”WAKE UP!”



    き〜んこ〜んか〜〜こ〜ん・・・・・・・

      ICUパシフィックジュニアハイスクールの朝は早い。
      何故ならば通称「遅刻坂」を越えればすぐの三弦堂学園からさらにひと区画先にあるからである。

      ………前もあったなこの書き出し。


りむ:ううっ!やばい!やばいよぉぉぉ!!またやっちゃったよぉぉ!

      校門の門柱の影で脂汗をだらだら垂らしながら嘆きの声を上げるりむの姿がそこにはあった。
      もはや状況の説明なぞ不用であろう。

りむ:そもそも月曜日の朝なんて人間には早く起きられるわけないよっ!!(断言)
     ふぇぇん!月曜日なんて無くなっちゃえばいいのに〜〜〜〜〜〜!


      余談だが昔アメリカで「月曜日がいやだった」と言う理由による無差別殺人という事件があった。
      そのセンセーショナルさ故に、それを題材にした歌まで作られ、ヒットしてしまったほどである。

      などとナレーションでうんちくをたれたところで、りむの苦境は全く変化しない。
      何せ、校門の向こうには金髪の悪魔こと、しゃる先生が待ち構えているに決まっているからだ。


りむ:ううう……しゃる先生怒るだろうなあ……。(笑ってるの見たこと無いけど)
     …………あ、あたし、今度こそ死んじゃうかな…………。
     そうしたらやっぱり冷蔵庫のシュークリームはおねえちゃんが食べちゃうんだろうなあ。
     あうう、出来れば死ぬ前に今週のジャンプが読みたいな。
     教室に行けば男子の誰かが持ってると思うけど、あたしは教室にたどり付く前に校門で果てちゃうんだ。(泣)
      ふぇぇぇん!あたしって不幸っ!!


誰か:何を校門の前でぶつくさ言っとるんだ。


りむ:ひああああ!びっくり!


      ひとりぐろぐろとネガティブなことを考えていたりむに声をかけたのは、岩山のような巨体の一人の男。
     りむの担任の矢木宇 半間(やぎうはんま)、通称はんま先生である。

りむ:は、はんま先生かぁぁぁぁ………びっくりしたあ〜〜。
     心臓が止まるかと思ったよぅ。



はんま先生:いかんなあ瑠璃川。また遅刻か?
        猿渡先生がこの場に居たら大変な事になっとるぞ。


      と、満面の笑みを浮かべながら説教をするはんま先生。
      仏頂面以外の顔を見たものの居ないしゃる先生とは対照的に、彼の笑顔以外の表情を見た事のあるものは居ない。

りむ:ご、ごめんなさひ・・・・・・。
     って、あれ?今日の遅刻チェックしゃる先生じゃないの?


はんま先生:猿渡先生は今日は体調不良で休みだよ。
      今朝は私が代役なんだ。


りむ:た、助かったぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!

      思わずへたり込むりむであった。
      そんなにしゃる先生がこわいなら遅刻すんなと言いたくなる所だが、鷹揚で温厚な事に関しては定評のある
      はんま先生はそんな事は絶対に言わないのである。


りむ:でも、あの頑丈なしゃる先生が体調不良で休みだなんて、珍しい……。


はんま先生:昨日は徹夜でコピー本作って即売会に出てたはずだからなあ。


りむ:はへ?


はんま先生:ああ、わからんでもいい。
        それより早く教室に行きなさい。
        遅刻ポイントは加算せずにおいてやるから。
りむ:わあい!!
     はんま先生これだから大好きっ!!

はんま先生:だが、注意はさせてもらうので放課後に職員室に来るよーに。


りむ:は、はいぃぃ。



      ************そして放課後の職員室************



はんま先生:うーむ、お前の朝の弱さには困ったもんだなぁ、瑠璃川。


りむ:うう、あたしも起きようと努力はしてるんですけどぉ……。
     なんてゆーかこー、あの二度寝の気持ち良さが〜〜〜その〜〜〜……。


はんま先生:いかんなあ。
        目覚し時計はセットしてないのか?


りむ:う〜ん、セットしてるんですけど……無意識のうちに止めちゃったりブン投げちゃったり壊しちゃったり
     してるみたいで……気がつくと沈黙してるんですよぅ。
はんま先生:ふむ、一応目覚し時計の音に反応して覚醒はしていると言う事だな。
        しかし、騒音だけでは完全に目が覚めないと言う事か……。
        刺激のパターンを変化させれば起きられるかもしれんな。


      さすが理系。ゴツイ外見に反して理屈っぽい。
      はんま先生はしばらく考え込むと、机の引出しから一個の目覚し時計を取り出した。


はんま先生:よし、瑠璃川。この特製目覚し時計をお前にやろう。

りむ:特製目覚ましって……。
     でもみたとこふつーの目覚し時計だよ先生?


