”バレンタイン百景”


      バレンタインデー。
      女性が意中の男性にチョコレートを渡してその思いを伝える日・・・・・・。
      そして、さまざまな喜怒哀楽が交錯する日……。

      三弦堂学園の教室の一角でも、チョコを渡す相手を打ち明け合う女子の黄色い声が響いていた。





    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼幸安十兵衛の場合▼▼▼▼▼▼▼▼▼

女子A:ねーねー、今日は誰にチョコ渡すの?
女子B:えっとねー、4組の澤田君。

女子C:うっそー!競争率高いよー!?
女子B:いいのよ!渡すだけだもん。
     5組の増山君にも渡すし。
女子A:あたしも義理だけで6コだよー。

      どうやら彼女らは真剣な意中の人が居るわけではなく、遊び感覚でチョコを男の子に渡すことを
      楽しんでいるクチのようだ。
      ま、これとてバレンタインデーの一つのありかたである。


十兵衛先生:ばかもぉん!!
女子C::きゃっ!?

      突然彼女らの歓談を野太い怒鳴り声がさえぎる。
      見ればそこに居るのは怒りの表情の十兵衛先生である。


十兵衛先生:貴様ら神聖なる学び屋でそのような浮かれたチョコ遊びなぞに興じおって!
         恥ずかしいとは思わんのか!?


女子A:え……えっと……。

十兵衛先生:そもそもチョコレートなんて物は学業に無関係な物品ではないか!
         そのようなものを臆面も無く学内に持ち込みおって……。
         没収だ没収!

      生活指導担当でもないのにいきなり厳しい事を言い始める十兵衛先生。

十兵衛先生:しかーし!ワシも鬼では無い。
         実は
ワシに渡すために持ってきたチョコがあるとか言うなら、それはそれで多目に見て
         受け取ってやっても良いし没収も見逃してやってもいいぞ?んん〜〜!?

      ……恐ろしくさもしいことを考えるオッサンである。

女子B:でも先生!私たち没収されるような物持ってきてません!

十兵衛先生:ほぉ〜う!?
         ではその机の上の数々のチョコはなんだ?
        「バレンタインチョコは持ってきてもいい」などと校則に書いてあると言うのか?


女子B:書いてありますよ。

十兵衛先生:そうだろうそうだろう。
        判ったら潔くワシにチョコを渡し…………。

              ………
書いてある!?

女子B:ほらここに。

      と、言うと自分の生徒手帳の校則のページを開いて見せるその女子。


      学園生活に関する規約第二十一条
      ・原則として、学園生活及び学業、クラブ活動に無関係な物品の学内への持ち込みは禁止する。

     学園生活に関する規約第二十二条
      ・ただし、バレンタインチョコレートの持ち込みは是を例外として認可する。


十兵衛先生:……………………。

      本当に書いてあった。

女子A:もー、先生。
    教師なんだから拘束くらい覚えといてくださいよう!

女子C::それじゃあたしたち、チョコ渡しに行くんで失礼しまーす。


      と、言い捨てるときゃらきゃらと笑いながら教室を出て行く女子一同。
      あとには呆然とした顔で立ちすくむ十兵衛先生がただ一人……。



十兵衛先生:うおぉぉぉ!
        
バレンタインデーなんて!
        
バレンタインデーなんてぇぇぇぇ!!!

       私立三絃堂学園体育教師 幸安十兵衛。
       バレンタインチョコがもらえず、マジ泣き。





    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼ちゃむと十兵衛ちゃんの場合▼▼▼▼▼▼▼▼▼


       廊下の一角に机をお気、その上に何かを並べて売ってる女生徒二人。
       ちゃむと十兵衛ちゃんのスットコドッコイコンビである。

十兵衛ちゃん:ちゃむ殿はだれかにチョコを渡すでゴザルか?
ちゃむ:うん!お兄ちゃんにチョコバナナを渡すのだ!
十兵衛ちゃん:なるほどっ!
         拙者は古文のはんぞう先生に是非とも渡すでゴザル!


       おお!この二人にもこんな世俗的イベントに参加できる感性があったのか!

       ちなみにちゃむの兄は、ちゃむの言によると超絶カッコイイ男らしいのだが……、
       学校が違うせいもあってその姿を見たものは誰も居ない謎の人物。


       十兵衛ちゃんが言ってるのは、古文教師の羽鳥 公造(はとりきみつぐ)。
       通称はむぞう、またははんぞう先生と呼ばれている。
       故あって十兵衛ちゃんは彼の大ファンなのだ。


十兵衛ちゃん:……問題はチョコを買うお金がないことでゴザル。
ちゃむ:じうべえのお父ちゃんはお小遣いくれないのか?
十兵衛ちゃん:滅多にくれないでゴザル……。
         そもそも父上はバレンタインデーが大嫌いなのでゴザル。


       さもありなん。

十兵衛ちゃん:しかし!無い物は稼げばいいでゴザル!
ちゃむ:おお!
十兵衛ちゃん:この時期、もっとも需要の高い物品はチョコ!
          誰もが欲しているものを安く仕入れて高く売る!
          さすれば拙者ボロ儲けという寸法でゴザルよ!
ちゃむ:じうべえ頭いいぞ!!
十兵衛ちゃん:と、言う訳で拙者、無け無しの軍資金で安目のチョコを大量購入したわけでゴザル!
ちゃむ:やるなじうべえ!
十兵衛ちゃん:兵法の基本でゴザルよ!
ちゃむ:……。
十兵衛ちゃん:……。
ちゃむ:でもさっきから一個も売れないゾ?
十兵衛ちゃん:……おかしいでゴザルな……。

       ……その理由は?

