間、セレナは凛に足を引っ張られ、
 水の中に引きずり込まれた!


 ドボーーーン!



セレナ:が!がぎぐるんが、ぎぶ!(な、なにするんや、りむ!)


凛:ざっぎどぼがでじご〜〜〜〜(さっきのおかえしよ〜〜)


 
凛はセレナの背後に回り、
 セレナの大きな胸をわしづかんで、もみ始めた



セレナ:り、りむ!
      あ、あんたまさか・・・・
      わかってくれたんやね・・・!


凛:き、気持ち悪い事言わないでよ!
    さっきのお返しだからね!
    よくも恥をかかせてくれたわね!
    三倍返しじゃ、済まさないんだから!


セレナ:や・・・
      り、凛?あんた結構上手いやないか?
      どこでこんなこと覚えたん・・・

      さよか、あのお姉ちゃんやな・・・
      あのしおらしそーなお姉ちゃんに、手ほどきを・・・


凛:ち、違うわよ!
    晩生のお姉ちゃんがそんなこと教えてくれるわけないじゃない!


セレナ:それなら・・・どこで・・・


凛:そんなのどこでもいいじゃない!
    そ〜〜ら、どう?セレナ?
    プールの中でこういうことされるのって・・・


 と、そのとき。
 セレナの周りが急に光り始めた。

 
凛:え・・・・?


セレナ:ふわぁ・・・・・!
      い、いっく〜〜〜!


バリバリバリバリバリバリ!!!!!


生徒:ぎゃ〜〜〜〜!


 セレナが歓喜の声を上げた瞬間、プール全体に激しい
 落雷があったかのような電撃が走った。
 プールに浮かぶ生徒たち。
 凛も気を失って、プールに浮かんでいた。



セレナ:ふわ?
      り、凛?りむ〜〜〜〜?!

 



 放課後・・・・・。




凛:あーあ、今日はセレナのおかげで散々だったわ。


セレナ:何いっとるんや・・・。凛がうちに変なことするからや。
      あーあ、うちのリストカメラ、壊れてしもうた・・・・。
      これ高かったんやで・・・・。


 
帯電体質のセレナの体内に溜まっていた電気が、
 セレナの興奮とともに一気に体外に放出され、
 (伝導性の高い)水を伝わり、事件は起こった。


 結局水泳の授業は中止となり、
 セレナも凛も、先生に大目玉を食らったのだった。



凛:でもまあ、これであたしの秘密も守られたわけだし?
    何はともあれ、よしとするべきかな。


セレナ:よかないわい!
      凛!リストカメラ、弁償せい!


凛:何言ってるの?自業自得でしょ〜〜!

    ま、これで一件落着ってわけだ。
    もっとも、あの執念深いセレナのこと。まだ諦めたとは
    思えないんだけどな。


セレナ:よ〜し、次は臨海学校で勝負や!

続く


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