はんま先生:それは外見だけだ。
        この超高性能目覚し時計を使えば、どんな深い眠りからでも必ず目が覚めるぞ。
        私が保証しよう。
りむ:はあ。

はんま先生:これを使えばきっと死人でも目が覚めるだろう。(おおいばり)

りむ:(………それはイヤだなぁ。)

はんま先生:まあなにも善後策を講じないよりはマシだと思うぞ。
        よし、もう帰っていいぞ。また明日な。

りむ:はぁい、失礼しまーす。


      
ガラガラ    ピシャン


セレナ:お帰りりむー。説教どやった?
      さっさと帰ろー。


      職員室の前でりむが出てくるのを待っていたセレナが歩み寄ってきた。

りむ:んー、まあことも無く終わったよー。
セレナ:まあ呼び出しゆーても、ホトケのはんま先生やもんな。
      しゃる先生のそれに比べりゃ。
りむ:で、なんか超高性能目覚し時計とやらをもらったんだ。
     騙されたと思って使ってみろって。
セレナ:へえ、ちょっと見せてみ。
     ……ん〜、ちょっと重いけど別に普通の目覚し時計やん?

誰かの声:それはわかんないよー?

      突然りむとせれなの後から一人の男子生徒が会話に割り込んできた。
      りむのクラスメートの久野 閑真(ひさの しずま)、通称しずまるである。
      外見はそのテの趣味のお姉さんなら一撃で参ってしまいそうな美少年だが、妙に大人びた(というかじじむさい)
      ところのある飄々とした少年である。

しずまる:はんま先生の趣味は発明なの知ってるだろ?

りむ:うん、今までにも自走型モップとか瞬間黒板消しマシーンとか作って持って来てたしね。

セレナ:それって床のリノリウムをかつらむきにしたアレと教室中をチョークの粉で銀世界にしたって言うアレかいな?
     うちはクラス違うから現場がリアルタイムで見れなくて残念やったわぁ。
しずまる:となるとその時計もどういう代物か想像つくだろ?

りむ:…………。

セレナ:まあ………簡単な推理やね。


      なんかいやーな予感がして来たり。

セレナ:ちょっと貸してみりむ。

      りむから時計を受け取ると、恐る恐るタイマーの時間を今の時刻に会わせて見るセレナ。


      
ジリリリリリ……カチッ!

しずまる:普通だなぁ。

りむ:普通だねえ。

セレナ:どこが高性能やねん。

     
カチッ!
    ピピピピピピ!カチッ!

セレナ:わ、びっくりした!
     さっきと違う音やん!それもずっと音でかいし。
りむ:へぇぇぇ。面白ーい。

     カチッ!

    ブイーンブイーン!カチッ!

しずまる:なるほど、止めるたびに音のパターンが変わって音量がだんだん大きくなるんだ。
       これなら何度かとめるうちに流石に目が覚めるよな。
       はんま先生、珍しくまともなもの作ったみたいだね。
セレナ:よかったやん、りむ。
      これで遅刻女王の汚名返上!?

りむ:よーし、これで寝る時間気にせずにゲーム出来るぞー。

しずまる:……いや、それはダメだろ。さすがに。




      ************翌朝************


    ギュオンギュオンギュオン!カチッ!

りむ:ぐ〜。


      お約束というか、5回目のアラームをマッハの動きで止めて再び眠り始めるりむの姿がそこにあった。
      寝坊の世界チャンピオンである。


      と、突然
目覚し時計がカタカタと動き始めたかと思いきや、その側面からクモのような脚と細いアームが
      ニョキニョキと生え始めたではないか!

      だが、二度寝(五度寝)に入ったりむはこの異常事態に全く気付いていない。


目覚し時計:目標依然睡眠状態
       タダイマヨリ 物理執行モード ニ ハイリマス


      律儀な合成音声を発すると、時計はごそごそとりむの布団の中に潜り込んで行った。

      ……………しばし沈黙。


りむ:ん〜〜…………。
     ……う……ぅん……あ……く!?
     ふぅ……ん……あ、やだ………そこ……はぅ…………あん!!
     く、くすぐった……あううっ!?


      ああああ、なんかたいへんなことに!
      スゴイ性能だ!(笑)


目覚し時計:目標依然睡眠状態 パワーMAX

りむ:あっやっ!だめっ!そんな……!!な、なにこれ!?
     め、め、目なら覚めたよっ!!!!
     だからやめ…………はっぅ!あん!あっああああっ!
     ダッダメェ!そ、そこはっ!ちょっと……!!
     ああっ!ダメだったら!それ以上したら入っちゃ……!


目覚し時計:目標依然睡眠状態 最終モード ヘノ カウントダウン カイシ

りむ:起きたっていってるのに〜〜〜〜〜〜!!
      たすけてーっ!!

目覚し時計:    5    4    3    2    1



    ちゅどーーーーーーん!!





      
      ……ペタ………ペタ…ペタ………

      チリチリ頭とコゲてボロボロになったパジャマというコントの様な姿でりむは1階に降りてきた。

なこ:あら、りむスゴイじゃない!こんなに早く起きるなんて!
りむ:…………………。
なこ:なんかスゴイ音がしたけど、あれが昨日先生にもらったって言う目覚ましの音なの?
りむ:…………………。
なこ:家が震えるほど大きな音だったからビックリしたわよ。
りむ:…………ねえ、おねえちゃん………。
   貞操と生命の危機を一遍に体験する事って、人生でそう何度も無いよねきっと………。
なこ:は?



      りむは口からぶほっと煙を吐き出すと、ぱたくし、とその場に倒れた。
      ……結局遅刻?