しき:……売ってるのがチロルチョコでしかも100円なんて値段だからじゃないの?

       

ふらりと通りすがりにツッコむしきであった。

       ところで彼女は誰かにチョコを渡すのだろうか?
       ……彼氏いないっぽいし、もし居ても渡さなそうだな。しきの場合。





    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼りむとセレナとしずまるの場合▼▼▼▼▼▼▼▼▼

セレナ:しずまる!アンタに一言ゆーとかなあかんことがある!
しずまる:な、なんだよいきなり。
セレナ:最近な〜〜〜〜んかりむに慣れなれしくあらへんかアンタ?

しずまる:(ギクッ!)
        べ、別にそんなことないよ!。


       そんなことあります。
       この間りむとヤッちゃいましたから。


セレナ:言っとくけどりむからチョコが貰えるなんて思たら大間違いやで!
しずまる:え?
セレナ:なんせりむが今日チョコ渡す相手はウチやからな!
しずまる:……。

       そりゃまあ、絶句するしか無いね。


しずまる:セレナは女じゃないか…。
        なんでりむがバレンタインチョコ渡すんだよ。

セレナ:甘いで!
       愛は性別を超えるんや!
       りむはウチにもうメロメロなはずや!

       全面的に妄想です。

セレナ:もちろんウチからも渡すしな!
しずまる:うわゴツ!
        なんだそのチョコ!カバンサイズじゃないか!
セレナ:わかったら未練たらしく教室に居残ってないでさっさと帰り!
       時間のムダや!ムダムダ!
しずまる:そ、そんなのわからないだろ!
        本人が来てもいないうちからそんなこと断言できないだろ!!
セレナ:あーっ!やっぱりもらうつもりだったんやな!!
      上等や!りむがどっちにチョコくれるか勝負や!

しずまる:望むところだ!


       と、タイミング良くりむが帰ってきた。

りむ:お待たせー。トイレ掃除終わったよー!

セレナ&しずまる:りむ!
りむ:うわっ!?
セレナ:今日はどっちに持ってきたんや!?
りむ:へ?
セレナ:ほら!あれやあれ!バレンタインのチョコや!
りむ:ないよ?

セレナ&しずまる:……は!?

りむ:だって渡す相手いないもん。
     それにこの間バーチャ4買っちゃったからお金ないし。
セレナ:…………。
しずまる:…………。


       りむに、バレンタインなんかを気にかける甲斐性はないと言うことをすっかり忘れてた二人の負け。




    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼職員室にて右京先生の場合▼▼▼▼▼▼▼▼▼

右京先生:む?どうしました幸安先生?何を泣いているんですか?
十兵衛先生:な、泣いてなんかおりませんぞ!
         ……右京先生?その大きな手提げ袋は?
右京先生:はあ、女生徒からもらったバレンタインチョコです。
十兵衛先生:(ピクッ)!
右京先生:毎年の事とはいえ、ちょっとこの量は食べ切れませんな……?
       私の場合胃腸も弱い事ですし。

       かといって受け取らないと言うのも可愛そうですしね。
       いやはや。

十兵衛先生:………………。

右京先生:…………幸安先生?
十兵衛先生:うおおおおお!!
右京先生:うわっ!?




    ▼▼▼▼▼▼▼▼▼なことるるるとおまけにしくるぅの場合▼▼▼▼▼▼▼▼▼

るるる:はい那々子。
那々子:え!?
      これ、チョコ………ですか?
るるる:そうよ。高かったんだから。
那々子:あ、ありがとうございます。嬉しいです…!
      でも……。

るるる:あら、どうかした?
那々子:男の子の中尾さんが女の私にチョコをチョコを渡すって……。
       なんかヘンですね、うふふ。

るるる:あたし女の子だもん♪
那々子:あ、あははは。
しくるぅ:では自分も女の子なのでるるるさんにチョコをプレゼントであります!
るるる:あんたにしちゃ殊勝な心がけだわね…。
       ちょっと意外だわ。
       いいわよ。義理で受け取ってあげるわ。

しくるぅ:ハイであります!

       と、言いつつしくるぅがカバンの中から取り出したのは……。

るるる:……。
那々子:……。
るるる:……チョコエッグ?
那々子:しかも箱丸ごとですね…。
しくるぅ:はっ!
       できれば召しあがったら中のフィギュアを頂きたいであります。
       ブルテリアとウォルシュコーギーが出たら特に。
       これがかなりレアで。

るるる:………。
      あんたに一瞬でも感心したあたしがバカだったわよ!

しくるぅ:はぅぅ!
       な、なぜ首をしめるでありますか!?
       もしかしてるるるさんも「世界の犬」シリーズを収集中だったでありますかっ!?

るるる:そんなわけあるかっ!



那々子:(もう、中尾さんに先にチョコ渡されたら恥ずかしくて出しにくくなっちゃったじゃないですか……。)

       しくるぅをお仕置きするるるるを遠巻きに見つめる那々子であった。
       後ろ手に手作りチョコを隠しながら……。